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衝動の天使達 2 ─戦いの原則─  作者: 水色奈月
Chapter #1
2/206

Part 1-2 Hostage rescue strategy 人質救出作戦

România Ploiești suburbie Pădurea Zona 25 octombrie 2018

(/Ploiesti Suburban Forest Area, Romania Oct 25 2018)


2018年10月25日 ルーマニア プロイェシュティ郊外森林地帯




 低く垂れ込める暗い雲の流れから、深い緑の森が足早に流れ、その先に雨に濡れそぼる古城が見えてくる。その城壁が急激に拡大してゆくと、城壁屋上の通路中央門衛棟の前で雨具をまとった人影へと落ち着いた。



 直後、その視界は男の姿が巻き込まれるように回転し頭上から遠ざかると上昇し離れ始める。その光景の中にほのかな緑の直線と曲線のシルエットが入った。その一端が男の頭に振り向けられ、急激に迫り始めた。





 鼻の下からあご周りに白髪混じりの濃い灰色のひげを生やしたサングラスを掛けた男の顔が雨具のフード下からのぞいていた。その男は陰鬱な風景へ視線を向け忠実に職務を果たしている。



 男の前で重なる雨具の隙間からアサルトライフルのバレルが斜め下に突き出し、武装警戒についている事が容易に想像できた。



 その斜め後ろの5ヤードと離れてない空中で一瞬、降りくる雨粒がいきなり切り取られたようにワイヤーにつかまる人影として浮きでた。それが消えた直後、警戒にあたる武装した男の口元に後方から半透明の手が回され口を塞ぐと、武装した男が反射的な動きを見せる前に雨具越しに後頭部が殴られ、男が力なく四肢を弛緩させた。その身体が急激に後ろへ引きずられ、門衛棟の横陰に引きずり込まれ姿を消した。





 誰もいなくなった城壁通路の空中に次々にほんの一瞬、雨粒がラペリング降下をしてくる幻影を浮かび上がらせる。雨の降りしきる石畳の城壁通路に次々に足の形で水飛沫(しぶき)が駆け、門衛棟のドアがいきなり開いた。



 その出入り口際に電子光学擬態(エミック)を解除した人が浮かび上がった。全身に密着した艶消しの黒(マットブラック)の戦闘服に身を包み、顔は被った同色のフルフェイスガードに覆われうかがい知る事ができなくとも、手にするサプレッサを装備した小型のサブマシンガンFNーP90Evo4がその黒い戦闘服を着た兵士を城の持ち主に歓迎せざる客だと物語っていた。その兵士が城壁通路へ視線を向けた刹那、再び薄暗い風景に姿が溶け込んだ。





 液晶に映し出される鮮明なビジョンに様々な補足データーがうごめいていた。城内に踏み入り最初の曲がり角先をサウンド、サーマルとエアー・モーション・センサーが沈黙を表示した。



 PDWの銃口を急激に振り向けながら、液晶モニターにそのアッパーレシバーのシルエットがほのかな影として流れ、視界はブロック石材でできた内壁を曲がり20ヤードほどの通路にでた。通路には3つの出入口があり、そのどれもにコーションマークが立たず3マン・セル(3人一班)の姿見せない兵士たちは急激に階段通路を攻略しながら、曲がり角や、通路の要所ようしょにセンサーやトラップを仕掛けながらベルフリート()を目指すセルと居住区を浸透攻略するセルに別れ、遭遇する武装した男女を気絶させてまわった。





 状況開始(ローリング)わずか5分で、ベルフリート()の一室のドアの鍵が撃ち抜かれ開かれた。



 一室しかない部屋の奥に据え付けられた簡素なベッドに腰を下ろしていた恰幅かっぷくのよい中年男性が怪訝な顔を上げると、階段通路から二人の兵士が実体化したまま素早く部屋に入り込み、マズルを振り向け部屋の四方やドア陰をチェックし、三人目の兵士が入って来るなり、フェイスガードを引き上げた。





「オルビー国務相大臣、お迎えにあがりました。さあ、急いで!」





 国務相大臣と呼ばれた男の顔が歪んでかぶり振られた。





「君はNDCのマリア・ガーランド! 無理だ! わしはここから出られん!」





 そう言ってオルビーが右手を突き出した。その手首には指2本分の幅の銀色のリングが回されており、その表面で赤いLEDが揺れ動き輝いていた。



「承知してます。1分で解除させます。動かないで」





 マリーは顔を通路に振り向け部下の名を呼んだ。





「リー! 爆発物解除!」





 即座にリー・クムがP90を太股ふともものホルスターに差し入れ、小型のバックパックを肩から下ろしながら入って来てフェイスガードを引き上げた。その中国人の細められた瞳と口元がにやついている事に大臣は思わず身構えた。





了解(コピー)、チーフ! 部屋の中の皆さん一蓮托生(いちれんたくしょう)だね」


 ニヤついたリーが言った直後マリーは彼の後頭部をパンとはたいた。










 城壁屋上で一人のポンチョを羽織った男が門衛棟の傍らにノビている仲間を見つけポンチョの内から小型無線機を取り出し、トークボタンを押し込もうとした瞬間、いきなり空中から現れた2つ連なった半円形の輪を手首にはめられそれが一瞬で閉じられた。



 男はそれが何か見覚えがあった。拉致した大臣の手首にはめられた小型爆発物。男が見つめるその輪の表面に緑から黄色の細い光が浮かび上がりそれが赤い光に繋がると電子音が鳴り響いた。



 直後、男は広がった爆轟に手首を失い倒れた。






 アサルトライフルの銃声が追いかける事もなく城壁屋上通路へスターズの兵士たちが大臣をガードしながら駆け込んで来るのにあわせて、実体化していたハミングバードが後部ランプゲートを下げた状態で急激に降下して石畳に接地させるとホバリングを開始した。



 パラス(居館)ベルフリート()へ銃口を向け警戒に当たっていた最後の四人がランプを駆け上がり切る前に4基のファンネルが仰角角度を急激に変えながら、ハミングバードは恐ろしい速さで加速し城から離脱し始めた。





 その機影が低い雲に呑み込まれる直前、エミックを使用し雲の模様に溶け込むと、激しいダウンウッシュで雲をかき乱し逃げ込んだ。











☆付録解説☆



☆1【FN-P90 Evo-4】FN社のPDWという比較的新しいジャンルの小型火器です。5.7x28mmサイズのライフル弾を縮小したような鋭利な高速特殊弾を使用する実在サブマシンガンですが、Evo4とはエボリューション4という第4世代を意味するNDC発注の架空ヴァージョンです。












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― 新着の感想 ―
[良い点]  状況を直接的に描くのではなく、多角的に描いている点。 [気になる点]  p90をホルスターに差す、と表現されていますが、p90小さくないですか? [一言]  頑張ってください
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