Part 39-3 Collapse Space 崩壊空間
BGMに"When Johnny Comes Marching Home"♪などをお勧めいたします(ФωФ)φ
Central Atlantic Ocean Time 20:03 GT-21:03/
C.O.O. office NDC HQ Bld. Chelsea Manhattan NY., USA 18:05/お
1st Battalion Exercise Area 77th Armor the 4th Brigade "Highlanders" 1st Armored Division FORSCOM USARMY Fort Bliss’ Southern Orogrande Range Camp TX., USA 16:19
グリニッジ標準時20:56 現地時刻19:56 大西洋中央海域/
18:05 合衆国ニューヨーク州マンハッタン チェルシー地区NDC本社ビル社長室/
16:19 合衆国テキサス州フォート・ブリス オログランデ・キャンプ南部 アメリカ陸軍総軍第1機甲師団第4旅団ハイランダーズ 第77機甲連隊第1大隊の演習地
Mod7CBASSキットの真骨頂。
悪条件下での音響処理の巧さ。
深海での上へ一方的に伝搬する音波を捕らえてなお、その音源定位を仮想化し複数の標的を平行予想し、必要とされる異なる雷撃命中座標を多重化逐次処理で導きだす。
4基の潜水艦運用大型魚雷Mk.48は、優れたアーキテクチャによりそれぞれ同じ有線誘導を受けながらその僅かな位相差から異なる視点でロシア製超大型魚雷への対命中角度を導き出していた。
1基目の爆轟バブルパルスを避け確実に2基目、3基目が食らいつく。
金属を派手に軋ませるバンシーの叫聲を上げ反響定位をミリ秒の鼻の差で仲間に抜きんでた右下のMk.48は一気に詰まる距離に雷撃命中座標へのカウントダウンを目まぐるしく行った。
弾頭の複数の電磁誘導デバイスは強力な磁束線を前方周囲に展開し中立帯を生みだす。そこに艦艇の金属が侵入する事で誘導電流を生み出しその船殻特有の位相パルスを拾い上げピークのスレシホールドに合わせシュミットトリガーが信管に加電する。
だがポセイドンの微弱な誘導電流が裏目に出て、その先陣のMk.48は巨体の傍らを通り越し40ヤード右下でHBX主体の合成爆薬がTNT爆薬のトラウルズ値1.8倍──秒速2万7千フィート余りの威力で荒れ狂うバブルパルスを生みだした。
雷尾を激しく持ち上げられた20万ポンドの超大型魚雷はそのシーカーに搭載された重力加速度センサーで急激な挙動を拾い上げ、加速度の積分値が単位時間の基準を越えた事で攻撃回避モードに入り、加速しながら急激に潜行右舷転舵を行った。
その右舷側に3番目のMk.48がドロップしながら食らいついた。
30ヤードの至近距離で発生したバブルパルスはポセイドンを左へとキックしたが、側方投影面積の少なさと右への転舵が超大型魚雷に味方し雷尾を左舷に大きく振り蛇行しながら2つ目の嵐を切り抜けた。
だが2度に渡る凄まじい破壊力は、62立方メートルの外殻を歪ませ溶接接合部に1ミリに満たない亀裂を生みだした。
標準大気圧では何ら問題のない僅かな亀裂は水深800メートルの水圧を受け内部にウォーター・カッターの様な鋭い海水を噴き出した。複数のセンサーが浸水箇所と水位を制御系へと報せ、ソフトウェアは作戦不能距離と弾頭効果範囲を比較し現在地座標からでも実行可能だと判断した。
その刹那、左舷と上部で同時に2基のバブルパルスが襲いかかり2M39ポセイドンは緊急起爆モードを選択した。
ダイオードが450ワット811nmのコヒーレント光を光ファイバーで半径40センチの球体を内接する20面正立方体の各正三角形の重心に差し込まれた2本20組のスラッパー・デトネイタへ送り込み内部で微小なプラズマを産むとデトネイタ内のブースター・ペレットを全誤差100ナノ秒で起爆させた。
40の衝撃は均等に球状に仕切られた合成爆薬オクトゲン200キログラム余りに秒速9120メートルの爆発を伝播させ内と外に1000分の740ピコ秒で膨大な1280メガ・ジュールの熱圧力を発生させプルトニウム239を爆縮レンズ効果で一気に圧倒した。
膨大な電磁波と1億3千万ケルビンの高温高圧ガス、中性子がダンパー内のフォグダムプで一瞬蓄えられセカンダリー・プッシャーケースの6重水素リチウムに一斉に襲いかかった。
衝撃波の端緒。
嵐夜の暗闇に差し込んできた耀き。
まるで見つけた灯台────円筒のランタン。
一瞬の単位が秒をどれほど細分化したかの尺度が意識に及ばなかった。
マリア・ガーランドは息を吸い込んだままヴィクトリア・ウエンズディの座った操縦席の背もたれにつかんだ指を食い込ませた。
枚挙に遑がない変数の大群の一点から、まだ理解及ばぬバビロニアの記数法すら足元にも寄せつけないものが立て続けに桁を繰り上げてゆく。1点で始まったドミノ倒しが一斉に3次元に波及する。それが悪性のウイルスの様に見る間に周囲の変数を変え始める連鎖。歪みはより上の次元にまで波及し始めている。
何が始まったの!?
これは何なの!!??
疑念と困惑に揺さぶられる寸秒、操縦パネルの液晶表示が端からゆっくりと変わり行くのに彼女は気づいた。船殻を通し聞こえている微弱な甲高いキャビテーションすら緩く極めて低い波長に変わっていた。
時間が遅くなっている! それなのに意識は変わらない!
今、ヴィクトリアとシルフィー・リッツアに話しかけても私の声は際限なく甲高く2人に理解できない予感があった。
パトリシアが言っていた外の世界の敵が一瞬意識に過る。既成の法則を凌駕するものらが攻め込んできた!?
違う! 想定外の技術を目の当たりにするとき、もっと鳥肌立つだろう。だがこれは理解の範疇にある。変化の波は恐ろしく速いがそれを意識するほどに連鎖が遅れ始めた。
変化──急激な変化──爆発的な早さで広がる変化。
一年前に擦り込まれたダイアナ・イラスコ・ロリンズの膨大な知識から様々な情報やビジョンが破裂し広がる花火の様に意識に浮かぶ。そのどれかに答えがあるとしても私には事象と結びつける聡明さがない。
だが自然現象ではないと直感が押しつけてくる。
ニューヨークでベルセキアと戦った時に、すでにアンダーリーイング・ランゲージに覚醒していたが、それ以来見える世界にまだ時間は浅くとも被さる律にこれほどの激変を眼にした事はなかった。
マンハッタンの救急外来で手にして間もないこの神働術にして極限の術式系統──アンダーリーイング・ランゲージの俯瞰では眼にした事のない一転。
極限に遅くなったこの寸秒にも、連鎖破綻を止めずに塗り替えようとするエナジー。
マリア・ガーランドは感じるフィジカル・データの乱れに水面の波紋を思い起こした。
局部は全体からすれば点として無視できるほどのロジカル・エリアなのだ。
だが現物は小指の爪よりも遥かに大きく重いからこそ、幾重にも影響を生みだしている。
非常に温度も高く、圧力、電磁波だけに及ばず強力なX線や放射線など様々な崩壊と反応が互いに呑み込み合いさらなる煽りがより大きな切っ掛けのトリガーとなって────────。
ルナの知識から出てきたものに唖然となった。
熱核反応!?
何かの核兵器が起爆した!?
この海域にいるすべての人の命がなくなる!!!
そう意識した寸秒、マリア・ガーランドは変化の波を覆そうと猛然とフィジカル・データへの介入を始めた。
すでに1次側の核分裂はピークに達しており1億ケルビンの猛温に変容して弾けるX線、放射線、中性子線と手のつけられない状況だった。
ダンパー外殻内で波動は煽り重なり空間充填材の発泡スチロールをプラズマに昇華させ力を蓄え2次側の鉛とウラン238で構成されたプッシャーケースに襲いかかり衝撃波面が核分裂の連鎖を起こしながら内部の核融合フィーラーを通じ重水素と6重水素化リチウムを圧しプラズマ温度と密度、圧縮時間が臨界点であるローソン条件を満たそうとしていた。
反応1つひとつを薙ぎ払う様に覆してもその数百、数十万、何百億のオーダーで煽り返してくる。
自らの行いがストームを小さな帆で食い止めようとしている、とマリーは怖じ気づいた。
止められない!
強烈過ぎてと、マリーはダイアナ・イラスコ・ロリンズの膨大な知見を藁をも縋る様に引っ掻き回し手当たり次第に当てはめようとした。
核破砕反応────原子核どうしをぶつけ合い破壊する。核融合反応の素材である重水素や6重水素化リチウムを砕けばと単純に考え、陽子や中性子が余剰な極めて不安定な状態から戻されてしまう事に気づき投げ捨てた。
ブラックホールで呑み込めばと考え核融合の凄まじいエナジーをすべて吸収できるそんなものを出現させたら近海の生存者が海水や海底ごと事象の地平線に呑み込まれる! 論外だわ!!!
魔法や精霊の力はと逃げ道を求め、核融合が生みだす莫大なエナジーに太刀打ちできないとアンダーリーイング・ランゲージでさえどうする事も────魔法!?
核構造モデルはシェルが閉じた状態だと安定度が高まり崩壊、分裂、融合を起こし難くなる。
相乗効果でクーロン力が増す!
融合しようとする重水素を阻害できるかも!?
マジック・ナンバーだわ!
原子が極めて安定する陽子と中性子の個数の一群は特定の数に集中する。
ドリップラインと呼ばれる領域を書き換え範囲を広げ重水素の安定ヴァージョン種を増やすんだとマリーは飛びついた。
既に核分裂が誘発した熱核反応は直径13フィートのプラズマ爆球へと膨れ上がり海水を侵食しかかっていた。
一発勝負。
意識の両手を延伸し爆心地の物理法則を上書きする。
眩いばかりのパワーに干渉するこれが最後のチャンスだとマリア・ガーランドは意識の有りっ丈を注ぎ込んだ。
黒檀のデスクトップを指先で握ったモンブランの万年筆でリズミカルに叩く。
NDCニューヨーク本社の社長室でマリア・ガーランドは自問自答し続けていた。
やり方を誤った。
ロシア海軍の放った大陸間巡航大型魚雷の誤爆を食い止めるため行った物理法則の改変がとんでもない事態を招き寄せた様な気がする。
爆発のエナジーを端直に神働術で細工した余波で多量のニュートリノをあの場から空間転移でばら撒いてしまった。
よく理解もできてない法則をいぢり回したツケがきた。
ブロードウェイのタイムズスクウェアで派手にショットガンをぶっ放した様なものだと事の顛末を共有しようとして絶句したルナにきつく詰られた。
その場の通行人だけでなくあらゆるマスメディアの耳目を集める愚かな行為だと付け加えられた。
それじゃあ13フィート直径を超えた核爆発をどうやって止めたら良かったのだと反論したら、即座に20余りの方法を並べ立てられた。その内、18は本社ビルに帰ってきてもまったく理解が及んでいない。
銀河系端の太陽系第3惑星が灯台になったと────パルサーにしてしまったのは私だ。
社長室のソファに腕組みして脚を組んで座るシリウス・ランディの無言の重圧も苛立たしい原因だった。
ニュージャージーやマンハッタンでやらかした数々の失態に巨大企業としてどう対応するかを話し合っている途中で彼女が癇癪を起こした。
何もかもをNDCが出資した新作映画のロケだとしようとマリーが言った途端に副社長代理が社長室でストライキを始めた。
「マリー、貴女は世の中を舐めきっています」
シリウスがソファ前の硝子テーブルを見つめたまま押し殺した声で警告した。
「そんなことないわよ。用心深く────」
「1つ! シルフィー・リッツアとマンハッタン街中で対戦車ミサイルを6発も使い。1つ! セントラルパークに異空間ドームを出現させ。1つ! 貴女が甘めに見すぎる配下の私兵が展示戦艦から砲塔1基を強奪し、それをハドソン川で発砲させ」
「それはアン・プリストリが独断でやった事で私が命じたわけじゃ────」
マリーはこの場にアンとジェシカ・ミラーを呼びつけようとしたが2人ともバックレて連絡もとれないでいる。不安に髪をかきむしりたい心境だった。
「まだ山ほどあります。セントラルパークに墜落し国防総省が知る所となった我が社のステルス軍事輸送機。国防総省に知られた我が社の攻撃型原子力潜水艦。これも国防総省に知られた我が社の研究開発中の制空戦闘機。マンハッタンで我が社のセキュリティが自動小銃を振り回し戦闘行為に及びFBIから近々捜査がNDC本社に行われる件。ロバートはセントラルパークへ迫撃砲弾を撃ち込んでいるんです」
マリーは万年筆をデスクに放り出し両耳を手で塞いだ。
それを眼にしたシリウスは唇をへの字に曲げ硝子テーブルに載ったカット・クリスタルの灰皿へ手を伸ばし掴みあげ、女社長へ向かって投げつけた。
それが黒檀の手前の空中に制止するとシリウスは右手振り上げマリーを指さし怒鳴った。
「それが1番の問題──大問題なんですよ! 魔法なんて世の中にどうやって納得させるんです!? ハイエルフの存在を! 異世界の存在を世の中にどうやって説明するんですか!?」
マリーは耳から手を離し右手を伸ばすと空中の灰皿をつかんでデスクトップに粗雑に載せた。
「ルナからしらを切れとアドバイスされたわ。世の中にはすべて伏せておけと」
シリウスが顳顬に青筋を浮かべ両手で硝子テーブルをつかみ上げマリーは驚いて椅子を下げ腰を浮かした。
「貴女は私をも舐めてるんですか!?」
「真面目よ──だから戻るなりこうやって相談を持ちかけているんじゃない」
次はハンドガンを抜くのじゃないかとマリーはシリウスの手から眼が離せなかった。
荒い息を大きく吸い込んで押し止めた副社長代理は硝子テーブルを下ろしソファに深く腰を下ろした。
「いいでしょう。隠蔽しましょう。ただし、それなりに損失が出ます。下手を打てば4桁を越えますよ」
「ベンジャミン千枚ぐらい安いじゃ──」
いきなりシリウスはスーツの内側からマスタングXSPを引き抜いて2発タップさせ撃ち、避けたマリーが横目で背後のブロンズガラスを見やると弾痕が2つ並んでおり眼を強ばらせた。
こいつ! ほ、本当に撃ったわ!?
「誰が数千ダラーの話をしてると? ブリック──ミリオン・ダラーの事ですよ。そのおつむに風穴開けて理解通るようにしてさしあげますよ」
「結構よ。頭がこれ以上軽くなると社長業務に支障がでるから」
マリーが苦笑いしながら椅子に腰掛けると、シリウスは鼻で笑ってハンドガンを仕舞い座ったまま顔を向けた。
「ではマリー、政府と国防総省への事後対処方針とFBIの強制捜査への切り抜け対策方針を今夜中に決めておいて下さい。カンパニーは私が根回しするので問題ありません。シギント屋はマーサ・サブリングスを貴女が説得してください。重要な課題は政府組織ではありません。マスメディア対処です。誤ると政府も本気で腰を据えます。それと────」
返す言葉もなく耳を傾けていた女社長は信頼する部下が言葉を区切った事で身構えた。
「リポートにもあるようにロシア対外情報庁のレギーナ・コンスタンチノヴィッチ・ドンスコイ大佐が貴女を誘拐しようと特殊部隊を率いてニューヨークに乗り込んでいます。大佐は貴女が十年前にレバノンのベッカー高原のテロリスト訓練キャンプで大佐の弟を殺した私怨を晴らすために動いています。いいですか! ザスローンは並みの特殊部隊ではありません。スペツナヅ以上だと認識して備え、当面身辺警護要員を4倍にします。貴女が誘拐されプロパガンダに利用されればマスメディアは貴女が十代の時に行った戦闘を知る事となり、ロシア政府にシリア側が当時の情報を提供すれば貴女は真正の殺人鬼のレッテルを張られる事に────」
マリーは黒檀の両袖机の上で組んでいる指の骨を連続で派手に鳴らした。その行為にシリウス・ランディは眼を強ばらせた。
「16の時にシリア機械化兵大隊1千人を相手にしたのは事実で少なくてもテロリストキャンプの非正規戦闘員を含め500人以上の兵士を倒したのはいずれ隠し通せなくなる。でもあれは軍事戦闘行為だったのよ」
500という数とマリア・ガーランドの言い分にシリウスは溜め息を漏らし静かに説明した。
「貴女が戦闘行為と盾にするのなら海軍やペンタゴンは苦しい立場に立たされます。十代の少女兵を特殊部隊シールに入隊させていた事が明るみに出るからです。退役された貴女のお父上は当時の部隊責任者として上院公聴会に召喚される事となるでしょう。それは貴女も不本意のはずです」
「大丈夫よ。拉致されるヘマはしないから」
そう告げマリーは組んでいる指をほどき右手の人さし指を立てその爪先にラグビーボールほどのフレアを生みだし揺らめかせた。
その行為にCIAとの二重職員は眼を細め警告した。
「力を過信なさらずに。対外情報庁の前身はソビエト時代のKGBです。彼らは貴女のそのマジックを捻り潰す奇策を用意してきます。侮ってはいけません。その場で貴女が唖然と途方にくれるか、爆発するようなフラストレーションを抱き込む事にならないことを祈ります」
忠告に素直に頷いたマリア・ガーランドは指先のフレアをすぼめた唇の息で吹き消すと立ち上がった。
「それじゃあ打合せは一時中断ね。シリウス、情報部門とセキュリティ要員数名を連れて食事に出るわ。あなたも来ない?」
シリウス・ランディは頭振った。
「いえ、遠慮致します。ジョージア州ネイバル・サブマリン・ベース・キングス・ベイでのメリーランド乗員の家族救出作戦でうちの部隊がかなり派手に撃ち合いをしたので、これから地元FBI支局と警察署へ事後工作をしなければなりません。マリー、長い1日お疲れ様でした。あぁそれと────」
マリーはこれ以上何を言われるのだと眉根をしかめた。
「ハイエルフをご同伴されるのでしたら、深めの帽子に耳を隠させる様に。今夜はこれ以上マスコミとやり合いたくありませんから」
M4A1を胸の前に抱いた歩哨が通り過ぎて行くのを息を殺してじっと待った。
「お、御師匠──ほ、ほんとうに──や、やらかすんですかぁ?」
無線を使わずジェシカ・ミラーがヘッドギアをくっつけて怯えた声で尋ねてくる。
「お前がぁ、エイブラムスの操縦できるとぉ言うからぁ連れて来たんだぁ。ライフルを積むのにM1A2の車体がいるんだよぉ」
ライフルって────戦艦主砲をなんでライフルと誤魔化すんだぁ!? フェイスガードの下でジェスは顔を引き攣らせた。あんな戦艦の主砲なんて銀髪に謝って展示艦に返しちゃえばすべて丸く収まるのにこの人はどうしてこうも火にガソリンぶちまけるんだ!? 陸軍の戦車にあんな馬鹿でかい砲が乗るわけがないのに────。
「御師匠──他の戦車が束で追いかけて来て後ろからバカスカ120ミリの装弾筒付翼安定徹甲弾撃ち込まれるの嫌ですよぉ」
「馬鹿やろぅ、戦車は砲塔後ろ向きで撃てるんだぁ。追っ手は撃破するからお前はぁガスタービンを一発で始動させて操縦に専念しろぉ」
「撃破するって──同じ120ミリじゃないすかぁ。ケツ見せてる分、こっちが不利なんすよ」
「ふふふハハハハっ、ラインメタルのL/44は1.3倍のワイルドキャットに耐えるんだよぉ」
「ワイルドキャットって!? 戦車砲弾の装薬増やしたら砲塔まで吹き飛ぶじゃないすかぁ!?」
「心配するなぁ! どのみち捨てる砲身だぁ!」
命捨てたくないとジェスが震え上がると電子擬態を入れたままのアン・プリストリが立ち上がりM1A2SEPエイブラムスへと走り始めた。




