Part 2-4 The Magic of Fire 爆炎の魔術
Barrett Rd. Wawayanda State Park North-Jersey NJ., U.S. 11:20 Nov 28 2018
2018年11月28日11:20 合衆国 ニュージャージー州 ノース・ジャージー ワワヤンダ州立公園 バレット・ロード
マキシム・クレンザーは鼻歌混じりにハンドルを握りビッグを走らせていた。田舎道とはいえそうきついカーブもなく半荷の46フィート(:約16m)の巨体を時速40マイル(:約64㎞/h)もの速度で走らせ続けていた。
緩やかな左カーブをノーブレーキで抜けきった瞬間、木々の陰になっていた道の先に見えたそれに彼は顔を強ばらせた。
「何だ、ありゃ!?」
車線の中央にいるのは間違いなく人だった。どこかの狩人みたいな着衣に興味を惹かれた。
だが、その膝の高さに水平に広がったネオンような輝きを放つ赤とオレンジ色のリングが何なのか理解に苦しんだ。
"Ég afbæri það Byggt á Covenant ! Ferocious andardráttur Crimson Eldur Dreki, Eymundur Crimson, flæddi yfir þann óvin !"
(:我、盟約に基づき解き放つ! 猛々しき緋火龍の息吹、紅蓮の破壊よ! 彼の敵を蹂躙せよ!)
森の陰から現れた頭から黒煙を上げる4角い怪物目掛けシルフィー・リッツアは竜の鱗で作られた篭手に守られた腕を振り上げ指差した寸秒、張りのある声でエルフ語の詠唱を終えた瞬間、彼女を取り巻く魔法陣が真っ赤に輝きを増しその場の空気を唸らせた。
彼女正面の10ヤード(:約9.1m)先の空間が溶けるように揺らぐと朱を中心とした焔の塊が溢れそれが竜の首から上を急激に形作ると、その火炎の顎が下ろされ白い輝きのフレアが急激に膨れ上がった。
一瞬で濁流のごとき爆炎が迸りビッグを正面から飲み込んだ。
まずフロントウインドが炎天下のアイスキャンディのように形をなくし、ステンレスでできたバンパーやボンネットのフロントグリルがだらしなく弛緩すると追いかけるようにボンネットが反り返り左右に溶け落ちた。大きな前輪は煙を上げる事なく気化し、エンジン重量に押し切られた鉄のホイールがアスファルトをえぐり車輪間のスタビライザーが後方へ弾け飛んだ。
瞬く間にコンテナまで形を失い凄まじい火炎を後方へ吹き流しながらゆっくりとビッグは溶けたアスファルトにめり込み止まってしまった。
マキシムは、寸ででドアを開き思いっきり縁を蹴り込んで道沿いの草叢に転がり落ちた。
そうして呻きながら顔を上げると勝手に走って行く自分のトレーラーがまるでベトナム戦で使われた森林を焼き払うナパーム弾のような爆炎に飲み込まれ、彼は頭を抱え地面に思いっきり伏せた。
直後、凄まじい熱風が押し寄せ彼の髪や服を焦がした。
アスファルトを抉る金属の音が止み、彼は恐るおそる顔を上げると、ビッグがコンテナごと焼けたフライパンに載せたバターみたく変形して火炎を噴き上げているのを信じられぬという面持ちで見つめ、ジーンズのポケットから慌ててセリー(/Celly:携帯電話の俗語)を引き抜いて911とタップし通話アイコンを力を込めて押し込んだ。
"What’s the location of the emergency ?"
(:住所をどうぞ?)
"This's Barrett Rd. Wawayanda State Park !"
(:ワワヤンダ州立公園 バレット・ロードだ!)
"What’s the emergency there ?"
(:どんな緊急事態ですか?)
"My truck's been burned !"
(:トラックを焼かれた!)
"May I help you ? ”
(どうしましたか?)
"This is the War. The War has begun !"
(:戦争だ──戦争が始まったんだ!)




