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衝動の天使達 2 ─戦いの原則─  作者: 水色奈月
Chapter #4
21/206

Part 4-5 Aiming 照準

Barrett Rd. Wawayanda State Park North-Jersey NJ., U.S. 11:45

11:45 合衆国 ニュージャージー州 ノース・ジャージー ワワヤンダ州立公園 バレット・ロード



 平坦な地の林の頭上を高度100フィートで飛翔する2機のブラックホークはニュージャージー州兵の第1飛行隊第102騎兵連隊に所属するRSTA(Reconnaissance, surveillance, and target acquisition/:偵察・監視・目標捕捉)で本来は別部隊に先行し威力偵察が行えるアメリカ陸軍傘下の少数空中機動部隊だった。



 彼らキャビンに搭乗した12名の小隊はニュージャージー州知事の要請により、警察の手に余る火器を使用する犯罪者へある程度の兵力で対処するために、他の42歩兵師団をどの程度投入する必要があるかの判断要素となる事前偵察と可能なら武力制圧を命じられていた。



 ニュージャージー州には陸軍をサポートする州兵しかおらず、戦闘支援車輌としてハンヴィがあるだけで、残りはヘリボーン(:空中機動部隊)の兵科だったが、偵察部隊であるRSTAですら対戦車戦闘が行える火力を携行していた。



 最後に入った連絡では、容疑者は民間と警察車輌を対戦車兵器の様なもので攻撃しており、十分な用心を持ってこれに当たるようRSTA指揮官である中佐から言い渡されていた。



「レンフィールド少尉(2LT)、敵はテロリストでしょうか!?」



 ローターの爆音に負けないよう身を乗り出し大声で尋ねるキングスコート上等兵(P F C)に向かいダリル・レンフィールドは両耳に人差し指を突っ込み顔をしかめた。



「テロリストですか!?」



 ハドリー・キングスコートがあらん限りと思われる大声を出した。直後、横に座るイーサン・コーベット 伍長(C P L)がハドリーの迷彩カバーを付けたACH(:高性能戦闘用ヘルメット)を殴って怒鳴った。



「うるせぇ、ハッド! それを俺達が調べるんだろうがぁ!」



 ずれたヘルメットを直しながら、今度は 伍長(C P L)にハドリー上等兵は尋ねた。



「敵さん、対戦車兵器ですよ! 撃たれたらひとたまりもないじゃないですか!」



「馬鹿やろう! 携行ミサイル(P A T M)は銃弾と違って飛んで来るのが見えるんだ! 全力で横に逃げろ! そうすりゃ助かる!」



 そこへ 伍長(C P L)の反対側に座るシリル・カンバーバッチ1等兵(PV2)が口を挟んだ。



「うそぉですよCPL! 俺、ジャベリンが命中するずっと前に見失うんですよ! イラクで遅いって云われてたRPG(:旧式携帯対戦車擲弾発射器の一種)撃たれた時ですらわからなかったんですから!」



「お前らに向かって来るんだぁ! 正面見てりゃ、見えるだろうがぁ!」



 左右に顔を向け応襲する 伍長(C P L)にまたハドリー上等兵がこぼした。



「見えた時には遅いじゃないですか! 20ヤード離れたブラッドレーに命中した時にですら死ぬと思ったんですよ!」



 こいつらは──とダリル・レンフィールド少尉(2LT)が思っていると、前席の間から右に座るパイロットが顔を振り向け彼に声をかけた。



「あと3分で戦闘地帯(F L)に着きます。降下地点(R Z)はどこを選びますか!?」



「あそこは州立公園だ! 木以外の掩蔽えんぺい物がないから、車の残骸から200ヤード(:約183m)離れた場所ならどこでも構わん! 下ろす前に遠巻きに周囲を1周してくれ! 状況を空中から見たい!」



 機長が頷いて前を向き左手で握るコレクティブ・スティック・グリップをわずかに下ろしながら、減速で持ち上がる機首を抑えるためサイクリック操縦桿そうじゅうかんをやや左前方に押し出し、同時に左ペダルをゆっくりとハーフまで踏み込んだ。



 それでもUHー60ブラックホーク・ヘリコプターは急激に頭を左へ振りながらわずかに高度を落とした。僚機りょうきは、先行する機体のメインローターが生み出す乱流を避け、1テンポ遅らせてラインを外に取り旋回に入った。



 そうして2機は1度左に旋回し途中で右に切り返すと、機長席を現場へ向け林の先にあるバレッド・ロード上に登る黒煙を右手に見ながら時計周りの旋回に入った。



 その旋回に入った瞬間だった。



 道路の煙から離れた場所にフラッシュのような発光が広がり、その中心からヘリへ目掛け、数条の光が凄まじい勢いで駆け上って来るのが見えて機長が叫んだ。



「右前方! 対空ミサイル!」



 一瞬で左に切り返し林の頭上に逃げ込もうとする先行のブラックホーク後方で、後続機のパイロットが迫り来る白い光に気がついた須臾しゅゆ、機上2基のターボシャフト・エンジン間のメイントランスミッションが多量のパーツと破片を吹き上げ、メインローター2枚の隣り合ったメインローターハブとバイフィラーを打ち砕いた。



 ブレード2枚が一瞬で外へ吹き飛び、偏心したローターにシェイクされるように振り回されながら後続のブラックホークは横向きになり樹木に突っ込み一気に地上へ落ち土埃を吹き上げ追いかけるように火焔が膨れ広がった。



 樹上すれすれを低空で旋回するキャビンのスライドドアの窓からその爆炎を眼にしたダリル・レンフィールド少尉(2LT)はミサイルが駆け上がって来た発射点を眼で追いながら、イーサン・コーベット 伍長(C P L)へ怒鳴った。



対戦車戦闘(A T B)! 用意!」



少尉(2LT)! キャビンからですか!?」



 驚き問い返した 伍長(C P L)少尉(2LT)がさらに怒鳴った。



「8人()られて引き下がれるか!」



 4人の兵士にジャベリン用意を命じようと振り向いた 伍長(C P L)はすでに円筒形搬送コンテナから引き出された対戦車ミサイルのLTA(/Launch Tube Assembly:発射筒(ラウンド))に、BCU(/Battery Coolant Unit:電源冷却器)を取り付けCLU(/Command Launch Unit:照準ユニット)を組み付けようとしている兵士らに顔をひきつらせた。



 強張った顔で作業を見やったコーベット 伍長(C P L)は、右のスライドドアが開かれ、反射的に左側の扉に跳びつくと解放レバーを回しスライドドアを乱暴に開いた。



「機長! 離せ! 至近距離だとこの機も落とされるぞ!」



 敵射撃地点へ顔を巡らせ続ける少尉(2LT)に怒鳴られ、機長が危険なほどの空中機動(マニューバ)をかけると急激に反転したブラックホークの左降着装輪が木の枝を引っ掛け千切りダウンウォシュ(:メインローターが生みだす気流によって急激に沈降する範囲)に巻き込まれバラバラに吹き飛んだ。



 両側から巻き込む爆風の中で、照準器を発射筒左に取り付け終わりの両方のグリップをつかみ発射筒(ラウンド)を肩に担ごうとしたキングスコート上等兵へコーベット 伍長(C P L)が怒鳴った。



夜間照準モード(N V S)へ入れるな! 照準器(C L U)が壊れる!」



「イエッサー!」



 大声で返事をし床に片(ひざ)をついて対戦車ミサイルを肩に担いだキングスコートが右へ振り向いた。



「ABM(:対塹壕(ざんごう)照準モード)!」



「イエッサー!!」



 少尉(2LT)が命じ、キングスコートがサムスイッチでモードをストレート・アタックに切り替え大声で返事をし、 伍長(C P L)が彼の左耳に顔を近づけ警告した。



「バンカー攻撃(アタック)モードになってるか、ハッド!?」



「イエッサー、 伍長(C P L)! 直線攻撃(D I R)点灯(グリーン)! 敵はどこですか!?」



 キングスコートが問い返した直後だった。



 林の間の道路の黒煙立ち上る延長40ヤード(:約36.5m)西の木々の間にまたフラッシュのような発光が広がった。



「道路黒煙西40! 距離(レンジ)200(:約183m)、0400方向だ! 撃て、ハッドリー!!」



 ダリル・レンフィールド少尉(2LT)が指差し怒鳴った直後、発光の中心から2条の光柱が駆け上って来るのと同時に発射筒(ラウンド)内のFGMー148発射ロケット(ランチ・モーター)が爆炎を吹き出し、コールドランチされた対戦車ミサイルが一気に10ヤード先まで飛び出しながら、一瞬で成形炸薬(S C H)周囲の6枚の安定翼が前から立ち上がり、後部サステーナ噴射口周囲で4枚の操舵翼が前方へ向かい跳ね起きた。



 同時に飛翔サステーナが点火しミサイルはわずかに後部を落とした形で発光体中央へ向けての直線から56フィート(:約17m)まで上昇し、そこから転じて一気に指示された200ヤード先の敵目掛け加速しだした。







 その下をかいくぐるように対向してきた2条の発光が恐ろしい速さですれ違った。











 人の放つ小さな投射物を幾つもの魔法壁で防ぎながららちがあかないとシルフィー・リッツアが爆風で人をぎ払おうと魔法呪文詠唱(えいしょう)を始めた時だった。



 開けきった枯れ草だらけの草原の方から、まるで強風ではためく旗が打ちつけるような音が聞こえ始め、彼女は長い耳をわずかに持ち上げ顔を振り向けた。



 地上近くの空中に小さく見えてきた二つの黒点が徐々に大きくなるにつれ、シルフィーは眉根を寄せた。



 飛竜か!? 違う! 翼を羽ばたかせていない!







「何だ!? あれは──?」







 黒に近い濃厚な灰色をした醜い形の鳥──鳥と呼んでいいのか迷ったが、明らかにこちらへ向かって来ていた。



 直後、彼女は人が増援に飛行生物を寄越したのだと思った。



 あれも人に使役する鉄のよろいを身につけた魔物なのか!?



 シルフィー・リッツアは2つの飛翔生物をにらみつけ、唱えかけていたエアリアル系術式を雷獣精霊との盟約術式に切り替え高速詠唱(えいしょう)を口ずさみ始めた。



"Börn hinna hugrökku cumulonimbus, Hamarinn úr járni til að rífa loftið af útblásturslofti og Áhrifasvæði, Geymslur dýrin í þrot...Gefðu mér blað með lýsingu !!"

(:たけりし積乱雲の申し子、発光と衝撃により空気を引き裂き万物へ下す鉄槌てっつい、雷獣ヴォルトよ──雷光の刃を我に授けよ!!)



 エルフの足元に空気をうならせあお白い2重の魔法陣が広がると、彼女が生み出している魔法障壁の前で放電する球体が拡大した。



 竜の小手で護られた右手首を振り上げ、下から手首を返し人差し指を2つの飛んでくる魔物へ向け、残りの指を開いた。







 寸秒、雷球からほとばしった稲妻が鞭打つようにしなり数条の雷撃の矢となると、激音を上げ直後一気に空中にいる魔物へ突き進んだ。











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