Part 4-1 Behind the Mask 仮面の裏
FMC(/Federal Medical Center) Devens, Town of Harvard Worcester County, Mass. 11:28
11:28 マサチューセッツ州ミドルセックス郡 連邦刑務所局デベンズ連邦医療センター
刑務官2人は受刑者を部屋に入れると、1人の刑務官が受刑者カエデス・コーニングの肩に手をかけ、部屋の中央にある引き出しのない事務机の前にあるパイプ椅子に座らせた。
「久しぶりね、カエデス」
男の視線がローラの斜め後ろに座るパティに向けられている事にFBI捜査官はまず興味を抱いた。
「ああ、公判以来だな警部さん」
「私の助手が気になるようね。相変わらず女性から皮膚を奪いたいと?」
「奪う?」
カエデスは彼女にそう問い返しニヤニヤしながら背後にいる少女から視線を外した。
ローラは、やはりこの男1年前に捕らえられたことを反省するどころか、いまだに性癖のように犯罪へ志向していると感じた。捕らえられ処刑されるリスクもコストも関係ない。シリアルキラーの特徴は隠しきれるものでない。幾つか鎌を掛け反応をみることにした。
「連邦刑務所で自由運動時間に誰とも話さず孤立してるそうね。馴染めない?」
ローラは報告書類に眼を通しながら尋ねた。尋ねた直後に僅かに視線を上げて男の様子を盗み見た。男は平然とにこやかな表情でいる。
「あいつらと違うからな」
他者に対する優越感の保持に当たっていた。恐らく同種の切り口の違う質問をしても適合してないとチェックに引っかかるだろう。
「彼らの方から関わってきても言葉巧みに遠ざける自信はあるの?」
彼女は、カエデスが問いかけられた直後鼻で一瞬笑う事に気がついた。他人を操ることに熟練した自信を持っている。しかも人を操ることに抵抗感がない。他人の自我や生活、考えを意に介さない連続殺人鬼特有の思考だった。
「刑務所でも退屈や欲求不満、怒りは度々感じてるの?」
「しょっちゅうだよ。当たり前じゃないか。それらを感じないなんて終わってる」
社会に対する不満はシリアルキラー全般に見られる傾向だった。この人はたえずそれらの不満から行動選択をしている可能性があり、直情的で普通の人が逮捕され地位や収入、人生を失うリスクを足枷とする連想を簡単に乗り越える。
「そう思うことに、罪悪感、愛、後悔、感情的な痛み、恥ずかしさは微塵もないと?」
「あぁ? あんた、俺をなんだと思ってる? 俺も人だぜ。感じてるに決まっているだろ。 生きるの止めたらどうだ?」
嘘をついた。それを隠すのに攻撃的な口調になった。その返答にローラは人の性善せいに乖離していると強く感じた。だがメンタルテストに私情を挟んではいけない。
「代わりに、爆発するような怒りを感じると?」
答えずに彼は俯き忍び笑いを一瞬洩らした。都度つどそういう思いを抱き行動に結びつけていると判断できる。ローラは質問の方向性を変える事にした。
「もしも出所できて、あなたが見知らぬ5人の困り果てた人達に出会ったなら、次のうち何を選ぶ? 1、何もしない。2、100ドル渡す。3、1万ドル渡す。4、再逮捕される可能性もなく1人を殺す。5、同じ理由で4人を殺す。6、刑務所生活に戻る。7、自ら死を選ぶ」
俯いたままカエデスはまた鼻で笑った直後呟いた。
「どれもいいな。たんまりと金を与え喜ばせて全員殺して俺も死んでやるよ。そうすればみんなハッピィだぁ」
金銭を与えるのと同じく死をもたらす。恐らくは死生観が根本的に違う事が考えられた。毎回重犯罪者にメンタルテストをしてるが不快感を強く感じだすのはいけない傾向だと警部は思った。だがこの男にはふつふつと腹立たしさを感じる自分に気がつく。
「それじゃぁ、もう1つ聞かせて頂戴。カエデス、あなたは自分を偽っていない?」
ゆっくりと男が顔を上げた。片側の口角を吊り上げていた。その表情が多くをもの語っていた。
さらに質問しようとすると、ローラはいきなり片肘の後ろを引っ張られパティに意識を集中して語りかけた。
『どうしたの?』
「部屋を出たい」
ぼそりと少女が言った事にローラは首を振り向け横顔で彼女を見つめた。
『この人──部屋に入ってからずっと私の皮膚の剥がし方ばかり考えてる』
意識に語りかけた内容にローラは男に顔を振り戻した。連続殺人鬼は無表情に彼女を見つめ返していた。
視線はパトリシアへ向けられていない!
カエデス・コーニングがメンタルテストを受けながら次の犠牲者の事ばかり考えていたと知り、ローラ・ステージは侮っていたと顔を強ばらせた。
☆付録解説☆
1【Psychopath/サイコパス】日本では精神病気質などと表現される事も多い、反社会的人格の一種で異常心理学分野での研究対象となっています。作中ローラが行っているのはBritish Colombia CollegeのRobert D. Hare(/ロバート・D・ヘア)博士が1970年代に開発した「改訂版サイコパシー・チェックリスト」の簡易方法です。正式なメンタルテストには2時間ほど時間を要しアメリカでは同テストで30ポイント以上だと傾向が強いとみなされます。




