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衝動の天使達 2 ─戦いの原則─  作者: 水色奈月
Chapter #3
12/206

Part 3-1 An inmate 収監者

FMC(/Federal Medical Center) Devens, Town of Harvard Worcester County, Mass. 11:20

11:20 マサチューセッツ州ミドルセックス郡 連邦刑務所局デベンズ連邦医療センター



 葉のない樹木が続く片道一車線の林道を左に曲がると連邦刑務所局が管理するデベンズ連邦医療センターの建物がフロントウインドの左に見えてきた。その二重のフェンス越しにのぞく二階建てほどの低いコンクリートの建物がとても刑務所に見えないとパトリシア・クレウーザは思って運転してるローラ・ステージに尋ねた。



「これが刑務所なんですか?」



「そうよ。男性だけで、収監者の多くが死刑囚か終身刑で、何かしらの医療的処遇を必要としてるの」



 パティはローラの思考を読んで先回りするのは意識的に避けていた。今接しているFBI捜査官は、この1年あまりで、17歳の少女にとって命のように大切なヘラルド・バスーンと同じくらいに大事な人となったマリア・ガーランドのたった2人しかいない肉親の1人なのだ。心を探るなどとても失礼だとわきまえていた。



「ローラさん、いつまで私に予備知識なしで捜査依頼を続けるつもりなんですか?」



「パティ、あなたの事はとても信頼してるわ。マリアの対テロ作戦にあなたが重要なキーパーソンなのに、度々捜査を手伝ってくれて14件もの未解決ファイルに決着をつけれたから──」



「でも捜査に心情をはさんではいけない、ですよね」



 少女がローラの言い方を真似たので、ローラは軽く笑ってそうだと肯定した。



「じゃあ、少しだけ。今日、合う人にあなたは初めて接するわけではないわ」



 犯罪者に面識があると言われパティはムスッとなった。



「私、犯罪者に知り合いなんていません、から」



「知り合い──あなたの場合、面識が知り合いを意味してないでしょ」



 ローラは言いながら駐車場にダッジ・ディランゴを入れ前方駐車した。



「そういう言いまわしなら、アメリカに居住する半数は知り合いになりますね」



 ハッキリと指摘し、パティはシートベルトを外した。



「そこが問題なの。あなたはいつも一瞬でどこの誰かどころか、初対面の相手の性癖や生い立ちすべてを相手に暴露して威嚇いかくするでしょ。犯罪者だからと手加減なしに」



「ハイハイ、ローラさん。私のせいで収監者五人が自殺未遂、強度の鬱病うつや自閉症になりました。すべて私が悪うございます」



 ローラは苦笑いしながらエンジンを切り座席の間から後部席に背伸びして捜査資料の入ったブリーフケースをつかみとった。



「今日は特に慎重にやってね。余罪を探るだけでなく、精神疾患を偽っている本当の理由を知りたいから」



 先にドアを開き下りかかった少女はローラにやり返した。



「なんなら、裸踊りをさせますけれど」



「ダメよ!」



 それが冗談でなく1度接見室で起きた事なのだとローラは慌てて少女をたしなめた。ローラは車から下りると少女にわからないように小さくため息をこぼし思った。この子はあまりにも人の心を見すぎている。どこかれた感覚があるのはきっとそのせいだと時折感じた。



「行きましょう、パティ」



 ローラが歩きだすと少女が横に並んだ。医療刑務所のフェンスの外にある事務棟の正面玄関へ向かった。



「今日、会う人は終身刑なんですか」



「いいえ、スリー・ストライク法で死刑が確定してるわ」



「3ストライク? ベースボールの?」



「いいえ、用語はベースボールから取った『あなたはアウトだ』という概念なんだけれど、習慣性のある重罪者にさらに重い懲罰を与えるための法律よ。社会から完全に弾き出すためもの」



「その人に私が(スリー)ストライク! って言ったらローラさん、怒る?」



 ローラは呆れて少女へ視線をおよがせた。まるでパティはその事を知ってるとでもいうように、舌をチョロッと出して両肩を上げおどけてみせた。



 冗談めかしているのは、この子なりに重罪犯と向き合うプレッシャーに折り合いをつけようとしているのだろうとローラは優しく考えた。



 正面ドアを押し開け中に入ると、刑務官らしき男性が寄ってきたのでパティは少し驚いた。フェンス外の建物にも刑務官がいたからだ。彼が腰の警棒に軽く手を載せベルトに指を掛けてるのをパティは見つめ視線を逸らした。



「どのようなご用件でしょうか」



「FBIボストン支局警部のローラ・ステージです。所長にご連絡しておいたプロファイルリングのカウンセリングに来ました」



 説明しながら彼女は身分証をスーツから取り出し刑務官へ開いて提示した。



「ああ、うかがっております。所長にお会いになりますか?」



「いえ、すぐにもカウンセリングに入りたいので接見室に収監者を連れてきて欲しいの」



「了解です。では、医療棟へご案内しますので受付で手続きをどうぞ」



 刑務官に案内され受付でローラはもう1度身分証を提示し出された来所書類に自分とパティの名前をサインしそれを返すと、先の刑務官の男性に案内され事務棟横のドアから出て刑務所のSUVに乗り込んだ。



 車がわずかに走ると長いフェンスの1カ所にある箱型に囲われたフェンスの門の前で止まり、中の詰め所から見ていた刑務官がフェンスの門を開いた。そうして車4台ほどが入れる箱型のフェンスの中央にSUVが進み止まると外のフェンス扉が閉じて、わずか間を置いて短いブザーが聞こえ内門のフェンスが開いた。



 刑務所の車は走り出し向きをフェンス沿いの道へ変えると1分ほど走り正面玄関脇に止まった。



「付いて来てください。ご案内します」



 運転してくれた刑務官が車から下り際に2人へそう告げローラとパティも下りた。3人が正面玄関から入ると案内する刑務官が玄関奥の連なる左から2つ目のドアを指差した。



「他の接見者と同じ部屋では困りますので、B個室をご利用下さい」



 刑務官はそう言うなり、奥に見える連なったドアのうちの1つを指差した。そうして左胸に付けた無線用マイクをつかみ外すと、FBI捜査官が来たこと連絡し、カウンセリング対象の収監者をB接見室へと告げた。ただその間も刑務官はパティを視界の隅から外さずに気にしていた。



「失礼でしょうが、警部──そちらの捜査官はいささか若すぎるようですが」



 ローラが説明しようとした矢先にパティが皮肉った。



「見かけ通りの歳だと思わない事ね。あなたの母親より歳は上よ」



 刑務官が驚き顔で何か言い掛けようと口を開いた瞬間、慌ててローラは少女のひじをつかみ、B接見室とプレートの表示されたドアへ急いだ。



 ドアを開き2人が中へ入ると自動でそのドアのデッドボルトが作動し施錠となった。



 部屋は6人掛けのテーブルがギリギリ6つ置けるだけの広さで中央に向かい合わせの引き出しのない事務机があり双方に椅子が一ずつ、2人が入ってきたドアの傍らに丸椅子が1つあるだけの簡素なものだった。



 ローラは事務机に向かい折りたたみ式のパイプ椅子に腰を下ろした。そうしてブリーフケースを開けると資料を取り出し用意し始めた。パティは立ったままで丸椅子には腰かけず部屋を見回した。警察署にある取調室のようだと思い、何か問題が発生したら室外の職員はどうやって知るのだろうと、上を見るとスモークガラスのドームに覆われた1人用デザートの小皿ほどの直径の監視カメラが眼にとまりヴイ・サインを送ってみせ、その後に中指を立ててしかめっ面で舌を出した。



「馬鹿な事をしないの。何かあったとき助けてくれる人たちなのよ」



 少女はローラの背後にいるのにどうしてバレたのかとどぎまぎした。



 直後、むかいのドアのノブが回る音がしてドアが開かれた。その向こう──廊下に1人の受刑者と2人の刑務官がいた。





 刑務官の前にいるカエデス・コーニングは顔を上げ女捜査官の斜め後ろに座る少女に気づくなりその肌に興味を深く抱きじっと見つめ感じた。







 こいつは、俺に皮膚をがされるために現れた。











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