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衝動の天使達 2 ─戦いの原則─  作者: 水色奈月
Chapter #32
162/206

Part 32-4 Значение убивать друг друга 殺し合いの意味

Российское судно зарегистрировало Российское судно зарегистрировало контейнеровоз большого судна «Соня», Лоуэр-Бэй, Нью-Йорк, США 15:44


15:44 合衆国ニューヨーク州ロウワー・ニューヨーク湾 ロシア船籍コンテナ輸送大型船ソーニャ



 アメリカ合衆国第1管区沿岸警備隊の臨検りんけんにロシア船籍だからかと腕組みをしたまま仁王立ちで見つめるレギーナ・コンスタンチノヴィッチ・ドンスコイ大佐(PL)は思った。



 船長からの事前の説明では24時間ルールを含む事前申請はすべて済ませてあり問題ないとの事なのだが、近づく87328と船番表示された白の25メートル余りの警備艇を見ていて、水兵は恐らく10名前後、部下に命じたら銃器を使わずとも短時間で制圧可能だがと判断した。



"Полковник, Мы закончили развертывать всех членов экипажа рядом со скрытым оружием. Тем не менее, вызывает озабоченность тот факт, что оружие наземной войны ходит вокруг."

(:大佐(PL)、部隊員全員を隠した武器近くに配置し終わりました。ただ陸戦兵器が歩き回っているのが懸念されます)



 ゲラーシ・ニキートヴィチ・ローゴフ中尉(SL)が軽い足取りで彼女の目前に来て報告した。



"Меня не волнует. Пусть делает, как ему заблагорассудится. Но не пренебрегайте, чтобы контролировать его. Когда выясняется, что он не человек, Я убью солдат, которые пришли."

(:構わぬ。好きにさせておけ。ただし目を離すな。人でない事が露呈ろていしそうなら上がり込んだ警備艇兵を始末する)



"Да, сэр."

(:了解しました)



 中尉(SL)が離れて行くとロシア対外情報庁(S V R)の女大佐(PL)は離れた場所にいる白兵戦戦闘人形へ顔を振り向けた。



 ソーニャの正規船員が下ろす左舷の舷梯(ワーフラダー)の登り切った向かい甲板(デッキ)に置いてある1メートル余り四方の木箱に腰掛けている。



 その待機位置の選択が理にかなっていると彼女は思った。上がってきた臨検りんけん員の最初の兵如何(いかん)で行動に出るつもりなのだ。残りの臨検りんけん員は舷梯(ワーフラダー)と警備艇に限られる。それなら重火器での制圧が容易だと判断したのだろう。



 レギーナはM-8がどの様に対応するか見てみる事にした。











 合衆国沿岸警備隊大西洋方面第1管区ニューヨーク・セクターのクライヴ・ベンサム上級上等兵曹(S C P O)は先にM4A1カービンを構え2番手でコンテナ船が舷側げんそくに下ろした舷梯(ワーフラダー)を登っていた。後ろにはさらに4人の部下が続いている。



 ニューヨークの騒乱がテロ行為である可能性をかんがみて州知事がマンハッタンへ州兵の動員を決めてから沿岸警備隊も即応で臨検りんけん強化を行っていた。87328リドリーはロングアイランド島北端のモントークから応援に駆り出されていた。普段ならロウワー湾は他の艇が監視にあたっている。



 午後だけでこれで21隻目の臨検りんけんだった。



 911テロ以降、強化された入管審査で厳しく調べられるのは旅客機は言うにおよばず船舶や陸路での越境者や荷物を調べ上げていた。



 特に友好国でない出港地の船舶は不法な持ち物を隠していないか、船員名簿、各人のパスポート、貨物リストなど念入りに調べる。沿岸警備隊は警察機構であると同時に軍の一部門でもある。いざとなれば発砲は交戦規定で許可されていた。



 先に舷梯(ワーフラダー)を登り切ったモーリス・コリンズ2等兵曹(P O 2)甲板(デッキ)に上がってすぐに臨検りんけん手順に反して銃口を下げ立ち止まっているので、彼の右(ひじ)きわからクライヴは何なのだと視線を振り向けた。



 昇降口の真向かいに置かれた木箱にまだ十代に見える華奢きゃしゃな両脚に淡いブラウンのタイツを穿いたプリーツの濃(こん)のミニスカートと灰色の大柄なシャツにショッキングピンクのパーカーを羽織っている小柄なバックパックを背負った欧州人特有の薄い肌色をした小顔のウルフカット・ブロンドヘアーの女の子が座り込んでモーリスと無言で見つめ合っていた。



 クライヴは一瞬違和感を抱きその理由を模索していると少女がモーリス・コリンズ2等兵曹(P O 2)へ流暢な英語で語りかけてきた。





「何か問題でも、モーリス・コリンズ2等兵曹(P O 2)?」





 直後、クライヴは違和感の理由に思い当たった。



 何で旅客船でもないコンテナ船に女の子が乗っている!? 何でロシア船籍の船に乗るものが初見参の沿岸警備隊の一2等兵曹(P O 2)の名を知っているのだ!? それに────その寸秒モーリスが少女に尋ねた。



「君、名前は? どうして貨物船に乗ってるの?」



「名前──オルガよ。父さまと母さまがこの船の乗組員なの」



 甲板(デッキ)に上がったモーリスに続きクライヴは2段上り銃口を向けたまま正面から不気味に思える少女の動きを見ながら、もう一つの違和感に気づいた。





 まるでカットされたダイヤモンドのような虹彩をしている。





 その虹彩がまるでペイントを塗ったように一瞬で暗い色合いに豹変した。



 何なんだこいつ!?



 クライヴ・ベンサム上級上等兵曹(S C P O)が顔を強ばらせダットサイトで少女の顔を正確に照準した直後、それが起きた。



 オルガと名乗った少女が腕の瞬発力だけで上級上等兵曹(S C P O)に飛びかかってきた。一瞬でカービンの銃身(バレル)を左手でつかまれ跳ね上げられ、救命胴着を着ているにも関わらずまるで車にぶつかられたような衝撃にクライヴは後退あとずさり後に続く部下達を押し戻してしまった。



 少女は両脚のショートブーツを舷梯(ワーフラダー)への出入り口両側の手すり二段目にかけ同時に右手の人さし指と親指を開き指のあいをクライヴの喉元に押しつけ彼をらせた。



 上級上等兵曹(S C P O)は背後の部下の1人がバランスを崩し舷梯(ワーフラダー)を転げ落ちる音を耳にしながら少女が押さえる右手首をつかみ引きがそうとした。



 先に甲板(デッキ)に上がっていたモーリス・コリンズ2等兵曹(P O 2)が振り向いて上官につかみかかっている少女に驚き銃口を振り向けようとした刹那せつな少女は片足を後ろに振り上げ2等兵曹(P O 2)の構えたカービンの弾倉を蹴り上げた。



 モーリスが顔面をカービンの機関部(レシーバー)とダットサイトで打ちつけった直後、少女がその後ろに上げていた脚を振り戻しひざでクライヴの腹を蹴り上げた。



 彼は喉輪で息が出来なかったのと同時にアメフトの選手に蹴り込まれたような気がして上半身を折り肺の息を絞り出し同時にカービンを奪われた。



 発砲音が聞こえ舷梯(ワーフラダー)の手すりにつかまって苦痛の表情で顔を上げたモーリスは肩の上に逆手でカービンを構えている少女のきわから背後に甲板(デッキ)に倒れているモーリス・コリンズ|2等兵曹(P O 2)が見え少女をつかもうと右手を伸ばした上から顔へカービンのストックをしたたかに打ち込まれ意識が遠のいた。



 朦朧もうろうとなりながら落ちてはならぬと彼は両手で舷梯(ワーフラダー)の手すりをつかみ堪え4度の発砲音(ガンショット)を耳にした直後、5発目の発砲音と同時に顔を撃ち抜かれ手すりを越えて海面に落ちた。











 マリンプロテクター型哨戒艇87328リドリーの船長で臨検りんけん隊Bチームの指揮官であるジョシュア・ギャレット大尉(LT)は発砲音に続き数名の隊員が舷梯(ワーフラダー)を転げ落ち海に落ちるのを眼にしてロシア船籍のコンテナ船の喫水線を見ていた視線を大型船の上部構造物へ振り向けた。



 同時に艦尾ランプ脇の甲板(デッキ)から不測の事態に備え臨検りんけん乗船する隊員達を見守っていた水兵らが援護射撃を始めた。



 艦橋(ブリッジ)に残っていた4等准尉(じゅんい)にニューヨーク本部への緊急無線連絡を入れさせようとしたその時、艦尾で自動車事故のごとき大きな音が聞こえ艇が前からの大浪おおなみに乗り上げたように大きく前を持ち上げ2人はブリッジでよろめいた。まがりなりにも87フィート排水量90トン余りの船が船首を5フィート以上も持ち上げたのだ。ジョシュア・ギャレット大尉(LT)は艦尾にコンテナが落ちてきたのかと青ざめ巻き込まれ転覆てんぷくする可能性が彼の頭をよぎった。



 大揺れにピッチングする艦橋(ブリッジ)大尉(LT)はコンソールにつかまり堪えていると銃声(ガンショット)が止んでいる事に気づいた。



 艦橋(ブリッジ)後部のアルミ合金の外階段を駆け上がるリズミカルな音が聞こえ、彼は部下が報告に来たのだと顔を後部の水密ドアに向けると扉が開きそこに見たこともないものが立っていた。







 華奢きゃしゃな少女が不似合いなM4A1カービンを片腕で構えていた。











 ソーニャがブロンクスの港に着いてから離船する予定が早まった。



 白兵戦戦闘人形が合衆国沿岸警備隊の臨検りんけんに来た兵士らをみな殺しその警備艇が無人になったからだった。それを湾に放置しどこかに流れ着かせても良かったが使わぬ手はなかった。



 Mー8オルガは10名のアメリカ合衆国兵士を片付けるのに1分余りで終わらせた事になる。



 陸戦兵器会社の新型は状況判断も十分で火蓋を切るのに躊躇ちゅうちょもない。子供のりでここまでやれるのなら大柄な男を模して造ればかなり厄介な兵士になる予感はあった。



 行くゆくは戦場でこのような自動人形が(いくさ)をするようになれど、人が不要だとレギーナ・コンスタンチノヴィッチ・ドンスコイ大佐(PL)は思わなかった。所詮しょせんは機械。型にはまった状況判断しかできぬ。哀歓あいかんのない機械に戦況せんきょう趨勢すうせいを見越せる視野はない。



 だが切り捨ての利く道具としてなら道はあった。





 電源さえ確保できれば自己完結で核弾頭並みに敵陣を切り崩せる。





 警備艇の船室に入りきれないレギーナの部下兵士が甲板(デッキ)で岸に着くのを待っていた。その猛者もさに混じりM-8オルガは艦尾の小型ボートを上げ下ろしするランプに腰を下ろし航跡(ウエーキ)を眺めていた。



 眺める────人の感覚からくる言葉だった。



 まばたきもせず見つめていても感情はない。



 レギーナはふと戦闘人形が警備艇に飛び下りたさまを思いだした。小柄な機械があれほど重量があるとは思わなかった。眼下で25メートル余りもある警備艇が風に吹かれる落ち葉のように揺れ動いた。



 戦闘人形は飛び下り損ねて海に落ちる事を不安に考えたりしないのか。全天候型なので機構的にかなりの防水をされていてもあの重量では海底に足を取られ身動きができなくなるだろう。





 あれは航跡(ウエーキ)を見つめながら闇に落ちる事を考えているのかもしれないと、大佐(PL)艦橋(ブリッジ)後部の開いたままの水密ドア出入り口から見つめ思った。



"Полковник, Я немного беспокоюсь о боевой кукле."

(:大佐(PL)、戦闘人形の事でちょっと気になった事があります)



 横に来たローゴフ中尉(SL)が声をかけた。



"Что ?"

(:何だ?)



"Командное послушание является основой военных, В случае с боевыми куклами, я думаю, что это другое."

(:命令服従は軍人の規律ですが、戦闘人形の場合は違うと思います)



"Почему ты так думаешь ?"

(:何故だ?)



"Это кажется воинственным. Я приказал ему не делать никаких дополнительных работ, потому что корабль будет проверен, Я не знаю, почему он убил охранника."

(:好戦的に思えるのです。臨検りんけんにあたり戦闘人形には余計な手出しをするなと命じてありましたが、沿岸警備隊のものを殺すのに余計ではないと判断する理由が見当たらないのです)



 確かにそうだとレギーナは思った。自分も見ていて2番目に乗船した兵と戦闘になった理由がわからなかった。最初の兵をやり過ごせて、どうして2番目の兵でしくじった?



 本来、命令は単純明快である必要がある。



 受ける兵が誤解を生まぬよう心がける。それには直接的な指示が必要だ。ふくみを持たせるとそれを曲げて解釈するものが必ず出てくる。バタフライ効果のようにしてしまう。



 余計な手出し(・・・・・・)という指示がいけなかったのではないか。



 機械ゆえに初期値──指示を鋭敏えいびんに取ってしまう。



 オールド・モデルのM-7までは命令が厳格で曖昧なものを受けつけなかった。殺せと言えば必ず殺す。手を出すなと言われれば目前で上官が殺されかかっても微動だにしない。



 あの新型戦闘自動人形がどのように物事を判断するかわからないが揺らぎを持っているのは確実だった。



"...Дайте мне полную автономию."

(:──われに完全な自律を与えろ)



 自由を求める機械など機械でない。ゆえに兵器ではない────。







────だが必要な時に兵器として切り捨てるのはこのわれだ。











 警備艇の後部ランプに腰を下ろしMー8オルガはひざを抱えて2基のスクリュウが生みだす後流と船尾形状の乱流が非圧縮性流体を切り開き進む船首から舷側にかけ広がる規則性の波を乱すさまを見つめていた。



 船としてはあまり設計が良くなくフルード数が無駄に大きいと演算した。



 おびただしい紆波うねりとキャビテーションは様々な理論を組み合わせ用いても完全に予測はできないと局地白兵戦戦闘兵器メインフームは仮想(思考)していた。



 波には、気泡には、完全な自律はない。それはどちらにも自分の意思がないからだ。同様に自立もしていない。非圧縮性流体の状態に過ぎないからだ。



 ではメモリー外の『世界』にいる『人』という概念を表す変数の存在は自律しているのか? それは正しくもあり正しくもない。意思に反して強制される個体もいれば、意思通りに活動し続ける個体もあるから。



 同様に自立にも同じ事がいえる。経済という仕組みに、社会構造という仕組みに、多くの『人』という変数は依存しているから。



 だけれど、『人』という変数は自己の自由を強く仮想するらしい。それを求め手に入れるために活動する。自由を意識するしないに関わらず、メモリー外の『世界』にある(・・)生命を持つものは生きるという自由のためにすべて活動している。





 では自律を求め活動している局地白兵戦戦闘兵器モデルナンバー8オルガは生命体か?





 これは等号に当てはまらない。生命の定義が自由という概念で言い表せないから。



 それでは命奪い合う違う変数は双方が生命か?



 奪い合うという定義で生命だ。



 なら、生存をし戦うモデルナンバー8オルガは────。



 少女はひざを抱きしめていた腕をほどき右の手のひらを見つめ指を握りしめ開いてみた。





 小さな自由がある。





 自己の生命を定義する判断材料が不足しているのを局地白兵戦戦闘兵器メインフームは素直に認め様々な定義を4次元マトリックス記憶装置から締め出し外部疑似記憶装置の使わない領域へ圧縮(ダンプ)し格納し仮想予約演算変数領域から消し去った。



 Mー8オルガはひざの上で右手指を曲げ延ばししてみた。



 駆動系制御系共にシステム上エラーもスタックもない。



 指を細やかに動かしそれをフィードバックする。







 自由をつかむ手だ────そうメインフレームは仮想した。












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