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衝動の天使達 2 ─戦いの原則─  作者: 水色奈月
Chapter #5
24/206

Part 5-3 Coping with Simultaneous Invasion 同時侵攻対処

In the Sky, Wawayanda State Park, NJ. 11:54

11:54 ニュージャージー州ワワヤンダ州立公園上空



 補助席の肩を右手でつかんでいたマリア・ガーランドは強張った顔を上げヴィッキーに命じた。



「ヴィク、寄ってもらう場所が出来たわ。ノース・ジャージー ウエスト・ミルフォード マーシャル・ヒル道路沿いのショッピングセンター近隣へ急行して」



「2分ほどでバレッドロードに着く。いいのか、チーフ?」



「ええ、構わない。先に人員の半数をそこへ投入します。ショッピングモールに近い空き地に短時間降下。下ろし次第、ここへ戻って」



 ヴィッキーはそれ以上問わずにわずかにシートから背を浮かし腕を伸ばして正面の統合型コントロールパ(ICP)ネルの液晶表示モニタ(LCD)上に指を走らせマリーが命じた該当場所を検索した。すぐにショッピングモールの俯瞰ふかん図が表示され彼女は最短ルートを設定する操作を続けた。



「アリス、あの化け物は作り物(フェイク)なの?」



 マリーに尋ねられ、少女は振り向き眼を丸くした。



「う──ん、わかんないや。見えるものを見てるだけだから」



「あのムカデの化け物を追尾(トレース)。いいわね」



 マリーはそう少女に命じてコクピットにきびすを返しカーゴルームへの階段を上り始めた。



「えーっ、あんな気持ち悪いの見続けるの!?」



 少女の抗議をマリーは背で受けて右手を後ろに振って却下しカーゴルームへ入った。左右の内壁に備えられた席に座る数人が指揮官の緊張を感じ取り顔を向けた。



「ロブ、あなたは14名を連れCR(Combat-Reconnaissance,/:威力偵察)を頼みます」



 もと英国陸軍特殊空挺部隊の中佐が顔を向け指揮官に尋ねた。



「敵は何ですか? テロリスト?」



 マリーはその質問に答えずかぶり振り、カーゴルームの操縦室寄りに座るミュウに命じた。



「ミュウ、アリスから『クリーチャー(・・・・・・)』のイメージを受け取り皆にブレインリンクで共有化」



 マリーに命じられミュウが問い返した。



「ばけもの? で・す・か?」



「そうよ。覚悟して見なさい」



 言い渡されたミュウはマリーから視線を外し、わずか2秒で息を吸い込みながら軽い悲鳴を漏らした。その声にさらに数人の兵士がマリーとミュウの方を見やり、直後(うめ)き声や驚きの声をマインドリンクした数人が漏らした。そこでマリーは手を叩き合わせ声を張り上げた。



 無理もないとマリーは思った。アリスが遠視(クレアボヤンス)しミュウが皆に見せた光景は、装備から警察SWATの隊員と思われる者達がクリーチャーに襲われている瞬間だった。SWATが懸命にM4A1カービンで応射しているのに怪物はひるまずに飛びかかり首から上を失った男らが多量の血を撒き散らし突っ伏した。



「聞きなさい! スージー、ポーラ、デイビッド、アニー、リー、ジェシカ、ジャック、ウォルト、マーカス、クリス、ヴル、コーリーン、ヴィクター。あなた達13人はロバートの指揮下、今見たクリーチャーの情報収集と被害が民間に拡大するようなら排除を命じます」



 STARS暫定(ざんてい)サブリーダーであるロバートを除き言い渡されたほとんどの者が困惑した面もちでいたが、赤毛のウルフカットの女が場違いな笑顔でいた。1人ジェシカ・ミラーだけが隠しきれずにニヤニヤしている。



 マリーが引き続き指示をだそうとするとドクター・スージーが質問した。



「マリー、我々の今日の装備はSCARーH STDです。あの場所はショッピングモールみたいでしたが、市街地で7.62ミリではコラテラル・ダメージ(:付随被害)の危険が」



 そうなのだ。7.62ミリライフル弾は薄いコンクリート壁も楽々に貫通するとマリーは思った。だが見た光景に過剰な火力だとは思えなかった。



「あなた達は私が見込んだ射撃と攻略のプロ。民間人への誤射は許しません。同時に見たとおりクリーチャーは5.56ミリ・ミリタリーボール(:近中距離軍用弾の1種)に拮抗きっこうし人に襲いかかっている──あなた達の身を護るのにSCARーH STDでも安全とは言い切れない!」



 クリーチャー対処を言い渡された者以外の兵士達も真剣な面持ちで聞き入っていた。



「場所に関係なく必要に応じDM51(:破砕手榴弾)とM18(:クレイモア対人地雷)の使用を許可」



 その条件に破壊兵器狂の女兵士が食いついた。



「ハイ! ハイ! ハイ! 少佐ぁ、俺もそこォへ行くゥ!」



 アンが大声の巻き舌で何度も片手を上げアピールした。それをマリーは睨みつけ却下した。



「アン、あなたは私とワワヤンダ州立公園へ来なさい」



 その無碍むげな指示にアンは眉尻を下げ口をだらしなく開き泣き顔になったが、マリーは無視して他の者への指示を伝えた。



「SWATが攻め入られたという事は、クリーチャーはあの大きな──グリズリー並みのガタイでかなり動きが速いと思われる。能力や習性が不明なためエミック(:電子擬態装備)に頼らず逃げ場所は確保し絶えず距離をおいて対処。間違っても近接戦闘(CQB)は禁じます。特にジェシカ! アンみたく撃ち込みながら接近戦に持ち込まない!」



 名指しで指摘されたにもかかわらず、それでもスターズ2番手のマルチ・ガンファイターはニコニコし続けて自分を指差し周りを見回した。マリーはそれに眉根をしかめ、間をおいて怪物への威力偵察を命じた者達へ言葉を繋いだ。





"Listen ! Crush it, keep it intact, and come home without dying !"

(:いいですか! 鎮圧し、無傷で、死なずに帰ってきなさい!)





 女指揮官がそう告げた刹那、ハミングバードが旋回降下に入りロバートが13名の兵士に命じた。



「準備! 装填!!」



 武器を準備し彼らが立ち上がると後部ランプが下がり始めて最初に見えたのは化け物が暴れまわっている問題のショッピングモール南300ヤード(:約273m)にあるウエスト・マイルフォード()という大層な名の小さな池だった。



 ファンネルが巻き起こすダウンウッシュの爆風の合間に悲痛なバンシーの叫びの様な電子サイレンが幾つも重なり聞こえてきた。



 民間軍事企業兵士達14名が足を踏み入れる事になる敷地に地獄の光景が待ち構えているとは、この瞬間誰も想像しなかった。











 14人の部下をマーシャルヒル・ロード24に残してワワヤンダ州立公園へ引き返すマリーは、さらに厄介な事態が待ち構えているとは思いもしなかった。



 同時2状況対処を強いられ、彼女は訓練施設に出している新規の第2中隊を呼び戻すか悩んだ。兵士上がりの者が多い部隊だったが、まだ3週間の訓練でチーム連携が成り立っていないのは承知していた。



 直接対処にあたる12名を引き連れマリーは州立公園で謎の兵器を使用している敵に足りるだろうかと思った。同時に部下から受け取った装備を点検しながら、自分が前線(EOL)に立ち続けないといけない状況を危惧した。



──その作戦に貴女がおもむくべきでないと助言いたします──。



 シリウスの言葉が心に引っかかった。これ以上、厄介事が起きない事を彼女は切に願った。



「ミュウ」



「ハイ、チーフ」



「ショッピングモールにおもむいた彼らのサポート優先」



「でも、チーフ。私、両方こなせます」



「いいえ、あなたはショッピングモールの14人へマインドリンクだけでなく、ビジュアルな情報も提供してもらいます。私達が行く場所では無線を中心に皆に指示を出しますから大丈夫。でも状況に応じてモールの事を私に報告して」



「わかりました、マム」



 ミュウが笑顔でうなづいた。それを見てマリーは少しだけ安心した。超感覚でサポートできる3人のうち1人が欠けているのだ。この同時作戦では特殊部隊1年生のミュウが頼りになる。だが頼りのテレパシストは遠視能力(クレアボヤンス)の力を併せ持つ代わりにパティと違いその能力が及ぶ範囲が極度に狭かった。



 ショッピングモール近隣に下ろしてくるべきだったかと迷ったが、護衛もいない状況下に特殊なこの娘をおいてくる事はできなかった。



「チーフ!」



 コクピットから大声でヴィッキーが呼びかけマリーは装備をミュウの傍らに置いて操縦室へ急いだ。



「どうしたの!?」



「まずい。聞いていた状況と違う。あれはブラックホークの残骸だ」



 マリーがキャノピィ越しに前方を見ると林の間から立ち上る黒煙の下に横倒しになったUHー60のテイルコーンとスライドドアが一枚見え、散乱した残骸にはまだ火の手があった。



「ヴィク! サウンド・ブラックホール(:音響ステルス)とエミック(:電子擬態)!」



「もうやってる! それでもこれ以上接近するのは問題だ。ダウンウッシュが土埃つちぼこりを巻き上げ木々を揺らしてバレてしまう! 相手は対空兵器を持ってるんだ!」



「ここに降下!」



 マリーは機長にそう命じてカーゴルームへの階段を駆け上がり12名の武装兵士に声を張り上げた。



「武装総員、降下準備! 降りて直後セル(:作戦人員最小単位)単位で散開! 降下地点(RZ)から急いで離れなさい!」



 怒鳴りながらマリーは呆れかえった。





 アン・プリストリが片(わき)に2本抱き上げ、背に2本、併せて6本もの対戦車ミサイル・ジャベリンの輸送ラウンド・チューブを身に着けていた。併せて400ポンド(:約181㎏)以上もあるのに平気な顔で立っている。







 いいや、平気な顔をしてこめかみに青筋を浮かべていた。



 傍らに同じセルのケース・バーンステインが携行袋に入れられた照準ユニットを6つも持たされ苦笑いしながら立っていた。











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