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衝動の天使達 2 ─戦いの原則─  作者: 水色奈月
Chapter #5
23/206

Part 5-2 Spines Armor 棘の鎧

FMC(/Federal Medical Center) Devens, Town of Harvard Worcester County, Mass. 11:55

11:55 マサチューセッツ州ミドルセックス郡 連邦刑務所局デベンズ連邦医療センター



 このような人が何を考え、それを触媒しょくばいに欲望をどのように爆発させるか知っていた。



 いいえ、知っているのではない。



 それが自分の性癖のように感じるほど身近に経験していた。



 パトリシア・クレウーザは犯罪者の心根の異常さを何度ものぞき、自分自信が行ってきたように感じるほどの過去を持っていた。



 だが、目の前でローラ・ステージがテストを行うカエデス・コーニングはまったく異質だった。



 彼は連続殺人を行い連邦法により死刑が確定していながら、それをまるで他人ごとのように感じていた。パトリシアは男がどんな風に皮膚をがすか、その技巧を職人のように意識していることに驚き、さらには自分との距離──接見室という部屋での距離ではなく、もっと別の場で手を伸ばし髪を鷲掴わしつかみにして刃物を振るう手段を吟味していることに、正直不安を抱いた。



 皮膚をがされたり、殺されるという不安ではない。



 皮膚の下にある心に犯し踏み込むという、まるでテレパシストのサイコダイヴと変わらない感覚。



 何がそこまで強い意識に結びつけてるのだと、少女はカエデスの心の核心に分け入ろうとして2度失敗した。



 まるでいばらの塊の中に男のアイデンティティがあるみたいに踏み込めない。



 特殊な能力なのだろうか──ミュウ・E・サロームお得意のマインド・ステルスとは違う。



 確かにそこにあると知りながら入って行くことの出来ない歯がゆさ。



 どうして思考の中の深い部分に入ってゆけないのか理解できずに、とりあえず、1度この男から離れないといけないとパトリシアは感じてローラに部屋を出たい──男の視線から逃れたいと申し出た。



『パティ、カエデスはあなたに危害を加えたり出来ないわ』



 ローラの思考を読み取り、確かにそうなのだがと少女は戸惑った。むしろ退出した後の方が危険だとどうして思うのだろう。



「私1人が部屋を出るから、ローラさん、男のテストを継続して────」



 わずかに振り向いたローラがうなづき2人いる看守に声をかけた。



「同僚が化粧室に行きたいの。部屋から出して下さる?」



 カエデスの左後ろにいる看守が直ぐに左胸に付けたハンドマイクを手にとりB接見室の接見側外扉を開くようにどこかへ知らせた。大して間をおかずパティの背後のドアのデッドロックが作動した音に、少女は安堵あんどして立ち上がると部屋を出て後ろ手に扉を閉じ再びデッドロックが作動し施錠された。



 パティはドアに背を向けたまま、連続殺人鬼の意識に今1度ダイブを試みた。











 カエデス・コーニングは2人の捜査官のやり取りをじっと聞いていて、変だと気づいた。



 俺の裁判に出廷したローラ・ステージFBI捜査官と若すぎるもう一人の捜査官らしい女。



 若い方がいきなりステージ捜査官のひじをつかみ「部屋を出たい」と言い出したのは、若い方の皮膚をどこからどれくらいずつがすかを8通りほど考えた時だった。





「部屋を出るから、ローラさん、男のテストを継続して────」と若い方が繋げて、いきなりステージ捜査官の方が看守に「相方が化粧室へ行きたい」と頼んだ。





 『部屋を出たい』から『部屋を出るから、ローラさん、男のテストを継続して』としか言ってないのに、ステージは『同僚が化粧室に──』。



 まるで心を通わせているように、間の会話が存在するようだと彼は思った。



 ステージが同僚のように装ってはいるが、あの若い女は捜査官なんかじゃない。



 何のためにやって来た?



 俺を観察するためか?



 接見の会話には加わらず、ステージの後ろからただじっと見つめていた。



 見透かしたように──俺が皮膚をがし心の中をのぞくように。



 まあいい。



 あの少女の皮膚をめくり尋問すれば済むことだ。



 他の女らのように。



 だが彼は、目の前の捜査官に1つかまを掛けてみるか、と決めた。



 カエデス・コーニングはそのあと30あまりの質問に適当に返事をしカウンセリングの終了を言い渡されると目の前の捜査官に言い放った。



「ローラ・ステージ──」



「何かしらカエデス?」



「くだらない質問で俺の心の表面でも見えたら拍手するぞ。お前は俺の影すら見ることができない。お前より、あの少女の方が良いカウンセラーだ。俺をのぞいていたからな」



 彼はデスクの向こうに座る女捜査官が冷ややかな目つきになったのをじっと見ていた。図星だ!



のぞいていた』という言葉に反応しやがった。



 ならあの少女は俺の中をのぞけたのか?



 FBIが難事件解決に使うと噂される霊媒師!? 超能力者!?



「カエデス、私はカウンセラーじゃないのよ。連邦捜査官。あなたの治療でなく、分析に来たの」



 そんなことはどうでもいいとカエデスは思い、切り返した。



「あの少女に言ってやれ」







「俺の中には入れさせやしねぇ」







 そう言い放ち彼が立ち上がりローラに背を向けた。扉の左右に立つ2人の看守がカエデスからローラへ視線を振り視線でもういいのかと尋ねた。



「今日はこれで終わります。彼を戻して」



 看守の1人がハンディ無線機のマイクで接見終了を告げているのを聞きながら、ローラは万年筆をスーツの内ポケットに仕舞いファイルをブリーフケースへ戻し立ち上がった。



 彼女は部屋から連れ出される連続殺人鬼の首筋を睨みつけ、男の言ったことの意味を考えた。



 パトリシアの方が良いカウンセラー? 俺をのぞいていた?



 カエデスはパトリシアの能力に気がついたのだろうか?



 ありえない。





 わかるはずがない。











 カエデスは収容者側のドアから通路に出る間際にふらつき半開きのドアへ肩をぶつけ腕を振り上げた。囚人が転倒しないように慌てた2人の看守が彼を支えようとした。



 その腕を振り切りきびすを返した男は室内に駆け戻り、手錠のかけられた両手の拳をデスクに叩きつけた。







「聞け! ローラ・ステージ! あの少女を生かしたままいでやる! お前の目の前でだ!」







 2人の看守から肩と腕をつかまれ、机から引き離された連続殺人鬼がそでの内にドアのプレートを隠したのを、3人とも気がつかなかった。



 ローラ・ステージが部屋を出ようと接見側ドアを開くとパトリシアが背を向けて立っていた。



「大丈夫よ、パティ。今日の接見は終わって奴は戻されたから」



 いきなり振り向いた少女が眉根に力を込めしわを刻んでいた。









「大丈夫じゃないわ。あいつここを出る気でいる。絶対に出れると思っているわ!」











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