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衝動の天使達 2 ─戦いの原則─  作者: 水色奈月
Chapter #3
16/206

Part 3-5 Magic Blow 魔法打撃

Barrett Rd. Wawayanda State Park North-Jersey NJ., U.S. 11:31

11:31 合衆国 ニュージャージー州 ノース・ジャージー ワワヤンダ州立公園 バレット・ロード



 ノースセントラル・ウエストバージニア州警察のハリック・リンドバーグ巡査は道路脇の草むらに飛び込んだままグロック19を握った手で制帽ごと頭を抱え込んだ。



 ビッグリグが焼き討ちにあったとの緊急コールセンターからの要請で現場バレットロードにSC(:警察車輌)4台が次々に駆けつけると、溶け落ちてくすぶり続けるリグの50ヤードほど先の道路に立つ金髪の長身の女に気がついた。



 他の巡査がリグのドライバーに話を聞いている間ハリックはその女に職質しようとリグの残骸をかわし歩いている途中でいきなり女のひざ下に赤いネオン灯のような円形状の光が広がった。そうして女が片腕をさし向けたので手に銃器が握られていると彼は一瞬思った。



 いきなり背後にいた巡査が怒鳴りつけ威嚇いかく発砲すると、女の前に大型冷蔵庫ほどのあおい長方形の輝きが立ち上がった。



 何なのだとそれらの光の造形に眼を奪われていたハリックは腰のホルスターからグロック17を引き抜いて前方に引き上げた。



 その刹那、女の前にアセチレンバーナーの炎のような──ただ直径がちょっとした家ほどもある火焔が沸き上がるとその火焔がうねりながら飛んできて彼は道路脇の草むらに飛び込んだ。爆轟が横から聞こえ彼は草の上に顔を出し仲間達の方へ向けると2台のSCが原形をくずしオレンジや赤い火焔を吹き上げていた。



 あの女がビッグリグを焼き払ったんだと理解したハリックは爆炎を上げ続ける2台のSCから離れ3人の巡査がM4A1で射撃を始めたので草むらで上半身を起こし片(ひざ)を立てた状態でグロックを女へ向け発砲し始めた。



 驚いたことに、女の前に暴徒鎮圧時に使うたての4倍の広さの青い長方形の輝きが幾つもずれて発生し、その反対にいる金髪の女がカービンやハンドガンの銃弾を受けているはずなのに倒れずに突き出した両手を揺り動かしていた。



 火炎放射器のような武器を使いやがる!



 彼は銃を突き出したままうなつぶやいた。



「まずい! まずいぞ!」



 彼は悪態を吐き捨てるなり振り向いて仲間の1人に大声で叫んだ。



「バーンズ! 軍が使うような武器を使われている! 無理だ! 増援を! SWATを呼べ!」



「呼んだが出払ってる! 署長が州兵の出動を知事に要請すると!」



 軍が来る。軍でなければ絶対に無理だ!



 聞こえだした音にハリックが振り向くと女の前に新しい爆炎が膨れ上がっていた。











 サンドワームを倒したと思い幾筋も煙を上げるむくろを見つめながらシルフィー・リッツアはどうして焔がサンドワームを襲う直前に人が横へ飛び出したのだと思案した。



 サンドワームに人がしがみついていたのだろうか?



 人がサンドワームを操るなど聞いたこともなかった。



 灰色の帯の地面から駆けて逃げだした人の背を見つめているとその男はかなり離れた場所で立ち止まり振り向いた。



 何をしているのだ? と彼女が見つめていると男は片顔に何かを押しつけてこちらをじっと見ていた。



 本当にサンドワームだったのだろうかとシルフィーは怪物の死骸へ歩き出した。



 殺したサンドワームは首の辺りから黒煙を吹き上げ向かって来た。炎属性のサンドワームも見たことどころか聞いたこともなかった。炎属性の敵を倒すのに同じ属性の魔法術式を唱えたことを後悔したが、たかだか怪物風情に魔力で劣ることはないと瞬時に判断した結果だった。



 シルフィーはむくろにたどり着き竜のうろこなめし革で作った靴の爪先つまさきで黒こげの外皮をつついた。



 カランと乾いた音がして彼女は眉根を寄せ唖然となった。





 鉄! まさか鉄なのか!?





 シルフィーはサンドワームの外皮を靴底で転がした。また乾いた音が聞こえ彼女は眉間に力を込めた。





 人がサンドワームに鉄の甲冑をつけ操っていたのか?





 この世界の人間種は怪物に防具を与え戦士として使役しえきさせているのか? まさか────。





 彼女は腰を折り黒こげのむくろをよく見ようとした。どれもが焼けすぎてハッキリとしない。それでもよく見回していると黒い体液のようなものが広がった部分を見つけ歩き寄り、伸ばした指先でそれをぬぐった。



 鼻に近づけ匂いを嗅ぐと、ランプ油に似た匂いがした。



 まさか──怪物の血に油が流れてるだと!?



 有り得ない!



 自分のいた世界では人は怪物に怯え、使役しえきどころかよく餌となっていた。



 今、いるこの世界では人はより力を得ていることが考えられた。





 だが人だ。時と場所を選ばずに戦闘を好むまるでゴブリンのような性質を持つ。





 あまり、関わりたくはないと腰を伸ばすと、シルフィーは草っぱらに立ち尽くしこちらを見つめている男をにらんだ。



 お前がサンドワームを私に仕向けた。



 敵対するなら、あれ(・・)同様に相手になってやるぞ!



 どのみちこの世界であれ(・・)を倒すためなら人の集落1つや2つ蹴散けちらしても構わないとシルフィーは思った。。



 突然にか細くも周期的な聞いたこともない神経質な音が長い耳に入り立てた。



 シルフィーは足場の悪いサンドワームの死骸から後ずさると急激に大きくなる音に注意しながら黒煙を立ち上らす残骸からどんどんと離れた。



 灰色の帯の地面の先へ視線を向けたまま脚を後ろに繰り出していると、曲がった地面の奥から新たな怪物が現れた。



 丸みのない角張ったその怪物はユニコーンのような真っ白な生き物で見たこともないものだった。その樹木の陰から飛び出して来たサンドワームよりも小さいが頭の上にあお魔法陣(マジックサークル)の輝きを明滅させ、神経質な雄叫おたけびを上げる化け物にシルフィーは警戒しながら睨みつけていると、その怪物はサンドワームの向こうに立ち止まり、雄叫おたけびを上げるのは止め片側に大きな白いひれを広げた。



 ひれは上半分に透明な膜があり下半分の白い肌に青と黄色の斜めに伸びる模様があった。そのひれの陰から黒い衣をまとった新たな人が現れ、シルフィーはまた怪物を人が使役していると驚いた。操る人が離れてもまだ魔法陣(マジックサークル)は効果を見せておりシルフィーは用心し続けた。



 その黒装束(しょうぞく)の人が片手で招きながら、大声で何か声を掛けてきたが彼女には理解できず、離れた場所から人と怪物を注視するばかりだった。



 その黒装束(しょうぞく)の男の元へサンドワームを操っていた男が原っぱから彼女を気にしながら戻って来て何かを話しかけていたが、幾ら遠くの音が聞こえるといってもシルフィーには聞き取れなかった。



 そこへ先と同じ神経質な音が聞こえだし、新たな同じ怪物が現れた。



 その怪物の両側のひれの陰から2人の黒装束(しょうぞく)の男が増え、その後にさらに2体の怪物が集まり、人の数は8人に増えた。時折、サンドワーム使いの男がこちらへ手を振り上げ黒装束(しょうぞく)の男らに何かを訴えていると、その中の一人が彼女に声を掛けながら腰の武具帯に手をかけながら近づきだした。



 シルフィーは人が近づくのを良しとせずに一気に警戒した。



 近づいて来る人の男が腰の何かの武器に手を掛けているのは良い兆候ではない。



 男が武具に掛けている手とは逆の手を差し上げ、手のひらを開いて仕切りに何かを言っている。もはやそれが何かの術式で魔法陣が効力を発する前にシルフィー・リッツアは先手を打って2重の高速(ファースト)詠唱(チャンティング)を始めた。



"Ég skipa frá Covenant ! Ágengur Rauði Sjórinn Eldur drekinn, rauð eyðing ! Eyðileggist þessi óvinur ! ── Uppvakningur jarðar, sumargolan, hitinn og vatnið, akikaze trjánna, vetrarvindurinn sem færir kalt loft í alla hluti ── sylph í anda vindsins og andrúmsloft Shukeyo sterkan skildan til mín !"


(:我、盟約に基づき解き放つ! 猛々(たけだけ)しき緋火龍(レッド・サラマンダー)の息吹、紅蓮の破壊よ! の敵を蹂躙じゅうりんせよ!──大地の目覚め春風、熱と水奪いの夏風、木々に寿命知らしめる秋風、万物に冷気をもたらす冬風──風と空気の精霊シルフよ我に屈強なる盾を授けよ!)





 空気がうなひざ下を中心に周りに赤いマジックサークルが出現しその3重のに重なるようにあおが広がると、シルフィーは右腕を差し上げて指を2体の怪物に指し示し、同時に左手で手のひらを己の前でひるがえした。





 彼女が爆炎を生み出し、正面に彼女をおおい隠すに十分たるあおく輝く縦長の長方形の層が広がるとその空気の魔法壁に黒装束(しょうぞく)の男らの飛び道具が小さな火と破裂音と共に放った金属の小さなかたまりが命中し、エネルギーを削ぎ落とし次々に地面に弾き始めた。



 寸秒、サンドワームよりも簡単に4体のうち2体の白き怪物が爆炎に呑み込まれ、さらに追いちをかけるようにシルフィー・リッツアは次の爆炎魔術の術式を詠唱えいしょうし始めた。



 彼女は戦いながら、この世界の人が弓矢よりも強力な飛び道具を使うことに懸念けねんを抱いた。その気の乱れが、魔法陣(マジックサークル)わずかな歪みを産み落とすと、2撃目に放った爆炎が4人の黒装束(しょうぞく)の男らを一瞬で呑み込み、叫び声さえ上げさせずに骨が粉になるほどに蹂躙じゅうりんした。



 不本意な殺戮さつりくが、人の本気の反撃を招き寄せ結果、個人対多数の大規模な闘いになるとは、この瞬間踊らせる小指の先ほどにもエルフの戦士は想像すらしていなかった。











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