Part 36-2 Bitch vs Pinhead 糞女と石頭
NDC-SSN001 DEPTH ORCA(/National Datalink Corporation Sub Surface Nuclear), Middle of the Atlantic Local Time 19:31 GT-20:31/
Флагман Северного флота России Атомный Крейсер 1144.2 «Пётр Вели́кий» В то же время, Море рядом с ним
グリニッジ標準時20:31 現地時刻19:31 大西洋中央海域 NDCーSSN001型原子力潜水艦ディプスオルカ/
同時刻同近海 ロシア海軍北方艦隊旗艦1144型原子力重ミサイル重巡洋艦ピョートル・ヴェリーキイ
「Mk46、1510(:約460m)、1415、1320────」
────人体能力を増強したのではない。
ソナーマンチーフのエドガー・フェルトンが告げる距離を聞きながらマリア・ガーランドは発令所前部の操舵員座る正面のコンソール上左側の一角をじっと見つめながら三次元作戦電子海図台上の2本の魚雷アイコンを見つめるダイアナ・イラスコ・ロリンズに命じた。
「ルナ、座標を素早く打ち込め。方位15.23、距離800、仰角プラス8.5。そこがキルボックス──新型アクティヴソナーの照射座標として転送。合図次第射撃」
────超能力などといえば軽薄に思える。
「了解、キャプ」
ルナは三次元作戦電子海図台ホログラム上にヴァーチャル・キーボードを表示させ右手1つで連打するピアニストの様に情報値を打ち込みエドに命じた。
「ポジション・データ、アクティヴェート!」
「レシーヴド・データ! 距離1084(:約330m)、989、895──」
────万物の関わり合いを理解できたと早勝手していた。
"Open Fire !"
(:撃ち方始め!)
マリーが命じた瞬間エドワードは新型アクティヴソナーのアイコンをタップした。
────手にしたのは万物改編ともいうべき力。
寸秒ディプスオルカの船体6ヶ所にあるL ー P i n gシステム投射機の内4基のアクチュエーターが同時に首を振りそれぞれの仰角を取るとその基部奥にある大型リアクター内に三フッ化窒素とエチレンのナノ粒子が超高圧で充填されプラズマ点火された。
────力の尺度など今まで意識したこともなかった。
生じた多量のフッ素遊離基がさらに水素と反応し励起されたフッ化水素分子が光共振機の折り返し共振機でギガワット級の赤外線レーザーを誘導放射させ海水を引き裂いた。
3078ナノ秒で300ヤードに達したギガワットの赤外線レーザーは減衰するどころか周囲で異変が起き始めた。
────エネルギーはそこら中にある。
僅かな海水を純粋なエネルギーに豹変させそれを豊潤な水素原子に注ぎ込み励起させ膨大で強力な衝突を連鎖させレーザー外周をリュードベリ状態化させ誘導放出によりレーザーをより高エネルギーのペタワット級に昇華させた。
────その溢れるパワーを振るうのに、本当は知識が必要でないとボックスカウンティング7・8次元上の場から直感が囁き続けていた。
4条それぞれの赤外線レーザーを取り込む様に海水が白く輝き始め一気に海水がプラズマ化し揺らめく輝きから幾つもの閃光がオーロラの様に湧き起こりレーザーの焦点へ170フィートに迫った先頭のMk46軽量対潜魚雷の目前の海水が一瞬になくなり6百60万ポンド余り(:約3000t)の海水が電離しプラズマで荒れ狂う球体を生み出し一瞬で4基のMk46軽量対潜魚雷が呑み込まれ1基が爆発すると残り3基が寸秒で連爆した。
刹那水中に膨れ上がったプラズマの球体の中心に爪ほどの小さな漆黒の正確な真円の球体が生まれると一気に爆暴の波動をその情報伝達境界面のイドに引き摺り込んだ。
強引な超自然現象のサプレッサは取りこぼしを残しいきなり極縮し高次元にシフトさせ事象的次元面の彼方へ消え去った。
まるで眼の前で対向してきたアムトラックが激突した様な衝撃。
ディプスオルカ発令所の皆が物にしがみつきマグネチュード8の衝撃に堪える最中、幾種類もの警報が鳴り渡りシルフィー・リッツアがマリア・ガーランドへ怒鳴った。
「銀髪! 何をしでかしたぁ!?」
女指揮官は短く鼻で笑うとハイエルフへ呟いた。
「極小核融合」
右の鼻孔からすっと滴りだした血に気づきマリーはやりすぎたと慌てて左手で受けながら、しかめた顔を振ると絡み合った鋭い視線にマリアは刺さるほどだと優秀な女副官が隠し持っていた本心を見せてくれた事に歓喜すら覚えた。副長ゴットハルト・ババツがすぐ近くで複数の警報に大声を出しているのにルナの震える声がはっきりと聞こえた。
「核融合────? 核融合って言いましたよね!? マリア!!!」
ああ、人は意図すれば混乱の中に目的の音を認識できるのだとマリーは16の時にファイティングナイフ握りしめ駆けたベカー高原のテロリストキャンプで男らの叫び声や銃声重なる中で近づく男らの足音から人数を判断したのだと思いだした。
「ルナ、それを直して」
マリーが左手で鼻をつまみ鼻声で告げ握っていた三次元作戦電子海図台から手を放し乱れまくる3次元ホログラム・マップを指さした。
ルナは唯一上司だと──上官だと思う相手が話を逃げたとばかりに両手でつかんでいた三次元作戦電子海図台の縁から手を上げ歪むホログラムの海底へ叩きつけた。その衝撃にレーザー・ホログラムが揺らぎ一瞬で海図が正常に戻るとマリーは何て器用な女だと視線を逸らし肩をすくめソナー担当者の1人エドガー・フェルトンに問うた。
「エド、水上艦の動向は?」
「このノイズの嵐の中でですか!? 直上にミズーリが来ても聞こえません!」
ミズーリ? ああ、あのハワイの記念艦。この音響マニアはあんな動かない船の音を知ってるの? とマリーは鼻筋に皺を刻み彼に尋ねた。
「エド、こちらが聞こえないということは、水上艦や対潜ヘリからも聞こえないという事よね」
「そうです。そんな好都合なソナーはありません」
"If not, fine ! Well, Come on with everyone !! I'll get rid of everything !!!"
(:ないなら結構! さあ、かかって来い者共!! 残らず駆逐してやる!!!)
マリア・ガーランドのその宣言にルナが反抗を告げようとした寸秒一切のソナーデータが来てない状況でレーザー・ホログラムが一瞬の如き凄まじい速さで再構築を完了した。唖然として見つめるルナとクリスタル・ワイルズは表示された3次元マップ遠方に群生する雑草の様に数え切れないほど多数表示された黄色地の逆三角形に青い稲妻の落ちるコーションマークに共に顔を引き攣らせた。
これら艦隊は!? 米軍の増援!?
その数、ざっと50余り!
水上艦、潜水艦──いいや数に補給艦もいるとして戦闘可能艦は絶対に40以上はいる!!
それに──な、何なの!? こんなアイコンはシステムに組み込んでいない! ハッキング防止処置を5重にかけてあるシステムのソースコードが────変わっている!!!
方位285、距離48海里(:約89km)に迫る艦隊────各艦船アイコンに伸びる樹木の枝の如き乱立する指示線の端に表示される英語表記の艦名1つを読んでルナは相手がロシア艦だと意識しこの距離で、しかもこの数のスクリュウキャビテーションをどうやって聞き識別してるのだと困惑し、今、三次元作戦電子海図台斜め向かいに立つ女はブードゥの呪術的得体の知れない何かで私の設計した水空中ミサイルを有り得ない極超音速のマック30まで加速させ空母どころか1艦隊を麻痺させたのだと糸口とした。
そうだわ──非科学的現実という可能性に思いが行き着いたがMIT(:マサチューセッツ工科大)を主席で卒業した私を呑み込もうとしてるのは有り得ない現実ばかりでこの眼の前の女社長は具体的な技術は何1つ提示しておらず────。
いいや、それ以前にとルナは目まぐるしく考えながら戦術航海士を命じられた彼女は本来の務めに意識を振り戻しマリーに説明した。
「ロシア艦隊が戦闘圏に入ったら身動きとれない第2空母打撃群を本来の目的のために飽和攻撃します。マリア────!」
「──貴女がどの様な手段を行使しているのかが理解及びませんが貴女には────」
「ロシア艦隊を黙らせる必要があります」
理解もしてないくせに。
優秀な副官が向けるしたり顔に、面倒くさい女だわとこんな状況を麗香が何とかと言っていたかを思いだそうとした。あれは────そうだ棚からスイーツだっけ? いや違うと意識がそれたのをマリア・ガーランドはストレスのせいだとは認めず矢継ぎ早に命じ始めた。
「ゴース! 緊急浮上! 近隣の3艦への警戒の必要はない。防御も私が! ロシア北方艦隊を叩きます────」
「キャス! ロータリー式チェンバー垂直発射機にエリナチェウス2基装填」
エリナチェウス!? MIT主席の石頭女がエリナチェウス!? 針鼠だなんて!
副長と兵装担当の2人が大声で復誦するのを聞きながらマリーはルナに尋ねた。
「ルナ、セイル・デッキからでも指揮できる?」
ルナはマリーが今度は何をやらかすのだと身構えてしまった。その様を眼にしてマリーは微笑むと軽いステップで三次元作戦電子海図台を回り込みルナの左手のひらをつかんだ。
「私が来るまでよく堪えたわね。ご褒美よ。あなたの常識を根底から書き換えてあげるわ」
ダイアナ・イラスコ・ロリンズの左耳に囁いたマリア・ガーランドは1年前に彼女からあらゆる知識を授かったお返しをすべき期が来たのよと心で付け加えた。
目を細めてしまうほど向かい風は強く、しかも艦速29ノット(:約54km/h)が追い討ちをかけ閉じた唇を真一文字に引き結び北極海に比べたらこれしきと鼻で笑う。
艦橋上部の戦闘指揮所右舷の見張り所に立つ大型双眼鏡を手にした三等兵曹へ声をかけた。
"Есть ли какие-либо аномалии ?"
(:異常はないか)
"Да, нет никаких проблем. Вы не можете видеть вражеский корабль до горизонта."
(:はい、異常ありません。水平線まで艦影ありません)
"Старшина́ 2 статьи́, ты впервые в настоящем бою ?"
(:三等兵曹、実戦は初めてか?)
"Нет, Товарищ Генера́л-майо́р. Я участвовал в экспедиции 2016 года в Сирию."
(:いえ、同志少将閣下、2016年のシリア遠征に加わりました)
ああ、あれか。連邦宇宙軍の独り舞台だったなと思った。
"Это хорошо, чтобы внести свой вклад, но всегда стараюсь быть в состоянии жить и вернуться на родину."
(:貢献するのもいいが、生きて祖国に帰れる事を常に心がけよ)
Да, Товарищ Генера́л-майо́р ! Спасибо."
(:はい、同志少将閣下! ありがとうございます)
三等兵曹が双眼鏡を下ろし敬礼したのと同時だった。いきなり水密ハッチが開き発令所当直士官が顔を出した。
Ваша честь Устинов, Сообщение было введено из штаб-квартиры."
(:ウスチノフ閣下、本部より入電です)
そう言って少尉補が電文を差し出しピョートル・ヤーコヴレヴィチ・チレノフ少将が受け取ると少尉補が赤色のLEDライトで彼の手元を照らした。
"Ура !, я получил команду от Ви́це-адмира́л Aleksandr Alekseyevich Moiseyev !"
(:よし、アレクサンドル・アレクセーエヴィチ・モイセエフ中将から指令が下ったぞ!)
"Это тотальная атака, Товарищ Генера́л-майо́р ?"
(:総攻撃でしょうか、少将閣下?)
"Конечно, Мла́дший лейтена́нт. Президенту было приказано устранить его всеми силами."
(:勿論だ少尉補。大統領は力でねじ伏せよと断言されたそうだ)
チレノフ少将がそう告げると、少尉補は水密ハッチを背に出入り口を艦隊指揮官に譲り戦闘指揮所への道を開けた。
チレノフ少将が艦橋に入ると操舵手以外全員が姿勢を正し彼を待っていた。
"Tоварищи ! Его Величество Президент распорядился, чтобы подводная лодка ВМС Греции S123 «Catasonis» и экипаж B448 «Ситука» ни живыми, ни мертвыми не передавались на запад. Поэтому мы уничтожим американо-американскую CSG2 от этого !"
(:同志諸君、大統領閣下がギリシャ海軍潜水艦S123カタソニスとB448シチューカ乗組員を生死を問わず西側へ渡すなと命じられた。よって我々はこれより米第2空母打撃群を殲滅する!)
"Полная боевая поза !"
(:総員戦闘配置!)
"Полная боевая поза, Полная боевая поза !"
(:総員戦闘配置! 総員戦闘配置!)
北方艦隊旗艦1144号計画型重原子力ミサイル巡洋艦──ピョートル・ヴェリーキイ艦長ゼレンキン大佐が戦闘体制を命じると閉じた水密ハッチ傍らに立つ発令所当直士官少尉補が大声で復誦し場が一気に昇華した。
"Командующий флотом, Все 15 истребителей Су-33, укомплектованные адмиралом Кузнецовым, находятся в небе с боевой техникой. Все линкоры нацелены на каждый корабль CSG 2."
(:艦隊指揮官、アドミラルクズネツォフ(:重航空巡洋艦)、Suー33──15機全機戦闘装備で上がりました。全戦闘艦、第2空母打撃群各艦船を捉えております)
ゼレンキン艦長が艦隊指揮官少将に冷静に報告した。
"Хорошо. Запечатайте американские корабли со всей силой, кроме ядерных пуль."
(:よし。核弾頭を除く全兵力でアメリカの艦艇を封じろ)
顎を引き6つしかない戦闘指揮所艦橋窓から漆黒の海原を睨み据えロシア海軍長年の夢が今、叶うのだとピョートル・ヤーコヴレヴィチ・チレノフ少将は片唇を持ち上げた。




