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衝動の天使達 2 ─戦いの原則─  作者: 水色奈月
Chapter #36
181/206

Part 36-3 Chaotic Front Line 混迷の戦域

Ticonderoga-Class Guided Missile Cruiser Philippine Sea (CG-58) USNAVY-CSG(/Carrier Strike Group)2 USFLTFORCOM, 29.6 Nautical Miles to battle area with Maryland, Central Atlantic Ocean Local Time 19:34 GT-20:34/

Су-33 и МиГ-29К 279-й КИАП 1-й и 2-й эскадрильи Авианесущий крейсер Адмира́л Кузнецо́в, В то же время и в том же районе моря/

NDC-SSN001 DEPTH ORCA(/National Datalink Corporation Sub Surface Nuclear), Same sea area same time


グリニッジ標準時20:34 現地時刻19:34 大西洋中央海域 メリーランドとの戦闘海域まで29・6海里 (:約55km) アメリカ海軍総軍隷下第2戦闘打撃群(C S G T) タイコンデロガ級CGー58ミサイル巡洋艦フィリピン・シー/

同時刻同海域 航空機搭載巡洋艦アドミラル・クズネツォフ第279飛行連隊 第1、2飛行隊Suー33、MIGー29K/

同時刻同海域 NDCーSSN001型原子力潜水艦ディプスオルカ



『レイジン・トゥリー()ゼロ()ゼロ()よりNWIN応答されたし』



 タイコンデロガ級ミサイル巡洋艦フィリピン・シー(C G ー 5 8)戦闘指揮センター(C I C)に艦隊機からの音声通信が入った。



「こちらNWIN(:CG-58フィリピン・シー)、レイジン300(:VFA-37戦闘飛行隊の1機)どうぞ」



『空母との交信ができない。データリンクにも応答がない。そちらから交信できるか?』



 無線交信官(C O)が振り向いてスピーカーで聞いていた戦闘指揮センター主任(C I C O)が手を差しだし予備のヘッドセットを受け取った。



「現在作戦部隊指揮所(T F C C)(:旗艦、この場合空母CDC)だけでなく随伴艦ずいはんかんDDGー67(コール)DDGー58(ラブーン)以外の艦がデータ交信、音声呼び掛けに応じない。統合作戦戦術システム(J O T S)はライヴだ。復旧を試みているが指揮権回復まで当艦が第2空母打撃群(C S G 2)作戦部隊指揮所(T F C C)となる。空域警戒から1機空母へ向かわせ空母状況を報せて欲しい」



『すでに1機戻らせている。もう空母上空に達するはずだ』



助かる(B Z)。もう1つ問題があるレイジン300。北北西から急速に接近する機影が7機、E2Cホークアイ2000(ベアエース)のレーダーが拾っている。感心しないコースだ。航空抑止に至急向かえ。ブッシュ(C V)の16海里(nm)以内に入る様なら発砲を許可する」



 発砲許可の声に離れたコンソールの戦闘システム管制官(CSOOW)は命じられずして空母(C V)への直線コースで接近中のボギー1から7までの各機のコードを艦対空(RIMー174)ミサ(スタンダード)イル(ERAM)14発にデータ・リンクさせ送り込んだ。



 命じた直後、ウイングリーダーからの応答と間違うタイミングで別機から音声呼び掛けが入った。



『こちらレイジン306、NWIN・CIC至急応答されたし!』



「こちらNWINだ。レイジン306どうぞ」



『今、2度目の低空パスをした。信じられない。77(キャリア)を含むすべての艦が氷床ひょうしょうに身動きができずにいる。各艦の灯火はすべて消え、ランディングギアのライトでは暗くて明確でないが甲板(デッキ)に何人もが倒れている様だ!』



 大西洋のど真ん中で氷床ひょうしょう!? 耳を疑い戦闘指揮センター主任(C I C O)は問い返した。



「レイジン306、波の見誤りか? もう1度確認せよ」



『波なんかじゃない! 直径で5海里(nm)以上の氷床ひょうしょうだ! 10艦が氷浸けの状態で間違いない!』







 困惑を隠せない戦闘指揮センター主任(C I C O)艦長(スキッパー)へ報せるためにインカムの受話器に手をかけた。











 漆黒の海原を2連の真っ赤なフレアが凄まじい勢いで駆け抜けそれを追うようにさらに連なる光点が走り抜けると幾つもの閃光が後に続いた。



 フランクな造りのリューリカALー31F Srs3ターボファンジェットエンジンは西側のものに比べ燃焼系の設計の未熟さからノズル後方のフレアが広がり長い。



 空母アドミラル・クズネツォフ海軍第279戦闘飛行連隊第1飛行隊のスーホイSuー33NATOコードフランカーD──8機は高度20メートルでレーダーを切り飛行していた。



 それぞれが対空兵装は短射程のR73アーチャーのみとし離艦重量ギリギリでエンジンナセル下のステーションと翼下に4機が超音速対艦ミサイル・クリプトン《Kh-31》をそれぞれ4発、さらに4機がエンジンナセル間下に大型のオニキス(Kh-61)空対艦超音速ミサイルを懸下けんかしていた。



 ロシア海軍では対艦隊攻撃を仕掛ける際に圧倒的多数のミサイルを同時に撃ち込む飽和攻撃に加え幾種類もの対艦ミサイルで敵艦隊の防御網突破を計る。



 そのためアメリカやNATO諸国の対艦攻撃に比べロシア海軍戦闘飛行連隊機の搭載ミサイルは一貫性がないようにちぐはぐになる。だが複数の攻撃パターンで同時に艦隊防衛システムに揺さぶりをかけると、防御網に間隙かんげきが生じるのがロシア海軍アカデミーのシュミレートで定石となっていた。



"Командир 1-й эскадрильи, Это командир 2-й эскадрильи, приём."

(:第1飛行隊ウイングリーダー、こちら第2飛行隊ウイングリーダー、オーヴァー)



"Это командир 1-й эскадрильи, Что случилось ?"

(:こちら第1飛行隊ウイングリーダー、どうした?)



"Самолет противника не приближается, хотя радиолокационное сканирование продолжается."

(:レーダー・スイープされ続けているのに敵機が来ない)



 海面ギリギリの低空にいるこちらはまだベリューザ・レーダー警報が鳴らなかったが、上空警戒に当たる第2飛行隊は真っ先にレーダー波の洗礼を受ける。そのスイープが敵艦船のものか、敵航空機のものか定かでない。艦隊各艦のレーダーシステムは能力が低く、西側並みのイージスシステムを目指したマース(Марс)パッサーツ(Пассат)はトラブル続きで使い物にならない。統合データリンクも能力が低くGRONAAS頼りの飛行中、索敵さくてきIRST(OPESー27)頼りでもレーダー波を灯台の様に広げるよりは安心感があるとパイロットらは思っていた。



 どのみちアメリカ軍のイージスシステムは水平線先の索敵さくてきも可能なのだ。49海里(nm)(:約91㎞)しかない状況で少しでも高度を上げれば露呈ろていするのはわかりきっていた。



"Будьте осторожны, кажется, его видит противник. Зенитный морского базирования может быть застрелен ракетой."

(:気をつけろ、見られていると思え。艦対空ミサイルが来るやもしれん)



"Вас понял."

(:了解した)



 直後、別な機から編隊長機へ問いかけがあった。



"От части 83 до командира соединения. Мне приказали не возвращаться с ракетой, Что делать, если я не могу стрелять ?"

(:83よりウイング・リーダー。ミサイルを抱えたまま戻るなと言われましたが、投射出来なかったらどうするんですか?)



"От капитанской машины эскадрильи до подразделения 83. Будьте готовы к тому времени. Ваша посадка будет последней. Если вы держите ракету, Светлана-2 провод порвется."

(:ウイング・リーダーより83。その時は着艦は最後だと思え。ミサイルを抱いたままだとアレスティングワイヤ(Светлана-2)ーが切れるぞ)



"Что !? Этот слух был правдой ! Если мы не разрежем топливо пополам, смешно отказываться от приземления !"

(:えぇ!? あれって本当だったんですか! 燃料半載以下でないと下ろさせないって!)



"Лучше спросить у того, кто перерезал провод. Но есть проблема с проводом, поэтому военные проводят расследование."

(:ワイヤー切った奴に聞いてみろ。だがワイヤーの品質に問題があるので軍が調査中だ)



 垂直尾翼に鷲を掲げる第1飛行隊、虎を掲げる第2飛行隊──第1飛行隊8機がアメリカ艦隊の中枢ちゅうすうの空母ジョージ・H.W.ブッシュを沈め、第2飛行隊は敵戦闘機を引きつけ可能な限り撃ち落とす。



 他の敵艦には北方艦隊各艦の対艦ミサイルが雨の様に降り注ぐ事になる。



 空域では劣勢でも、100発以上の対艦ミサイルに襲いかからればどこの国の空母打撃群(C S G)でも屈伏する。物量で圧倒する戦術はロシアにとってお家芸だった。





 だが優位を信じる彼らを待つものが嵐の岬に見える灯台の明かりよりも不確かだという誤算に誰1人も気づきはしなかった。











 アメリカ海軍戦略原潜メリーランドの原子炉エリアの直上を抜ける通路をセシリー・ワイルドにせ少尉(ENS)は足音を殺し後部機関室の水密ハッチを目指していた。



 その通路(シャフト)には隠れる場所がない。







 度胸試しには最高じゃないか!







 まるで彼女の思いが引き寄せた様に、30フィート先の水密ハッチが開きHK-53カービンを肩から負い革(スリング)つるした男が先に姿をさらした。



 男の表情が驚きからこわばりに変わる前に咄嗟とっさにセスはFNーSCARーH CQCを振り上げたりはしなかった。両手で腰の左とチェストリグの胸下につるしたドイツ製手榴弾(D M 5 1)をつかみ手首のスナップと前へ振り出す腕の素早さでそのロシア兵目掛け投げつけ同時にキャットウォークに伏せた。



 いきなりの彼女の動作と開け見えた光景にバックアップをしているハーマン・スチュアート少佐(LCDR)も反射的に一気に伏せた。



 彼の背後で勢いよく閉じたハッチの音が響きその分厚い鋼鉄の扉に銃弾(バレット)が数発当たりシャフトに発砲音(ガンショット)が膨れ上がり跳弾ちょうだんが踊り狂った。





"Пизда !!!"

(:ちくしょう!!!)





 銃声が途切れロシア語のわめき声の寸秒、手榴弾の爆轟の圧力波が2人を呑み込んだ。その熱風と空気のうねりが引く前にセスは両腕の力だけで飛び上がり通路を獲物を狙うチーターのごとく駆けながらバトル・ライフルを肩付けし水密ハッチの開いたままの出入り口に到達した。



 機関室に飛び込む寸前、彼女が出入り口の袖壁そでかべに足をかけ急に立ち止まりった直上のシャフト天井に銃弾(バレット)が跳ね火花を散らし彼女は鼻筋にしわを刻み片方の口角を吊り上げた。







 上等だ。女の顔を狙った意味をたたき込んでやる!







「ハンマー! ついて来るな! 蜂の巣にされるぞ!」



 叫ぶなり彼女は1度出入り口陰に身を退き勢いをつけ機関室に飛び込み銃声(ガンショット)を聞きながら床に滑り込み上半身をひねった。



 20フィートも背中で滑った先で狙い通りを絵に描いた様にセシリー・ワイルドの構えるバトル・ライフルの銃口の先にロシア兵のあごがあった。



"Блядь !!"

(:くそったれがぁ!!)



 相手のののしりに撃つ余裕は十分にあった。



 だが引き金から人さし指を放し彼女は両のかかとで床を蹴り(バク)転し振り上げた爪先で片膝かたひざを床に着いたロシア兵がライフルを振り向ける直前フォアエンドを蹴り上げた。



 銃を両手に握ったまま振り上げてしまったその男が状況を理解するよりも速く彼女は男のひざあいに跳び下りバトル・ライフルから放した両手を肩の上から後ろへ振り上げ相手の首を左右からつかみひざを落とし一気に前屈みなった。



 セスの背中を滑る様に飛び越えたロシア兵は一回転し背中から床にぶつかりうめき声をらした。



 その兵士が目を向けるまでの寸秒、彼女はわざとタイミングを取った。





 男の上目遣うわめづかいのにごった灰色の虹彩が一瞬開き縮小するのを見つめ相手へ次に起きることを理解させた上でセシリー・ワイルドはバトル・ライフルの銃床(ストック)後端のバットプレートを力一杯相手の鼻梁びりょうへ叩き込んだ。





 わめき声を聞きそれでも彼女は許さなかった。



 2度、3度手応えが増しライフルを振り下ろし防ごうとする男の指ごと叩きつぶしてやると4回目を振り上げた腕をいきなり握りしめ止められた。



 顔を上げると腕を握りしめているリーダーのハンマーと視線が合った。



「許してやれ。死んでしまうぞ」



 鼻で笑い銃のフィンガー・ガードに指をかけ回転させながら立ち上がったセスは直後顔を手でかばうロシア兵の頸動脈を蹴りつけ昏倒こんとうさせバトル・ライフルのピストルグリップを握りしめ腰撓こしだめで振り向くとキャットウォーク階段下の巨大なスチームタービンのハウジング陰に何かが隠れた様に見えた。



 セスはその方を見つめたまま左手を肩の高さに上げ人さし指を立てた。



 その背姿をシャフトを抜けて来たディプスオルカの特殊部隊のもの達が眼にして銃器を構え無言で素早く左右に広がり始めた。



 セシリー・ワイルドはキャットウォークの階段とは逆側へ横向にゆっくりと移動してゆくと手すりのパイプをつかみそれをまたぎキャットウォークの外に身を乗り出した。そうして手すりに足をかけ逆さまになると片手で支持柱のパイプつかみ保持して支持柱へ両足を下ろし絡めバトル・ライフルを構えたまま下のフロアまで滑り下りた。



 床に片手を着いてゆっくりと片足ずつ下ろし身体を反転させ立ち上がると、もう1人同じ様に仲間が下りてきた。



 原子炉から送られてくる高圧の水蒸気を受ける蒸気タービンユニットは幅、高さとも広く高く内殻ないかくにそれほど余裕がなかったが、人が通れるスペースは十分にある。



 問題は姿を潜ませたものがこの奥のユニットのどの部分に身を潜めているのかわからないという事だった。



 彼女は腰のパウチから人差し指と親指での輪よりも小さなスモークの球を取り出し床に置いた。そうしてピストルグリップを握った右手薬指へ左腕手首を近づけ指先でコンバット・スーツの表面に埋め込まれているパネルを操作し始めると球体が音もなく転がり始めた。



 中に入った小型ジャイロにより特定の方向の任意の角度に向けられた超小型カムがレンズを広角側へズームダウンするとセスの左眼に入れた電子デバイスコンタク(E D C)トにエンジンルームの床から天井まで撮影した広角映像が表示されその視点が移動し始めた。





 ゆっくりとカム・ボールが索敵さくてきしながら転がって行き水蒸気タービンユニットの奥側にある減速機ユニットが見えだすとその陰に探し物がいた。





 乗員4人をひざまづかせその2人のうなじに拳銃とカービンの銃口を押しつけているロシア兵が減速機ハウジングの角から艦首方向の様子を探っていた。



 その様を見るなり彼女はロシア兵が所詮しょせんは水兵だとさげすんだ。





 人質を隠していても意味はない。





 同時に4人もの男らを人質にしている事は身動きを制約する。



 やることは簡単だ。ロシア兵の注意を引きそのすきに減速機ユニットの逆側から攻める。ただ──気をらすものは撃たれる覚悟をしなければならない。





 セシリー・ワイルドはカム・ボールを加速させ男らのいる横壁に突っ込ませた。











 ディプスオルカの梯子(ラダー)横の赤い警告灯が消えオレンジに変わった。



 ダイアナ・イラスコ・ロリンズはマリア・ガーランドに何も告げず手早く昇降筒の梯子(ラダー)を登り始めた。その後にマリーも続きその後に興味深そうな面もちで周囲を見まわすシルフィー・リッツアが登り始めた。



 セイル艦橋(ブリッジ)ハッチも電動化されておりロック解除も水密ハッチの開閉もすべて自動になっていた。



 開口部からセイル上部の狭い艦橋(ブリッジ)に出たマリーは風と水飛沫みずしぶきの洗礼に眼を細めた。海水には十代の時に徹底してらされいたので苦痛ではなかった。



 だが視界とコミュニケーションのためにうなりと飛沫しぶきは邪魔だった。





 もう詠唱(チャンティング)は必要ないとマリーは感じた。精霊シルフの魔法防壁(マジックウォール)を意識した瞬間、艦の水上露呈(ろてい)部を全周囲む淡い輝きの青のスクリーンが展開し風も鳴り止み飛沫しぶきもなくなった。



 ルナに腕をつかまれマリーが振り向くと副官が強張った視線を向けてきた。艦を取り囲むスクリーンが何なのかと口を開きかかった彼女の先をマリーは取った。



「あそこと、あそこ、それにあっちにも艦艇がいる。左手2艦よりも右の1艦の質量が大きいわ」



 説明しながらマリーは艦首方向の暗闇左右を指さした。それを補足するようにルナが解説した。



「11時方向の艦はアーレイ・バーク級ミサイル駆逐艦ラブーンとコールです。右手1時方向の艦はタイコンデロガ級ミサイル巡洋艦フィリピン・シー。すでにこのディプスオルカをレーダーとIRカムで捉えており3艦のいずれかが発砲ないしミサイル攻撃をしてきます。急いで潜行しなと──」



 マリーはかぶり振り10時よりの9時方向へ腕を振り上げた指さした。



「我々は安全だから。それよりルナ、教えて頂戴ちょうだい。7機と8機の航空機がフィリピン・シーのずっと先の身動き取れない空母へ向かっているわ。帰投してるのかしら?」



 わずかに間をおいて優秀な女が考察を口にした。



「いえ、違います。恐らくはロシア北方艦隊の戦闘攻撃機群です。マリー、どうやって知っているんですか!? レーダーも、偵察衛星も使わずに──」



 言いながらルナは上官がどちらかの耳に何かのデバイスを取りつけていないかのぞき込んだ。



「物が──質量の違いや、移動速度や座標は手に取る様にわかるけど、すべてが数値の羅列られつだから識別の仕方がわからない────いいえ、正確な重量をあなたに言えばどちら(・・・)側の()かがわかるかしら?」



「オンス単位で言われても、わかるわけないじゃないですか! 搭載物の構成や人員数、燃料、弾薬、消耗品にまでおよぶんですよ。せいぜい航空機の種類か艦船のグレードぐらいです」







「それじゃあ、フェアに中立といきましょう。双方から攻撃手段を封じます」







 まるで神気取りだとルナが食ってかかろうとした刹那せつなだった。



 艦首側の方から甲高い音が聞こえ驚いたルナとシルフィーが振り向いた。視線の先でスクリーンに小さな波紋が波打ち消えていった。



「砲弾よ。威嚇射撃でしょうけれど、らした砲弾が魔法障壁(マジックウォール)に触れたのよ。幾つかの無線周波数帯で警告音声信号を送ってきてるわ」



 事もなげに言う指揮官へ唖然とした面もちのルナが顔を向けたずねた。



「本当に──ほんとうに────兵器の能力を相殺そうさいできるんですか!?」



 問われマリーは1度視線を上げ考え込んで答えた。



魔法障壁(マジックウォール)に関しては相殺そうさいじゃないのよ。瞬間のエネルギーを蓄えておいてそれを時間と空間に分散させて放出するの。だから影響のおよぶ範囲から物理的な上限が存在するのよ」



 それを聞いてルナが唇をひずませた。その表情にマリーは説明で何かまたミスをしたのかと考え自信をなくした。



「理屈としては成り立ちますが、前提が誤っています。『魔法障壁(マジックウォール)』という前提です」





 マリア・ガーランドが言い返そうと口を開いた寸秒、彼女の意識に声が広がった。







────マリー! マリア!







 マリア・ガーランドへパトリシア・クレウーザの見たものすべてが超空間精神接続(ブレイン・リンク)越しに濁流だくりゅうの様に流れ込んできて女指揮官は目眩めまい艦橋(ブリッジ)の縁を片手でつかんだ。












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