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衝動の天使達 2 ─戦いの原則─  作者: 水色奈月
Chapter #35
177/206

Part 35-4 Mercyc in Darkness 闇の慈悲

Nimitz-class Supercarrier George H.W. Bush (CVN-77) USNAVY-CSG(/Carrier Strike Group)2 USFLTFORCOM 38 nautical miles to battle area with Maryland, Central Atlantic Ocean Local Time 17:12 GT-18:12/

NDC-SSN001 DEPTH ORCA(/National Datalink Corporation Sub Surface Nuclear), Middle of the Atlantic Local Time 19:28 GT-20:28


グリニッジ標準時20:30 現地時刻19:30 大西洋中央海域 メリーランドとの戦闘海域まで38海里 アメリカ海軍総軍隷下第2戦闘打撃群(C S G T) ニミッツ級CVNー77空母ジョージ・H.W.ブッシュ/

グリニッジ標準時20:28 現地時刻19:28 大西洋中央 NDCーSSN001型原子力潜水艦ディプスオルカ




 戦闘は状況把握に終始する。



 だがCVNー77空母ジョージ・H.W.ブッシュ04レベル艦橋構造物(アイランド)艦橋(ブリッジ)の左舷艦長席にいたスティーブン・C・エヴァンス艦長(スキッパー)飛行甲板(フライトデッキ)前方のクローズドバウ越しにほぼ真っ正面から水平線に浮かび出た小さい明かりが海面を明るく照らしながら急激に大きくなるのを見てはいた。そのあまりにもの短時間の変化にCDC(/Combat Directions Center)からミサイル警告を受けるどころか、全艦(MC1)に対衝撃と防火警告を出す余裕もなく、艦隊を延伸しているミサイル巡洋艦フィリピンシーと駆逐艦(デストロイヤー)ラブーン、コールの防空網を突破した極超音速のミサイルが直前の3艦の駆逐艦(D D G)の合間を飛び抜け向かって来るそれを茫然と見つめた。



 たまにF/Aー18のパイロットが叱責処分覚悟で日中に海面上100フィート(:約30m)という低高度を音速で前方から空母左舷をかすめ飛ぶ大馬鹿者がいるが、そのヴェイパーコーンが移動して拡大するよりもずっと早く艦橋(ブリッジ)からの7.5海里(nm)先の水平線上に見えた直後1秒余りで到達した。



 マック(/Mach:音速の英語に近い発音)10以上。



 メリーランドには搭載されておらぬ極超音速巡航ミサイル。ロシア艦隊からの攻撃なのか!? 唖然とするそのあまりにもの速さに各艦の防空システムも対応は無理だと頭の隅で思った。よしんば自動対空モードに入っていた各種対空ミサイルやCIWSでさえ追いつけなかったのだと彼の意識をよぎった。



 爆発が火焔と破壊物の散乱だとイメージしていたものがまったく違うと気づいた瞬間、彼女(CVNー77)が飲み込まれてゆくさまを取りかれた様に見つめた。



 成長する氷の針の様に細く折れ曲がり交差し合体しては乖離かいりする高圧の先駆放電(ステップトリーダー)の洗礼が、Fー35ライトニング (Two)やCMVー22オスプレイの排気プルームに対し強化された統合デッキ熱管理システ(T D M S)ムの埋め込まれた飛甲板(フライトデッキ)の華氏572度(:摂氏せっし約300℃)に温度を安定させる最大厚1インチの2平方フィートの滑り止めコートの載ったマットがボルトごとめくり始めた。



 それどころか、機を固定するタイダウンチェインの留め具──パッドアイすら放電に負け銃弾(バレット)の様にそこら彼処かしこに飛び交う。



 想定もされなかった数百億ボルトのエネルギーに飛行甲板(フライトデッキ)左右にある対空ミサイルとCIWSが続け様に爆発を起こしデッキクルーが避難するのを追いかけ駐機していた2機のF/Aー18Fスーパーホーネットの翼下ステイションに搭載されたAIMー9Xサイドワインダー空対空ミサイルがまだセーフティを抜かれていないにも関わらず爆発し主翼を半壊させ機内燃料タンクに引火しパイロットやウィゾー(/Wizzo:兵装システム士官(W S O)の海軍での俗語)が転げ落ちる様に逃げ出した。そばでは赤のメットや着衣の消火クルーが滝の様に押し寄せてくる白光に近い先駆放電(ステップトリーダー)を物ともせずにCASVで駆けつけ車両の消火ノズルでFAAA剤での消火を始め、隣立つ機体のステイションからミサイルや増漕を切り離し甲板(デッキ)サイドのシュートから暗闇の洋上へと次々に投棄した。



 その逃げずに対処するクルーらに電柱よりも太いいかずちがジグザグに甲板(デッキ)えぐりながら迫り彼らが顔を引きらせた目前で急ハンドルを切っていきなり曲がったスポーツカの様に直前でカーブをえぐりながら真横へ避け次の獲物を決め甲板(デッキ)のパッドアイにチェインで固定された駐機中のF-35(Two)へ襲いかかると電波吸収コーティングがわざわいし雷撃に主翼と胴体外板を深くえぐられた。



 だがほのお消え切らぬ前にまるでプラズマボールの踊り狂う木の幹ほどもある放電が様々なものに襲いかかった。



 その巨大な雷の滝が急激に押し寄せ甲板建造物(アイランド)を飲み込んだ刹那せつな甲板(デッキ)内のすべての照明やモニタが落ち、そこにいた下士官以上のもの達は窓から後退あとずさった。



 青白い閃光に照らし出されたデッキの電子機器は対EMP対策が取られていたが、軒並み火花を飛ばし幾つかがスリットやパネルから火を噴いた。消火器を手にした下士官や水兵が駆け回る中、スティーブン・C・エヴァンス艦長(スキッパー)はCICである戦闘指揮センター(C D C)や大量の弾薬のある格納庫(ハンガー)は大丈夫なのかとインカムに歩み寄った矢先に受話器が火花を飛ばしコードから火を噴いて手を引いた。



 まるで電磁パルス攻撃を受けたごとき惨状に叫びや上擦った声が飛び交い、統制を失うまいとエヴァンス艦長(スキッパー)は怒鳴り続けた。



 その瞬間、青に遅れてきた純白のかがやきが艦橋(ブリッジ)を飲み込みそこに立つ全員が意識失う一閃いっせん────超高電圧で電離され発生した強電磁波が脳のシナプスに銀河のきらめきを見せた。











 方位195、距離2海里(nm)(:約3.7km)を進む空母CVNー77(アヴェンジャー)の前衛、対潜水作戦増強編成第22駆逐中隊アーレイ・バーク級ミサイル駆逐艦(デストロイヤー)DDGー72マハンは水平線上に現れた火球が一瞬にして左舷100フィート足らずを猛速で駆け抜け、それが艦橋(ブリッジ)下を抜ける瞬間、傘状の巨大な噴射炎でその噴流に艦が20度も傾いた直後、衝撃波に艦橋(ブリッジ)の窓ガラスがひび割れ数枚が吹き飛び、そのミサイルが海上に穿うがった巨大な谷に引きられ落ち込み、アヴェンジャーから膨れ上がった白球が寸秒で空母を飲み込んでさらに右舷後方2海里(nm)に進むDDGー103トラクスタンが滝の様に押し寄せる白光の壁に飲み込まれた。



 艦長のエルマー・バグウェル中佐(C D R)は核攻撃を受けたのだと理解に至り発令所当直士官(C O D)に警報発令を命じかけた刹那せつな、マハンは艦尾(スタン)から急速に押し寄せる光球の壁に飲み込まれゼネラルエレクトリックの4基のガスタービンエンジンの制御系が火を噴きダウンし同時に連接した艦尾(スタン)側のアリソン501ーK34発電機3号機がまず火花を散らし、続けて第2機関室と第1機関室の同型発電機も火花を撒き散らし全電力が失われた寸秒2組の二重反転スクリュウ(C P R)は完全に停止し推力を失った。



 艦橋(ブリッジ)統合ブリ()ッジナビ()ゲーショ()ンシステ()ムが軒並みダウンし使える航海機器が機械式のものに限られ第1種戦闘態勢にあった艦の要員はすべて耐火服だったが極めて高い電圧と高電磁パルスへの耐性はなかった。



 金属という金属、空気すら伝導体となり電離させながらつらぬく雷撃が鉄とアルミでできたDDGー72マハンを縫い上げる様にいかずちの針と糸が貫通してゆくと、ほぼ総ての乗組員が意識喪失または何らかの神経的行動不能になり舵を失い艦は惰性で左舷へと緩やかに曲がりだした。



 直前まで27ノット(:約50km/h)を出していた2280億ポンド(:約1036億t)の慣性質量のかたまり──CVNー77空母ジョージ・H.W.ブッシュがほとんど減速せずにアーレイ・バーク級DDGー72マハンの第2排気管群のある後部デッキハウスへと目掛け迫った。



 巨艦のアッパーバウがミサイル駆逐艦(DDG)マハンの後部デッキハウスと甲板(デッキ)左舷に轟音を放ち接触した刹那せつな波浪に対する強度をフックやストリンガー構造材で強化してある巨艦が駆逐艦(デストロイヤー)のシタデルを上回った。一瞬にしてデッキハウスが破られ舷側甲板(ボードサイドデッキ)から乾舷(フリーボード)が裂け海氷に食い込む砕氷船の様に艦首の平たい部分が駆逐艦(DDG)を押し傾け尖った部分が割り込み第2機関室に大量の海水が侵入した一閃いっせん海上に変化が起きた。



 雷球を追いかけるように空母を中心とした海面がなぎの海面に映し出される月光の様に白くなり始めると一秒に200フィート(:約60m)の速さで波が氷結し空母を中心とする艦艇をアイスパックで飲み込みだした。一瞬で巨大なCVNー77を足止めし、駆逐艦(デストロイヤー)マハンも氷床ひょうしょうに取り囲まれ濁流の様に入り込んでいた海水も凍りついてとどまった。



 それでも雷と電磁パルスの暴爆の球体は毎秒98万フィートの極超高速で補給艦を含む10隻の艦隊を40ミリ秒で飲み込み戦闘不能におとしいれた。











 発令所(C R)のマリア・ガーランドを除くみなが無言で動き止めていた。ダイアナ・イラスコ・ロリンズがするどく問いただしそれを破った。



「マリア────い、今のは何なのですか!? 今この発令所(C R)に広がり──内殻ないかくを貫通したプラチナの様な幻視は何だったの────!?」



 マリーはみなの視線に気づき眉根をしかめ苦笑いを浮かべルナへ振り向くと難詰なんきつにどう応えるかをおいて考えた。右腕とも言うべきルナは科学と工学のインカーネイション(権 化)。生半可な誤魔化しで納得させられるはずもない。



 三次元作戦電子海図台(3 D C C T)の角を隔て横に立つ彼女の方へマリーは台に片手ついて上半身を乗り出し耳元でささやいた。



「魔法よ。ミサイル1発の機能をかなり拡張し第2空母打撃群(C S G)の中枢10艦を戦闘不能にしたのよ。みなには黙っておいて」



 聞いている戦術航海士(T M)は初め戸惑いの表情を浮かべ険しい表情に変貌へんぼうさせた。



「マリア──貴女あなたはここにいるみんなが眼にしたものへの説明責任があります。それをファンタジーだと超自然の現象だとで済むとお思いなのですか!?」



 押し殺した声で問いただすルナにマリーは面倒くさい女だと思った。



「おい、銀髪──お前先の術式で何をやったんだ!? この船が飛ばした何かをどうにかしたのか!?」



 シルフィー・リッツアまで責める側に加わりマリーはたとえ魔術操るシルフィーとてアンダーリーイング・ランゲージ──根底術式の万物調和語(A C H L)を理解できないだろうと思った。それに説明しようにも自身の理解が網羅もうらには程遠い状態なのだとも思う。それでも今の時点で理解してる事を直感的にルナの知識を使いできるかもとこころみた。



自然界(ユニバーサル)の構成システムを左右できるコンフ()ィギュ()レーシ()ョン・()コード()と対応するモーニック──イン()ストラ()クショ()ン・セ()ット()────は逆アセンブラから見ると一切の説明がなく人という処理能力には難解で────」



 マリーが数回言葉に詰まるとルナが端直に指摘した。



「マリア、理解して話してますか?」



 マリーは頭の中をミキサーで掻き回した様だと開き直って右手の平を上げると軽くハミングした。





"La Galaksia Malkompililo..."

(:銀河系を逆コンパイル)





 甲高い金属音が響き、マリーの手の平の上にラージサイズのピザよりも一回り大きなの光点の集合体が現出し明るい室内にも関わらずその光の点1つひとつが独自にまたたき鋭い光を放った。



神働術(テウルギア)にして極限の術式系統──アンダーリーイング・ランゲージを使うと私達のいる銀河系をもこうして自在に────」





 ルナがあごを落とし三次元作戦電子海図台(3 D C C T)はさみマリーの向かいに立つクリスタル・ワイルズが視線をマリーの右手の平に釘付けにされつぶやきルナが問いただした。



綺麗きれい────天の川ですよね」



「マリア、そのホログラムはどうやって表示されているんです!?」



 やはりこいつが1番受け入れ切らずにいるとマリア・ガーランドは思ってルナに声を張り上げ言い張った。







正真正銘しょうしんしょうめいの魔────」







「海面に着水音1、2、3、4基! 総てスクリュウキャビテーションに。短魚雷Mk46。方位15! 距離2700(:フィート約823m)! 雷速加速中、アクティヴ(ピン)打ってません!」



 ソナーマン・チーフのエドガー・フェルトンがコンソールに向かい合ったまま告げマリーとルナが三次元作戦電子海図台(3 D C C T)のホログラムに視線を下ろすと東方に4つの棒状のアイコンとTPと表示されディプスオルカの方へ散開し蛇行を始めた。



 海軍が放ったMk46のアクティヴ(ピン)に切り替わるのに備え対潜ヘリはアクティヴ(ピン)を打つのを止めパッシヴに切り替えたはずだった。メリーランドのスクリュウ音を放ちながら低速航行しているので水上艦艇はまだディプスオルカをメリーランドと想定しているはずだった。



 だが攻撃型原潜をあざむけるほど甘くないとマリーはルナの知識から判断した。



音響魚雷(A D T)で3艦の原潜をらせるかしら?」



「この艦の音響魚雷(A D T)は優秀で放つ帯域総てに渡りかなりの部分を模倣できますが、急場に高速設定で送り出すとポンプジェットのキャビテーションでフェイクと気づかれます」



 手を打つなら1度でも後手に回ると厄介やっかいだと軍事工学に卓越たくえつした女が警告していた。水上軍を叩いたのは戦いの基本としてそれを警戒したためだった。水中では精霊シルフの魔法防壁(マジックウォール)の加護はない。たたかれれば魚雷対抗近接防衛兵器(T C I W S)でメリーランドでないとバレてしまう。



 そうだわ! シルフィー・リッツアが攻撃機を撃ち落とすのに光の矢みたいなものを放っていたのを見てレーザーの原理について考えた。



「ルナ、魚雷対抗近接防衛兵器(T C I W S)でなく新型アクティヴソナー(L ーP i n g)を向かってくる魚雷に浴びせるとシーカーが誤作動するかしら?」



 ルナが一瞬怪訝(けげん)な面持ちを浮かべ考え込んでマリーに問い返した。



「何をお考えなのですか? 不可能です。新型アクティヴソナー(L ーP i n g)はスポットで海水を爆発させアクティヴ(ピン)を打つシステムです。それに比べ魚雷は雷速50ノット以上で位置を変えて来るので適時にそこへ合わせる事ができません。その位置を精確に捉えられないからです。よしんば捉えられたとしてレーザーアクティヴ(ピン)のエネルギーは高いのですが、減衰するのも早く魚雷シーカーは即座に履行りこうモードで追尾を開始します」



「位置を知りレーザー出力を嵩上かさあげしたら攻勢に使えそうね」



 この人は説明を理解しなかったのかとルナが顔を引きらせ先の発令所(C R)に広がった幻覚が意識をよぎった。



「何をなさるおつもりですか!? レーザー投射機には定格があり、余剰なエネルギーは放てません。リアクターが吹き飛びます」







「大丈夫よ。空母に放ったミサイルはマック30まで加速させても機器が耐えたわ。シールドは付け足したけれど数秒で命中したわ」







 マック30!? シールド!? そんな能力を搭載したミサイルに与えてはいない。どうやってそんな事を────とダイアナ・イラスコ・ロリンズはあらゆる可能性を思い浮かべ、非科学的現実がそこに残った。












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