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第6話:ギルドクエストⅳ〈茶の奥〉

平成最後に滑り込みじゃ~!


 魔獣とは比べ物にならない力を持った笠の男に終始圧倒されるマサキ。


 茶によって意識を奪われるその寸前、謎の力によってマサキは拘束を脱する。

 


「茶を弾き飛ばすなら理解はできる。しかし今のは私から茶の支配権を奪うに等しい所業、一体貴様何をした」


「今度は貴方が当ててみてくださいよ、僕が何をしたのかを――」



「(ま、俺も何やったのか解らないんですけどねぇ!)」 


 だけどどうやって発動させたのかはなんとなく覚えている。アインさんの魔力操作の特訓のおかげだ。本当に頭が下がる。


「ならば、そのチカラを引き出し分析するまで。ゆくぞ、――茶柱」


 お茶の水流が迫る。ギリギリで回避し、先程の魔法を行使する。


「こうか!?」


 ……しかし何も起こらない。


「(ぶっつけで成功するとは思わなかったが、なんのリアクションも無しか。爆発も無しとは……逆に不安になるな)」


 試しに周囲に向けて数回魔法を行使してみるが……何も起こらない。


 迫りくる攻撃を回避しながら冷静に考える。


「(あの時の状況を思い出せ…………そうだ!あの時は対象と接触していた。接触が鍵なのでは……?)」


 とはいえ、茶柱に触れるのは危険すぎる。近場の木で試すしか無い。


 木に向かってダッシュする。しかし、苛烈な攻撃を回避し続けたためか、足をもつらせてしまった。


「(――まずい!!)」


 茶柱が襲いかかる。このままでは当たる――!


「ええいままよ!!」


 覚悟を決め、手を突き出す。

 そして渾身の思いで魔法を行使すると――


 バシャーン!


 触れた茶柱が、糸が切れたように制御を失い地面に落ちる。


「やった……」

 

 どうやら成功したらしい。でもやっぱり何故こうなったのかが解らない。


 爆発するでもなく、お茶が弾け飛ぶわけもなく、制御を失うのだ。何かを奪ったような感じはしない。ということは、何かを消したのか?制御ということは魔力?それとも――


 そこでふと気付く。制御を失った茶柱を全身に浴びたのに、茶の味がしない。香りもしない。そしてなにより、触れた後の茶柱は透明に見えた。


「(……水に変わってる?)」


 そうか!この魔法はお茶を水に変えたんだ!ヤツの魔法は茶を操る能力、水になったことで制御下から外れたんだ!


 かなり限定的ではあるが、この魔法の能力がわかった。触れたお茶を水に変える魔法だ。……いや、さすがにこれだけではないだろうが、今は解らない。普通なら嫌がらせにしか使えないようなクソ魔法だろう。しかし、この場においては――かなり有効な魔法だ。


「一度ならず二度までも、どうやらまぐれではないようだな」


 よし、なぜかは判らんが偶然にも得たこの特効魔法。こいつでなんとか修羅場をくぐり抜けてやるぜ!


「お茶使いと言ったな、貴方は運が悪い。よりにもよってこの稀代の天才魔法使い六万マサキが相手なのだから」


 一呼吸おいてマサキは言葉を発する。


「私はお茶に対し完全に優位を取ることができる!!」




 場を沈黙が支配する。


 幾許かの時間の後笠の男が口を開いた。


「私は貴様を侮っていた。茶の(おう)、その一端をお見せしよう」


 

 笠の男は茶筒から茶葉を一掴み取ると、両手を合わせてわさわさし始めた。


「これか?これはな、揉んでるんだよ。茶葉を」


 そうしていると男の両手から、緑の奔流、カテキンがほとばしり始めた。何を言っているか分からねえかもしれないが、ほとばしっているのだ。カテキンが。


 男の周囲に水の玉が浮かび上がる。


 男は流麗な動きで手のひらを宙の水に滑らせていく。


 その舞に見惚れているうち、茶葉の成分を最高の形で吸収したお茶が、完成していた。


「見せてやろう、茶の道の奥義を。お前は選ばれた。心をほどけ――幻茶獣〈綾鷹〉」


 それは静謐そのもの。まるで、そこに在るのが世界の意志であるかのように、宙に浮かび佇んでいた。


 〈綾鷹〉。そう呼ばれたその幻獣は、大きさで言ったらマサキよりも小さい、実際に鷹を見たことはないが鳥の大きさから逸脱するものではない事は判る。


 光を透過するその体は、湖畔のように清らかであると同時に、先程の茶柱以上の圧倒的な存在感を保有していた。


「(なんだ……?ヤバイのは判るが戦意も逃走の意思も湧いてこない。いっそここで一息いれたい気分にすらなってくる)」


 戦意も気力も失われ呆けていると、綾鷹は優美な動きでこちらに向かって突っ込んできた。


「(ヤバイっ?!)」


 そう思った時にはもう綾鷹は眼の前まで迫っていた。


 慌てて対お茶魔法を行使する。


「ガッ……!?」


 しかし、綾鷹は対お茶魔法を物ともせずにマサキに突っ込んだ。


「我が手に茶葉がある限り、綾鷹を見失うことはない……」


 そう。茶葉だ。


 男の手から絶えず供給される茶の成分が、対お茶魔法によって消失した茶の成分を補っているのだ。


「優位に立ったと思った途端これかよ……」


 マサキはボロボロの体で立ち上がりながら愚痴をこぼす。


「(だけど対お茶魔法は効いてないわけじゃない。正確には少し勢いを削いではいる。綾鷹をいなしつつ本体の茶葉さえどうにかできれば、まだ勝ち目はある!)」


 マサキは意を決すると、男に向かって一直線に走り出した。


「フッ。茶葉がここにあると知れば本体を狙うが道理。貴様の行動は単調過ぎる」


 瞬間、マサキの視界がブレる。


 ……一瞬、何が起こったかわからなかった。


 ふっとばされたのだ。横薙ぎに。


 予想を遥かに上回るスピードで綾鷹が飛来し、マサキの頭に横から突っ込んだのだ。


「……ッ…………ッッ?!!」


 マサキは脳震盪を起こし、立ち上がることができない。



 これで決着だ、と言わんばかりの様子で男が語る。


「この〈綾鷹〉は、成長するのだ。我が両手からほとばしる成分を吸収することによって、徐々に濃く、徐々に深く」


「しかし、濃すぎる茶はやがて自壊を招く。そしてその散り際、茶の成分が極限まで深まった時。その時こそが究極、至高の一撃を生み出すのだ」


「……茶の奥、その一端を垣間見れたことに感謝し、果てるが良い」



「――終の一滴〈ゴールデン・ドロップ〉」

 

 

「(それ……紅茶じゃん…………)」


 絶体絶命。薄れゆく意識の中、マサキは何故かツッコミを入れていた。


 綾鷹が光り輝き、まるで命を燃やし尽くしているような、神々しい光が辺りに降り注ぐ。


 誰もが見惚れるような輝きを纏い、綾鷹がマサキを貫こうとする。


 

 ――その時


 バアァン!!


 突如地面から木の根が盛り上がり、綾鷹の突進を防いだ。


「……誰だ?」


「きな臭い魔力を感じて来てみれば……ケンカにしちゃあ、ちとヤリすぎじゃねえか?」


 そこに現れたのは、茶髪をオールバックにしたオッサンだった。


「我が綾鷹の一撃を受け止めるとは……何者だ?」


「俺はグランツ。稀代の天才錬金術師だ。この森へは素材の収集によく出入りしててな。今日はいつもと様子が違うんで、辺りを見て回ってたんだ」


「貴様のようなものがまだ隠れているとは……やはり市井は侮れんな」


「いや、別に俺は隠れてるつもりは無いんだが……」


 グランツが苦笑いしていると、遠くの方で声が聞こえてきた。ギルドの討伐隊が追いついてきたのだろう。


「……ここらが潮時か。まだ姿を晒すわけにはいかん。撤退させてもらう」


「――させるかよ」


 男が撤退の姿勢を見せた瞬間、男を取り囲むように周囲の地面から木が生え、男を捕らえようとした。


「……甘い」


 緑の飛沫(しぶき)が上がり、木々がバラバラに崩れ落ちた。


「我が名は、トルエ・ピエール。死合は次回に預けようぞ」


 そう言葉を残し、男は姿を消したのだった。


長らく放置して申し訳ございません。

これから不定期に更新予定です。

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