Part 4-3 Forced Rush 強行突入
Shopping Centre along the Marshall Hill Rd. West Milford North-Jersey, NJ. 11:44
11:44 ニュージャージー州 ノース・ジャージー ウエスト・ミルフォード マーシャル・ヒル道路沿いのショッピングセンター
「一部の巡査から報告されている怪物による殺害は容疑者がなにかしらの覆面を着用しているものと考えられる。ガスマスクも考慮に入れる必要があるが、スタングレネードの閃光は有効だ。一気に状況を押す場合、必要にして最小の個数使用を許可するが、人質になっている買い物客にも混乱が起きるので容疑者を視認した場合にその場での限定とする。以上だ。配置に付き次第突入だ。いいな!」
M4A1カービンとベネリM4スーペル90ショットガン、S&W MPハンドガンで武装した16名の特殊武装戦術チーム員の男女2分隊15名が頷き了解した旨とした。
彼らは手早く第1分隊リーダーのバーニッシュ警部に人員割りされ4つのチームに別れ、2チーム──アルファ&ベータがモール東口、残り2チーム──チャーリーとデルタが西口からの潜入に備えた。
モール裏側の比較的窓の少ない面から西側突入のCとDチームが移動する間、自動ガラスドアに聴音器を押し付けAチームの複数のESU(/SWAT)隊員がヘッドホンで内部の音に聞き入っていた。
時折聞こえる悲鳴や泣き叫ぶ声の合間に、『カツカツ』という何かを叩きつける音が聞こえていた。その音は大きくなったり小さくなったりし、その1音いちおんのリズムも早くなったり遅くなったりしており、マイクロホンをガラス扉に押し付けている隊員が振り向き小声でバーニッシュ警部に尋ねた。
「何の音でしょうか?」
警部はその硬質でリズミカルな音がまるで革靴の硬いヒールが床を踏み鳴らしているように思えた。だが音は複数重なっており、ヒールの音なら数人の者が駆けたり歩いていたりしている事になる。
しかも同時に行動をしている。
バーニッシュ警部は頭振り尋ねた隊員に判断できないと無言の返事とした。
警部は女性隊員タリア・メイブリックがM84スタングレネードを一回り小さくしたピンク色の筒に9ミリの実包をセットしてるのを眼にして驚いた。
「タリア、何をしてる!? それは遅延破裂音響グレネードなのか!? 支給品じゃないだろ!?」
「はい、ボス。市販のTRMR E1 X4ーSです。こうやってブランクカートリッジ(:空包)の代わりに実包を入れると上部が破裂して、ちょっとした破砕手榴弾になるんです」
ニコニコ話すルーキーに近頃の新人は何を考えているのだと警部は呆れた。
「ダメだ! そんなもの使って人質に被害が出てみろ。多額の賠償を請求されるぞ」
彼に言われ、タリアは下唇を突き出し不満の表情でアーマード・ベストの外ポケットにそれを突っ込んだ。
「いいか、タリア。お前はフルオートで撃つな。バーストだけを許可する」
言い返そうとする彼女の顔を警部は指差し「命令だ」と短く言い切った。
「バーニッシュ警部、C・Dチーム配置に付きました」
耳に差したハンディ無線機のイヤープラグを片手で押さえ報せを聞いていたマシューズ巡査が彼に報告したので、警部は腕時計に眼を落とし、マシューズ巡査に命じた。
「1150に突入。状況が許さない場合報せよ。49分を過ぎていたら強行する」
バーニッシュ警部の指示に頷きマシューズ巡査が左胸に下げていたハンディマイクロホンを手に内容を伝達し始めた。
警部は今一度腕時計を見、2分前を確認した。
「全員、装填! 各チーム2名がアタック。2名がサポートディフェンス! まず、容疑者を確認! 逃げる様でも背中から浴びせて構わない! 被害の芽を絶て! いいな! 間違って後から入り込む同僚を撃つな!」
皆が真剣な面持ちで頷くと、一斉にある者はカービン銃のチャージングハンドルを引き放ち、ある者はショットガンのボルトハンドルを動かし初弾をロードした。警部が胸の前に銃口を斜め下にしてスリングで下げたM4A1のレシーバー先端に付けたイオテック・XPS2光学サイトのスイッチを入れると光学サイト視野に上下左右にクロスラインの突き出した大きな赤いサークルが浮かび上がりその中央にある1MOA(:100m先の約3mm)の同色のドットを意識しながらグリップを右手で握りしめ左手でハンドガード下部のレールに付けたバーチカルグリップをつかみ銃を引き起こした。
そうして彼はストックを肩付けして照準ラインを確保すると自動ドア上部の動体センサーの直下に同じ様にカービンを肩付けして照準しながら立って自動ドアのガラス扉を開いた部下のヘンドリックス巡査が照準してない方向へバレルを振り向け光学サイト視野の範囲を通路先の曲がり角へ向けいつでも射撃できるようにトリガーガードに乗せていた指を引き金に移し、部下に続きモール通路へ狭い歩幅で入り込んだ。
全員が照準しながら通路に入り込み彼ら8名がまず眼にしたのは、首から上を失い血だまりを広げる中年女性の遺体だった。
生死の確認の必要もなく、彼らは通路から食品スーパーへ次々に死角先へ銃口を振り向けチェックしながら脚を進めた。
曲がる先の陳列棚通路毎と言って良いほど先々に頭部を失った男女の遺体があった。その惨状に皆が緊張感を維持して容疑者を含めた生存者を探し求めているときに西側アパレル・モールで爆発するように一斉にフルオートの発砲音が響き渡り出した。
M4A1の射撃音に間違いなかった。3秒たち、5秒過ぎても止まない発砲音に彼ら8名は警戒しながら食品スーパーからアパレル・モールへと転じて急いだ。
引き連れるバーニッシュ警部は、10秒数えてまだ鳴り止まない射撃音に容疑者が何人いるのだと動揺し顔を強ばらせていた。
いきなり現れた銃器を構えた者達が、殺した他の巡査らと明らかに装備が違うとそれは思った。
先頭に立つ男2人が最初から、こちらへ銃口という飛び道具の射出口を向けていた。
2人とも唖然としながらも躊躇なく発砲を始めた。
こいつらがSWATという、より戦術性の優れた警察官なのだと判断するなり、襲いかかる最初の数10発を前の触足4本を振り上げセラミックの爪で弾道をそらした。
そこへさらに2名の男女が加わり4人がかりでカービンという種類の火器を放ち始め、それは一旦衣料品というものの売り場へ交代し、ラックに下がった衣料品の間を猛然と移動して棚の陰へ急いだ。
追う様に浴びせられる5.56ミリの銃弾がハンガーと冬物衣料を巻き上げ、背後から迫った。
だがそれの8本の触足のもたらす移動速度の方が上回っていた。
爪を滑らせ棚の陰に滑り込み姿勢を下げそれは陳列棚の先へ駆け出した。射撃音は止まず銃弾が今度は陳列棚を穿ち後を追い始めた。
殺した警察官らと明らかに銃器の扱いが違う!
それは歓喜した。
この戦術性の優れた警察官らの1人でも喰らえば、そのやり口を身に付ける事ができる!
棚の通路を駆け抜け触足3本をスチール棚の支柱に引っ掛け急激に曲がった先に、4人のSWATが待ち構えていて一斉にカービンとショットガンを浴びせ始めた。
逃げるのは止めだ!
それは人間という生き物が、迫られると最後には攻撃を止め逃げに転じる事をすでに学んでいた。
銃弾を受けながら、それは一気に4人の人間に迫り2本の触足を振り回した。同時に2人の首を刎ね、1人の胸をアーマー・ベストごと刺し貫き、伸ばした首で残りの1人の頭部へ喰らいついた。そうして逃げ出す間際に転がった2つの頭部のうち、最も銃弾を命中させていた男の頭を喰らい駆け出した。
喰らった知識に驚喜乱舞したくなった。
駆けながらそれは、SWATの者達が訓練を積み重ね射撃に対して一般の警察官より数段優れている事を知り、さらには──兵士という分類の人間がより戦術性に優れていると学んだ。
SWATのやり口を学んだそれは4本の触足を上に振り上げ飛び上がり、天井のボードを打ち破り送気ダクトに上がり込むと音を殺して移動し始めた。
SWAT──特殊武装戦術部隊といえども見えているものにしか反応しない。
なら天井からいきなり襲いかかられるとひとたまりもない。天井すべてを撃ち抜けるほど多量の弾薬をSWATが装備してない事をそれはもう知っていた。
今は僅かな時を稼ぎ、損なわれた体組織を置き換え修復する必要があった。
万全となり残り12名の男女を殺すのは実に容易いとそれは思った。この世界の人間という生き物は武器を使えこそすれ、魔法という厄介な攻防手段を持ち合わせていない。
エルフより遥かに殺し易いのだ!
SWAT全員を殺し喰らい、戦術を補完したら、次は兵士が現れるまで殺し尽くせ!
それはモール周辺にいる100名以上の警察官らも残らず殺す算段を始めた。
兵士という連中を誘き出し喰らいたい欲求が溢れ返った。




