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VS105号室

「兄さん、俺は一生あなたについていきますッ!うおおおおおおおおお!!!!」


「お、おいっ、何も泣くことはないだろ!っていうか抱き着いてくるな!気持ち悪い!」


深夜。アパートの廊下で大泣する男を必死でなだめる俺。傍から見れば完全にやばい状況だ。

えっと、なんでこのようなことになったのかを説明するには、少々時間を遡る必要がある。


それは、俺はここに引っ越してきて3日目の深夜のことだった。


『ピンポーン』


「ん?誰だこんな時間に?・・・まさか、鬼畜JKがまた何か仕掛けてきたのか・・・?」


下手に接触してまた新たな弱みを握られるのはたまったもんじゃない。俺は居留守を決め込むことにした。


『ピンポーン ピンポーン ピンポーン・・・ピピピピピンポーン』


鬼のようなチャイムの連打が続く。5分、10分、15分・・・。20分が経とうとした時、いい加減我慢の限界が来た。


「ちくしょう、あの女・・・。こんな姑息な手を使いやがって、、、今度は負けねえぞ!うおおおおおおおおおおおおおおっ!!!」


思い切り玄関の扉を開ける。と、同時に扉の前から走り去る影。


「ま、待てぇっ!」


俺の叫ぶ声に応えるわけもなく、影は素早く扉の中に消えていく。ん?105号室?鬼畜JKじゃない?


「ってことは・・・105号室の奴がこの部屋を奪うために仕掛けてきたってわけか・・・」


次の日、太田さんにこのことについて話すと色々と教えてくれた。ピンポンダッシュ魔の名前は田中といい、毎晩ピンポンダッシュを繰り返すことで相手を精神的に追い詰め、自発的に負けを認めさせることが奴の戦い方らしい。・・・今どきの小学生でもしないような原始的な手段であるが、実際にこれを毎晩やられてみるとかなりキツイ。


「まあ、俺は奴が来た初日に返り討ちにしてやったけどな。」


ニヤリと笑う太田さん。今は現状維持ということで、俺に危害を加えてくることはないが、もしこの人が本気になれば、戦うことになるが・・・この笑みを見てからだと、正直勝てる気がしない。


「それで、お前さんはどうするんだ?田中はしつこいぞ。」


「俺もやられっぱなしってわけにはいきませんからね。俺も奴を返り討ちにしてみますよ。」


その日の深夜。俺は寝ずに、ピンポンダッシュ魔が来るのを待つ。太田さんと別れてから一人部屋で対策を練っていたが、頭の中でおおまかな動きは固まっていた。というか、思いつけば至極単純明解であり、作戦と呼ぶにはあまりなお粗末なものではあるが。


『ピンポーン ピンポーン ピンポーン ピピピンポーン』


「・・・きたっ!」


俺は静かに立ち上がると、おもむろにベランダの窓を開ける。そして用意していた靴を履いて、ベランダから外へ脱出する。そう、今回の作戦とは、ピンポンダッシュ魔田中が俺の部屋のチャイムを乱打している間、こっそりベランダから脱出し、回り込んで背後から奴を確保するというものだ。


音をたてないように植え込みの中に身を隠す。目の前には一心不乱に俺の部屋のチャイムを押す田中。

____なかなかの不審者具合だ。


「俺を敵に回したことを後悔するがいい・・・確保ォォォォォォッ!!!!!」


「うおっ!!!」


後ろから勢いよく飛びかかり、相手が抵抗する間もなく結束バンドで手足を拘束する。


「ちくしょう!外せ!新入りの分際で!」


ピンポンダッシュという行動から、陰険な見た目を想像していたが、予想に反して俺の嫌いなイケメンである。いかにも女が寄ってきそうなルックスだ。ちくしょう、もっときつく縛ってやろうか。


「よくもまあ、俺の睡眠を妨害してくれたな。さて、お前をどうしてやろうか。」


「へっ、俺は負け宣言なんか絶対しないからな!煮るなり焼くなり好きにしろよ」


「ほう、だったらあの女の部屋の前にお前を放置してみようかね。」


チラリと隣の108号室を見ながら脅してみる。


「ひっ、そ、それだけは勘弁してください!もうあの女には関わりたくない!」


ガクガクと震える田中。効果は抜群のようだ。しかしこの怯え方、こいつもあの鬼畜JKに相当痛い目に合ったようだ。


「あの女・・・同じ高校なんですよ・・・それで、俺がこのアパートに住んでることを知ってあの女は近づいてきたんです・・・それで・・・それで・・・うわああああああああああああ」


・・・この田中という男、相当なトラウマを抱えているようだ。俺より酷いやられ方とは一体・・・

考えただけで背筋が凍る。


「やっと先月あの女の家賃の肩代わりが終わったんだ・・・新入りのあんたを倒して何とか立て直さないと俺は破産してしまう・・・それなのに・・・くそっ!」


なんだかこの男を見ているとかわいそうになってきた・・・。共通の敵を持つからだろうか。


「・・・分かった。今回だけは見逃してやるよ。」


「えっ!!?」


「俺もお前と同じで、あの女からひどい目に合って今家賃を肩代わりしてるんだ・・・。弱みも握られていて何とかしないといけない。お前を見ていると、なんか他人事に思えなくてな。」


「甘いよな、俺も。せっかくの家賃身代わりのチャンスをみすみす捨てるなんて。けどいいんだ。今回に懲りて、もううちのチャイムは鳴らすなよ?」


「・・・・兄さん」


「えっ」


「兄さんと呼ばせてください!俺感動しました!ここに引っ越してから戦いばかりで、なんか大事なことを見失っていたようなきがします!」


「は、はあ・・・」


「兄さん、俺は一生あなたについていきますッ!うおおおおおおおおお!!!!」


こうして俺は、ピンポンダッシュ魔のイケメン、田中と出会ったのであった。

正直、めんどくさい・・・。田中が男じゃなかったらこっちが泣いて喜ぶのだが。

















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