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衝動の天使達 2 ─戦いの原則─  作者: 水色奈月
Chapter #3
13/206

Part 3-2 Image analysis 画像解析

NDC HQ Bld.Chelsea Midtown Manhattan NYC, NY. 11:25

11:25 ニューヨーク州ニューヨーク市マンハッタン ミッドタウン チェルシー地区 NDC本社ビル



 NDC対テロ対策情報職員──iワーカーの一人──アマベル・ボンディは自社の最新観測衛星SE32を使った一連のテスト項目を任されていた。



 軍事偵察衛星を凌駕りょうがするSE32は公式アナウンスではNDCの希少資源開発用衛星だったが、冬季の晴天時なら地上の新聞見出しを判読できる高解像度と広帯域のカメラを有し低軌道衛星の強みを生かした高度な情報収集を可能にしていた。



 彼女はすでに作成済みのアメリカ国内の航空写真データーと比較し衛星カメラがあらゆる条件下で性能通りの画像が得られる事を確認していたが、ニュージャージー州ワワヤンダ州立公園を広域モニターでスクロールさせているときに画面が一瞬暗くなり、公園の一部でハレーションが起きたので不信な面持ちになった。



 アマベルはマウスを操りスクロールを停止させ画面上のコマンドを選択すると記憶媒体にある64Kビューの記録をさかのぼった。



 画面が一瞬暗くなり一部でハレーションが起きたとすれば重大な欠陥に繋がる兆候だったので慎重に記録データーが生みだす肉眼と変わらない画像を見つめた。



 すると、また画面が1瞬暗くなり公園の1部でハレーションが起きた。



 データーとして記録されている。見間違いではなかったのだと、彼女はハレーションが起きているエリアへズームさせ地上の光景がどれくらい損なわれているか確認しようとして、ハレーションの原因を突き止めた。



 公園内を縦断する道路で直線的な露光が見られ、その一端でオレンジの光が赤い輝きに1秒足らずの間に変化していた。アマベルはその赤色領域にシフトした明かりが何なのか見極めようとカーソルを移動させマウスロールを人差し指で回し画面をさらにズームインさせ見えてきた光景に眼を奪われた。



 公園内道路を走行しているビッグリグの先頭部分でオレンジの焔が膨れ上がりそれがコンテナ後部まで呑み込み、追いかけるように赤い焔が踊り狂った。



 わずか数秒でコンテナは変形し4方から炎を吹き出すと、牽引する車輌頭部が先に溶け落ちる飴のように地面に溶解し火山から流れだした熔岩のごとく地面で炎を立ち上らせた。



 彼女はその溶け落ち炎を立ち上らせるビッグリグが事故ではなく、何かの──火炎放射器のようなもので焼かれたのだと判断すると、拡大した画像のループを再生させながらワークデスク脇の受話器を取ると応対した人工合成の女性の声に命じた。



「ランディ課長のセリー(/Celly:携帯電話の俗称)へ繋いでちょうだい。重大なインシデントが疑われる状況をピックアップしたと伝えて」











 トレーニングルームを後にしたシリウス・ランディはマリア・ガーランドがシャワーを浴び社長室に戻るまでに頭の中で彼女に見せるための用意しておくべき案件30あまりに順位をつけながら通路を歩いていた。



 スーツの内ポケットに入れたスマートフォンが軽い着信音を奏で始めたので手を差し入れ画面を見るとNDCの交換からだったので通話をタップし耳に当てた。



「はい、シリウス・L」



『iワーカー・アマベル・ボンディから緊急通話です。重大インシデントの兆候を拾い上げたとお伝えします』



「繋いで頂戴」



 彼女がそう命じると1秒もおかずにすぐiワーカーの1人が通話先に出た。



『課長、観測衛星のテスト中に偶然捉えた光景があります。ループした画像データーを圧縮してサーバーに上げましたのでテロに関する精査が必要か判断をお願いします。動画ファイル577884BーSです』



 シリウスは立ち止まり通話を1度切ると対テロ部門のファイル共有サーバーにアクセスし伝えられたファイルを検索し見つけ再生させた。



 小さなスマートフォンの有機液晶画面でも起きている事が何なのか十分に判断できた。





 トレーラーはバターみたく溶けたりはしない!





 彼女は動画を切り通話にしNDCの交換番号を素早く打ち込み耳に当てた。



「シリウス・ランディ──iワーカーのアマベル・ボンディへ」



 回線が繋がるとシリウスは短く明瞭に指示を出し始めた。



「アマベル、所属課長にデーターを見せ報告し、第3課に協力要請。トレーラーの焼かれた現場に地元警察が出動する、もしくはしてるであろうから通信を傍受ぼうじゅ──状況収集。最優先で経過報告を」



 ふたたびスマートフォンを切るとシリウス・ランディは早足で社長室を目指し始めた。



 彼女は眉間にしわを刻み予感に抗った。犯罪か、テロかの判断よりも走行中のトレーラーが襲われた事実にマリア・ガーランドが興味を示すのは明白。しかも火炎放射器や爆薬でないと彼女はすぐに気づくだろう。



 必ず助言を求められる。



 犯罪にしろテロにしろマリアは使われた何かしらの道具に言及げんきゅうするだろう。私の知識では限界がある。



 シリウスは社長室の扉を押し開くと、部屋奥のM・Gの執務デスクに歩み寄り傍らの受話器を取り上げAIの交換に命じた。どのみち毎回声紋チェックをされていると今度はみずからの名を告げなかった。





「マジンギ教授に繋いで頂戴」





 彼女は本社に研究所(ラボ)のワーレン・マジンギ教授が来てる事を意識していた。彼は変わり種だが兵器開発に精通している。彼ならトレーラーを溶かした兵器に思い当たりがあるかもしれなかった。











 6回、マリーは椅子から両袖机に身を乗りだしタブレットでシリウスが告げた動画を繰り返し見た。そうして端末から顔を上げシリウスの顔をじっと見た。



「止めてくださいマリー。私は情報職員ではありますが、兵器開発者ではないんです。ルナのように研究熱心でもありません」



 それはわかってるとマリーはマネジメンターにムッツリした表情で思った。



 マリーはルナの膨大な知識を共有してる自分の意識に漠然とした幾つもの情報が浮かんでは消えるにまかせた。



 火炎放射器はせいぜい数100度。ビッグリグ・トップのエンジンブロックですら溶解させている画像がにわかに信じがたかったが、合成画像やCGの類ではないのは確かだった。ナパーム弾ですら千度前後にしかすぎない。しかも爆発物の破壊力とも違う。まるで前方で核爆発が起きたみたいに高熱にさらされ溶解している。



 絶対に6千度以上。



 しかも温度だけでなく膨大なエネルギーがないとその1秒ですら維持できない。そのエネルギー量を意識してマリーは頭が痛くなりそうだった。





 しかし、周囲の木々はまったく発火していない!





 何かしらの指向性エネルギーなのは間違いない。レーザーだろうかと考え既存きぞんのいかなるレーザー発生器にも不可能だと思った。



「これが犯罪にしても、テロだと断言できても、使われた兵器を特定し押さえないといけないわ。多数の被害者がでる前に取り上げないと」



 マリーの意見にシリウスは即座にあらがった。


「それについては意見を差し挟むつもりはありません。ですが、その作戦に貴女がおもむくべきでないと助言いたします」



「どうして?」



「こんな危険な兵器を貴女に使われるのを阻止するのが私の仕事だからです。刃物をかわすようにこの凶器から逃れられるとお考えにならない事です」



 シリウスに言われマリーはまたムッとなった。誰もこんな威力のある兵器にナイフや小火器で立ち向かえるとは思ってもいなかった。だが同時に部下を──仲間を同じ危険にさらせないと彼女はにわかに感じた。



 いきなりドアが開かれ2人は振り向いた。



 顔をのぞかせた乱れた白髪の男が声をかけた。



「なんじゃい? わしゃあ、ハミングバードの改装で忙しいんじゃぞ」



 改装? 嘘おっしゃい! 貴方はヴィッキーに言われるままに戦術対地攻撃輸送機にまたからぬ武装を搭載しに来てるんでしょ、とマリーは思いながらワーレン・マジンギ教授へ手招きした。



「ワーレン教授、あなたが喜びそうな兵器があるわよ」



「兵器? わしゃあ兵器フリークじゃないぞ。研究者じゃ」



 腕組みしていたシリウスが睨みつけたまま押し殺した声で命じた。



「入りなさいよ! 頭だけ社長室へ入れて口論してるとこを他の社員に見られたら何と思われると?」



「もの好きな教授(プロフェッサー)──」



「変態よ──変態! 入りなさい!」



 シリウスが声を荒げるとグリスだらけの白衣を着た教授が入ってきて後ろ手に扉を閉じた。その彼を見てシリウスは警告した。



「教授、私達へ3フィート以内に近づかない! 2人ともブランド・スーツなんですから」



「ほう? わしの仕事着を警戒しとるのか? ほれほれ」



 マジンギ教授はそう言いながらシリウスへ近寄ろとすると彼女は組んでいた腕をほどき腕を振り上げ後ずさった。そんな2人に呆れてマリーが割って入った。



「ワーレン、この録画を見てコメントを聞かせて」



 教授はマリーの差し出したタブレットを覗き込んで二度目の再生ループでこぶし二つ分まで液晶に顔を寄せた。



「こりゃあ、STCかな?」



「STCって何ですか?」



 シリウスが剣のある言い方で尋ねマジンギ教授が答える前にマリーは説明しながら、内心、みずからのものとしたルナの博識にはおどろかされていた。1年前の彼女の知識のコピーがいまだに大いに役立っている。



「ソーラー・サーマル・コレクター──太陽炉の事よ」



 マリーが簡素に答えた。



「太陽炉?」



「そうじゃ、何かの光学装置を使い太陽光を集めとる」



「こんな事ができるの、教授?」



 太陽炉と答えながらマリーはルナの知識から浮かび上がった様々な情報を整理できず教授に尋ねた。



「古くはアルキメデスが多量の鏡でローマ軍船を焼いたとされとる。まぁ不確かな記述じゃがな。しかし、場所はどこじゃ? 野っぱらにしか見えん場所じゃが」



「ニュージャージー州 ワワヤンダ州立公園の道路上」



「無理じゃな」



「どうして?」



「このエネルギー量から換算して、集光するのに、お前さんのこの机の広さの鏡1000万枚が最低でも必要じゃ。いいか? 最低じゃぞ。ビッグリグのエンジンブロックをバターのように溶かしとる。理想を言えば5000万枚でも足らんかもしれん。州立公園内にそんなもんこしらえてみろ。環境保護団体から凄まじいバッシングを受けるぞ」



 その信じられない枚数にマリーは驚き即座に机の受話器を取り上げ命じた。



「iワーカーの──シリウス、誰から報告を受けたの?」



 途中で受話器のマイクを塞ぎマリーはシリウスに情報をもたらした職員の名を尋ねた。



「アマベル・ボンディです」



「iワーカーのアマベル・ボンディへ繋いで」



 すぐに相手が出たのでマリーは必要な事を尋ねた。



「マリーです。アマベル、ビッグリグが襲われた現場上空にある人工衛星(サテライト)は?」



 しばらくマリーは耳を傾け次の指示を出した。



「ええ、それで構わないわ。あなたが操作して画像をリアルタイムでサーバーに上げ続けて頂戴。こちらで見ながら指示を出します」



 マリーは受話器を顔から離し2人に説明した。



「別な衛星が上空に13分います。どんな移動式STCを設置したか見てみましょう。教授の言うような大掛かりなものなら簡単に撤収してはいないはずよ」



 マリーはそう説明しふたたび受話器を耳に当て片手でタブレットを操作し共有クラウドにライブファイルが上がるのを待つと新しく表示されたファイルを開き指示を出し始めた。ファイルはその容量が急激に膨れ上がり続けていた。



「焼け落ちたビッグリグを中心にカメラアングルを固定。ビッグリグがアングルの8分の1になるまでズームアウト」



 タブレットに炎の消えた残骸が映り、それが見る間に小さくなると道路周辺の状況が見えた。



 木々は道沿いにまばらでほとんどが野原だった。その公園内を縦断する道路周辺を見渡したが多量のミラー設備はそこになかった。その代わりにビッグリグ後方30ヤードほどに4台の乗用車がハの字に停止していた。そのどれものルーフに青い警告灯がフラッシュを放っていた。警察官達は皆、アサルトライフルを構えビッグリグの先に向けている。



「ビッグリグを挟み警察官達と正対しているものへフレーム移動ズームイン」



 マリーがそう告げるとアングルが変わりトレーラーの残骸が画面端に移動し拡大された。





 道の上に誰か人がいた。マリーはその頭上からのショットに何か違和感を感じたが理由がわからなかった。





 その人は片腕を警察官達へ振り上げていた。



 だがその異様な光景にマリーは眼を強ばらせた。その人物を中心に赤いネオンのような3重リングが広がっていた。恐らくは何かの輝き。



 伸ばした人差し指からハレーションになるほどの肩幅の3倍の発光が1直線にビッグリグの方へ伸び飛び越した。



「警察車輌へフレームを移動」



 タブレットの再生画像が横へパンしてゆく。見えてきた映像にシリウスは眼を強ばらせ、ワーレンは「ほう!」と感嘆のつぶやきをこぼし、マリーだけが静かに見つめ続けた。







 4台の内、2台が溶解し炎を吹き上げていた。







 マリーは通話を切り、すぐに交換へ命じた。



「トレーニング・ルームのロバート・バン・ローレンツを呼び出して」



 わずかに間を置いてマリア・ガーランドはルナ不在の間のスターズ・サブリーダーへ命じた。



「召集、10分で準備。F装備──ええ、その人数で構わない。狙撃手にはHPBR(:ビームライフル)を準備させて」



 指示を出し終わると受話器を置いてマリーは2人を見た。



「シリウス、留守を頼みます。教授、来ますか?」



 マリーに尋ねられ彼は破顔し答えた。



「当たり前じゃ! あの陸戦兵器を見てみたい。よしゃぁ! 行くぞい!」



 マネジメンターが何か言いかけ口を開いたのでマリーは上げた左手のひらを開き彼女を制した。





「わかってるわ。無理をするな、でしょ。でもニューヨークに近すぎるから」





 それが口先だけだとシリウスはムッとした面持ちになった。











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