第5話:ギルドクエストⅲ
今回も引き続き戦闘シーン多めです。
単身森へと乗り込んだマサキ、目的の魔獣と邂逅し熱戦を繰り広げる。
劣勢を強いられるも、得意(?)の火球で徐々に巻き返していく。
しかし、魔獣の魔力開放で一気に形成が逆転、絶体絶命のその時、謎の男が現れた。
「ほう、貴様の方だったのか」
足元には先程の魔獣が倒れており、見上げると笠をかぶった男が立っていた。
「へ?」
マサキは木に叩きつけられた衝撃で鈍った思考をフル回転させる。
誰――?何故――?何時から――?どうやって――?
5W1Hの何もわからず焦る思考は笠の男の一声で中断された。
「周囲の地形変化は貴様がやったのか?」
どんな意図がある?わからない。しかし舐められるのが最も不味い。あれだけの力を持った魔獣を一瞬で屠った相手だ、相手の興味を惹くように底が見えないようにしなければ。
「ふぅ、まずは危ない所を有難うございました。討伐寸前だったんですが不意をつかれましてね。それで地形変化でしたか?あれなら私がやったものですよ」
「ほう」
笠の男はマサキを観察するようにして考え込む。
やっべ、まだ疑われてるのか。ええいままよ、ダメ押しだ!
「私、近くの都市国家SCの冒険者ギルドに所属していまして一応S級の位についております。大したもてなしは出来ませんがギルドにいらしていただければお礼ができるのですが如何でしょうか?」
嘘だ。厳密に言えば金は神からもらっているのでもてなしは可能ではある。しかしそんなのはどうでもいい、最も重要なのは安全地帯であるギルドに帰る口実を作ることだ、ギルドに帰ればなんとかなるはずだ。
乗ってこい――
「S級、それなら合点はいく」
そっちに喰い付いたか~~!!
「一つ聞きたい、貴様の冒険者ギルドには貴様クラスの魔力量の冒険者が他にもいるのか?」
「いえ、私これでも稀代の天才魔法使いですので周辺国家を探してもいないでしょう」
完全に見栄である。バレたらヤバイが幸い今はバレる要素はない。
「承知した、確かに保有する魔力量は魔獣よりも遥かに高い。貴様を生かしておいて正解だったな」
え?なんて言ったこいつ?
「貴重な素体を殺さずに済んだ、貴様を我が組織に連れ帰る。拒否権はない」
「なるべく傷つけたくはない、自らの意思で来るならば待遇は考えよう」
「(待遇考えてくれるのか)因みにどこへ連れて行かれるんですか?」
「研究施設とだけ言っておこう」
ついてったら絶対死ぬやつじゃないですかこれ!いいとこモルモットじゃないですかこれ!
「さあどうする」
「残念ながら、私にもS級としての矜持があります。謹んで辞退させていただきましょう」
「残念だ」
ピチャン――
笠の男が現れたときに響いた音が再び辺りに木霊する。
何――
マサキは認識するよりも早く横に跳んだ。
「(魔獣を一瞬で屠った攻撃、あの音は不味い)」
先程までもたれかかっていた木が抉れ、倒壊する。
魔獣の攻撃の比じゃないし何やってるのか全く判らねぇ!
ピチャン――
回避に次ぐ回避。反撃の機会は与えられない。
「流石S級、しかし何時まで躱せるかな?」
そう言うと先程の攻撃を同時に繰り出してくる。
ヤベッ
攻撃の一撃がマサキの太ももを抉る。
「ーーーーーー!!!」
痛ってえええええええ!!!
マサキは悶絶する、元の世界で体験したことのない痛み、魔獣との戦いでも経験したことのない痛み。声にすら出ない激痛がマサキを襲う。
「終わりだな」
笠の男が近づいてくる。
「理解したぜお前の能力、飛ばしてきていたのは飛沫。水魔法の使い手だな」
一か八か、直撃の刹那脳裏に焼き付いた光景を元に推論を述べる。回復薬の使用時間をかせぐために。
「ほう、あの最中で私の攻撃を視たのか」
「図星みたいだな」
「残念ながら、貴様は私の攻撃を視ているだけだ。水、それは真理の半面でしかない」
なにいってんだこいつ、視る以外に何があるってんだよ。
「芳醇な香り、味の主張、調和、適切な温度。水と言うのはそれらを引き出す媒介に過ぎない。しかし、味を引き出すという意味では最も大事な要素だ。故に貴様の水という推測は良いところまで迫っているとも言える」
笠の男は饒舌に語りだす。その様は先程マサキを攻撃してきた人物とは別人のようであった。
「(え?何いってんのこの人、なんかスイッチが入っちゃったみたいだな。まぁ回復がずいぶんできたから語ってくれる分にはいいんだが。それにしても香りや味って戦闘に何も関係ないじゃん)」
そう思っていると、マサキは懐かしい匂いが鼻腔を抜ける感覚を覚えた。
なんだ?この香り、懐かしいような気がするが判らねぇ。少なくともこんな場所で嗅ぐ匂いではない。あいつはなんて言った?芳醇な香り、味、温度、水――あっ。
ピースが組み上がる。
「まさかと思うが緑茶……?」
「そもそも成分は―― ほう」
饒舌に語っていた笠の男がマサキの方を注視する。
「私の能力を看破したものはお前が初めてだ。緑茶の存在を知っているとはさすがS級魔法使い、侮れんな」
いやいやそんなところでS級認定されたくないし、後半答えほぼ言ってたし。この世界だと緑茶は一般的ではないのか?
「地水火風光闇の基礎魔法に該当しないからユニーク魔法ってやつか。それにしても緑茶使いってw水魔法でいいじゃんw」
笠の男の雰囲気が一変する。
「おい、貴様今なんと言った」
ヤベ、いまの声に出てたのか。
「緑茶を侮辱したな?」
「方針変更だ、貴様は死体として持ち帰ることにしよう」
「茶柱――」
ズオッ!
薄緑色の水流が何本も巻き上がる。お茶の暴力が周囲の木々を破壊する。
「クソっ火球〈ファイア・ボール〉!」
マサキは襲いかかる茶柱(物理)にむけて火球を放つ。
「火なぞ茶の奔流の前では無力」
しかし、予想とは裏腹に茶柱はその一部が爆ぜ、間一髪でマサキは回避する。
「残念だったな!俺の火球は火が出ないんだよ!」
言ってて悲しくなるが事実なので仕方がない。
「今度はこっちの番だぜ、火球5連打!!」
出し惜しみはできない、俺があいつに勝っているのは魔力量くらいだろう。その優位を押し付けてどうにかするしかない。
ドガァン!!!
火球は笠の男に同時に直撃した。魔獣のとき以上の煙、音、振動が周囲に轟いた。
「(やった、顔狙いの直撃!外的ダメージはないかもしれないが意識は奪えたんじゃないか?)」
ズオッ!
「なっ!?」
粉塵の中から茶柱が立つ。煙をかき消しながらマサキへと迫る。
「ーーッ」
直撃した茶柱はマサキを木へ叩きつけ、その衝撃で周囲の木々をなぎ倒した。
「流石はS級、まさか火が出ないとは不意を突かれたぞ」
なにが流石だ、お前のほうが圧倒的に強いじゃないか……
体が動かない。かろうじて四肢はつながっているが今の一撃で内側がだいぶマズイ事になっているだろう。
「茶を舐めすぎたな、その道は長く奥深い」
お茶がマサキの首を掴み宙に持ち上げる。抵抗するがお茶の拘束は解けることはない。
「なにか言い残すことはあるか?」
「次は…そのお茶飲み干してやりますよ……」
「そうか、次があれば振る舞おう」
お茶がマサキの顔を覆い、酸素を得る手段を失ったマサキはその意識を徐々に手放していく。
「(あぁ、俺はここで死ぬのか……)」
マサキは自身の死期を悟る。
「(ベルさん、アインさん、アンガスさん。今までお世話になりました。こんなことになるならもう少し慎重に立ち回るべきだったなぁ……)」
異世界に来てからの軽率な行動、少し調子に乗りすぎたと反省する。
「(やりたいことまだまだいっぱいあったのになぁ、異世界でくらい目立った人生を送りたかったな)」
元の世界では悶々とした日々を過ごしてきた。異世界の話を聞かされたときから本当はすごいワクワクしていたんだ。何もかもやり直せるって。
「(そんな甘くはなかったか……)」
そんな現実を認識しながらマサキの胸中には不満が渦巻いていた。
「(いや、俺はまだここで何もしていないじゃないか。金も魔力も貰ったのに何一つ成していない。S級だって?とんだ嘘だ、魔法すらろくに詠唱できないへっぽこ魔法使いだとも。だからこそ、成り上がってやるこの異世界で。富や名声がついてくるような、誰もが認める詠唱不能の魔法使いにな!)」
ゴポッ……
意識が覚醒する――
刹那、マサキに触れていた茶が力を失ったかのようにこぼれ落ちる。
「カハッ、ハァ、ハァ……ふぅ」
肺に空気が満ちる。それとともに急速に五感が冴えていく。
なんとか立ち上がったマサキに笠の男が問いを投げる。
「茶を弾き飛ばすなら理解はできる。しかし今のは私から茶の支配権を奪うに等しい所業、一体貴様何をした」
「今度は貴方が当ててみてくださいよ、僕が何をしたのかを――」
再び相対する二人。謎の力に助けられたマサキ、その戦いは様相を変え更に続くこととなる。
最後まで読んでいただきありがとうございます。
今回は文章量も多めでしたので読んでいただいた皆様は本当にお疲れ様でしたm(_ _)m
ギルドクエストもいよいよ佳境です、次回マサキはどうなってしまうのでしょうか…?