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第3話:ギルドクエストⅰ

今回は前話までより少し長くなっております。

 ベルさんに連れられて冒険者ギルドに来た俺は、魔力測定において前人未到の記録を叩き出した。

 

 水晶を割ってしまうほどの魔力量を持つ俺は、ギルドのみんなに歓迎されその日を飲み明かした。


「ああ……飲みすぎた……」


 気付けば昼すぎだ。周りには酒瓶と酒臭い半裸の男どもが散乱している。


「おう目が冷めたか!まったくはしゃぎ過ぎだぜこの大物はよう!」


 朦朧としていると、アンガスさんが苦笑いしながら話しかけてきた。


「すみません。少しはしゃぎ過ぎました……。気をつけます」


「ま、たまにはいいんじゃねえか?大物ルーキーなんてしばらく現れてなかったからな。ところで、今日は身体能力を測らせてもらうぞ。自信のほどはどうだ?」


 身体測定か……。小太り低身長、現代日本でぬくぬく育った俺にはハードルが高いな。ここにも転生特典があればいいんだが……。


「身体能力にはあまり自信がないですが、まあ頑張ってみますよ」



 ――そうして行われた身体能力測定だったが、結果は惨敗。持久力は最低レベル。剣もまともに振れない有様だ。


「……こりゃあ想像以上だ。悪い方にな。完全に魔法使い適正。いや、それ以外の選択肢はねえな」


 そんな呆れたような顔で言われても、こちとらゴリゴリの現代っ子だっちゅうの。ちょっとくらい動けるようにしてくれても良かったんじゃないですかねえあのクソジジイ。


「まあ、身体能力については追々鍛えていきますよ。それより、次は魔法ですね」


「そうだな。次はお待ちかね、魔法を使って見せてもらう」


 来た。俺の見せ場。俺の独擅場。魔法を使わせたら俺の右に出るものはいない。……たぶん。


 内容は、訓練場に立てられたカカシに向かって魔法を放つというものだ。容易い。


「さあ、お前の魔法がどれほどのものか。ここにいる奴らに見せつけてやれ!マキ!!」


 俺が魔法を使うということで、ギャラリーが大勢集まった。皆、期待に満ちた声を上げている。


 盗賊に襲われたときは失敗してしまったが、落ち着いてできる今なら問題ないはずだ。今こそ、この俺の魔導を世に知らしめる時!そして、ベルさんにいいところを見せるのだ!


「世界よ!驚嘆とともに知るが良い!この六万マサキという大魔法使いが、世に現れたことを!――焼き尽くせ!火球〈ファイア・ボール〉!!」


 ボンッ!



 カカシの表面が爆ぜた。……とても小さく。



「「「……」」」


 馬鹿な!!またポップコーンだと!?そんなはずはない!!!


「っく、まだだ!火球、火球、火球!!!」


 PON!PON!PON!


 連射するも、次々に爆ぜるポップコーン。カカシには少々ススがついたのみ。


「ク、クソ!何故だ!この――」


「もういい……。マキ、もうよせ……」


「アンガスさん……」


 俺は膝から崩れ落ちる。そして浴びせられる罵声。


「おい、見たかよ今のしょぼい魔法!」「嘘だろ……」「名付けてポップコーン魔法だな!」「お、これが噂に聞くユニーク魔法か!」HAHAHAHA!!


 何がポップコーン魔法だ!火球だよ!好き勝手言いやがって。


 だが、魔法がしょぼいのは事実。何故こんなことに……。


「お前らうるせえぞ!!ほら、散れ散れぇ!!…………なぁマキ。そんなに落ち込むなよ。思うんだがよ。お前は、滑舌が悪くてうまく詠唱が

できてねえんじゃねえか?」


 滑舌……だと?そんなバカな理由で、俺は魔法が使えないのか!?


「アンガスさん、それは本当なんですか?」


「考えられる可能性の一つだと思っておけ。あれ程の魔力を持ちながら魔法が使えないなんてことは無いだろう。(だって何言ってるかよく分からんし……)」


 

 滑舌のせいで魔法が使えない――バラ色の異世界ライフが音を立てて崩れていく。


 負の思考に飲まれ項垂れていると、後ろから爽やかな声がかかった。


「やあ、一連の流れは見せてもらった。だけど悲観することはないよ。君の魔法はまだこれからさ」


 振り返ってみると、そこには全身黄金の鎧を纏った、THE・勇者のような出で立ちの、爽やかなイケメンが立っていた。


「アイン。来ていたのか」


「ご無沙汰です。アンガスさん。そして、はじめまして、マキ。僕の名前はアイン・ウォルハーベント。S級冒険者だ」


 S級。それは最高の冒険者である証。冒険者にはF級からS級まであり、S級となると国に数人しかいない。


「どうも、六万マサキです。S級冒険者のアインさんが、僕に何の用ですか」


「魔力測定、僕も見させてもらったが君の魔力ははっきり言って異常だ。今はまだ使いこなせていないかもしれないけど、訓練次第で強力な力を手に入れることができると思う。そこでどうだろう。僕の訓練を受けてみないか?」


 なんだこのイケメン。惚れてまうやろ!こんなクソ滑舌野郎に、手を差し伸べてくれるなんて。


 いや、裏があるハズだ。イケメンリア充にいいヤツなんているわけがない。俺は騙されないぞ!


「それは魅力的な提案ですが、なぜこんな見ず知らずの男に手を差し伸べてくださるのですか?そちらにメリットは無いでしょう?」


「こんなに才能に満ち溢れている人を僕は見たことがない。ここで挫折してしまうなんて、もったいないよ!それに、優秀な冒険者が増えてくれれば、それだけ魔物の脅威が減る。それが、メリットといえばメリットかな」


「よろしくお願いします!アインさん」


 即堕ち2コマとはまさにこのこと。俺はアインさんに弟子入りしたのだった。



 その日から俺は、アインさんの訓練を受けつつ、薬草採取などの依頼に励んだ。ちなみに、冒険者ランクは最低のFだ。魔法使えず身体能力ゴミなのだから当然だ。



 そして、一月ほどの時間が流れた。


 泥水をすすり、辛酸を嘗め、数多の薬草を採取した俺の魔法はついに、地面をえぐるほどになっていた。


「焼き尽くせ!火球〈ファイア・ボール〉」


 ドガァン!!!


「――アインさん。ありがとうございます。魔力操作のコツが掴めてきました。爆発の威力が上がりました」


「マキ、威力が上がったからといって、過信してはいけないよ。まだまだ、君の魔法は強くなる」


 俺が魔法に手応えを感じていると、慌てた様子の冒険者がギルドに飛び込んできた。



「た、大変だ!!森に強大な魔獣が現れた!」


 突然の報告に喧騒が一瞬鳴りを潜めたが、興味のあるもの以外は再び話し始めた。


 魔獣は魔力を持った獣で、多少は強いが冒険者ギルドへの依頼は日常茶飯事だからである。


「おいおい、どうした?出たのは魔獣だろ?そんなもん受付に報告して冒険者何人か連れていけばいいじゃねぇか」


「……連れて行ったさ、5人パーティで俺以外はヤツの餌食になっちまったんだよ!」


 瞬間、場の雰囲気が凍りついた――


 危険が伴う仕事とはいえ、仲間がやられたとなればそれなりに憤りはある。その場の全員が真剣に話を聞き始めた。


「4人もやられちまったのか...わかった、俺らでそいつを倒しに行く。それで魔獣の情報は何か持ち帰れたか?」


「体高は2mを超える化物で、強い魔力を纏っている。 ……推定ランクはS!」


 

 ギルド内に喧騒、怒号が飛び交う。


「Sランクだと!?」「おおげさに言ってるんじゃないか?」「ギルドマスターに報告だ!」「ポーションやアイテムをかき集めろ!」


 ランクはFからSまであり、Sランクはその最高位である。通常の魔獣がBランクがいいとこなのを考えると非常に強力な魔獣だ。


 そうこうしているうちに受付嬢のベルさんからギルド全体に通達がなされた。


「この魔獣を"森の魔獣"と仮称、"森の魔獣"討伐をギルドクエストとして扱います。出立は明日の早朝、受注は受付で行うので可能な人は受付まで来てください」


 ギルドクエストとは公共性、緊急性などが高い案件についてギルドが自身で依頼するクエストで、承認が通れば国から報酬が支払われる。


 ギルドクエストということもあり、多くの冒険者が受付に殺到している。その中にマサキの姿もあった。


「次の方、こちらにお名前を...ってアナタもこのクエストを受注するの?危険だしやめておいたほうがいいと思うわよ?」


「ええ、ギルドの仲間がやられたとあっては僕も黙ってはいられないですからね。見事討ち取ってみせますよ」


「あら、そう頑張ってね。次の方ー、こちらにお名前を」


「(っく!やっぱり最近ベルさんが冷たい!水晶玉割っちゃったのがいけなかったのかなぁ…… 一応ちゃんと弁償したんだけどなぁ)」


 

 しばらくして、クエストの受注が終わったようで冒険者が一角に集められた。


「みんな、よく集まってくれた。今回のギルドクエストのリーダーを務めるアイン・ウォルハーベントだ。今回の討伐対象である"森の魔獣"は非常に強力な魔獣なので連携が取れるように討伐隊を編成する。各自の適性を考慮して決めるので2時間後にここに再集合してくれ。それまでに各々で装備やアイテムを整えておくように。それでは解散」


 アインの言葉通り冒険者たちは各自準備を進めている。


「(これだけの冒険者が集まって、アインさんが指揮を執るんだ。活躍すれば失墜した俺の名誉も鰻登りに違いないぜ!そうすればベルさんもきっと俺を見直すに違いないね♪)」


「(ん?しかしこれだけ数がいると逆に目立てないのでは?何よりいざとなればアインさんが倒してしまうのでは?)」


 そ れ は ま ず い !


 もしそうなれば、汚名返上どころかまた薬草を採取する日々に逆戻りだ。


「(こうなったら俺一人で討伐してやる!森の魔獣だかなんだかしらないが俺には神から貰った魔力とアインさんに鍛えてもらった魔法があるんだ!アインさん、ベルさん待ってて下さい。俺が一人で倒してきます!)」


 

 そう心に誓ったマサキは人知れずギルドから飛び出していった。

最後まで読んでいただきありがとうございます。

3話はいつもより長く、物語が少し動き始めました。

後半は怒涛の心理描写。マサキはどうなってしまうのか!?書いてる私が一番心配です^^;

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