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ルール

「やっぱりな。これおもちゃだぞ。」


そう言ってデブ男はペンチで手錠を壊す。パキッというプラスチックが割れる音が部屋に響く。


「え、ほんとですか?」


よくよく考えれば、女子高生が本物の手錠を持っているというのも変な話である。しかしあの極限状態の中、おもちゃと気づけという方が無理だ。


「やっと服が着れる・・・ありがとうございました。太田さん。」


「菓子折りの礼だよ。このアパートで菓子折り持ってくる奴なんてまずいないからな。俺は甘いものに目がないんだ。次はないぞ。」


「助かりました・・・。あの時の太田さんの忠告を聞いていればこんなことにはならなかったのに・・・。あの女子高生何者なんですか!?あんなの犯罪でしょ!あと、家賃身代わりってなんですか!?」


「落ち着け。とりあえずさっき起こったことを話してみろ。」


俺は、108号室で起こった出来事をありのままにデブ男に話した。思い出すだけでも鳥肌が立つ。


「お前、本当に何も知らずにここに引っ越してきたんだな。普通入居する前に、大家からの説明があるはずだが・・・。まず、あの女が包丁で脅してきたってことだが、お前は別にビビる必要はなかった。なにせ、ここでは直接相手を傷つけることは出来ないからな。」


「え?」


「ここでそんなことをしたら、強制退去させられる。このアパートの常識だ。ルールを知らないお前はいいカモにされたんだよ。普通、隣人と交戦する時そんな分かりやすい脅しなんかしないからな。」


「ちょ、ちょっと待ってください!隣人と交戦?ルール?なんなんですか!?」


「この○○ヒルズは、全18部屋。一階は101~109号室。二階は201号室~209号室があり、101号室は大家が住んでいる。」


「何故かお前はいきなり107号室に入居したが、本来新入りは102号室から入居する決まりになっている。」


「そ、それは俺の3つ上の従兄がこのアパートを出ることになったから代わりに入らないかって・・・」


「なるほど。そういうことか。前入居者の紹介があれば割り込みが可能になるのか・・・。そんなルールがあったとは・・・。まぁいい。ここに入居した者は自分の右隣りの部屋の住人に、負けを認めさせるか、自主退去させることによって、部屋を次々に引っ越すことが出来る。102→103→104号室のようにな。109号室まで行くと、次のターゲットは201号室となる。」


「どうしてみんなそんなことするんですか?訳が分からない・・。」


「ここの住人はみんな目指してんだよ。二階の最後の角部屋、209号室をな。」


「・・・209号室になにかあるんですか?」


「209号室に辿り着くことが出来たら、叶うんだよ。願いが何でも。」


「っぶ・・・!!!」


思わず俺は噴き出してしまう。そんな馬鹿げた話があってたまるか。このアパートの住人は丸ごと何かの宗教にでも入っているのだろうか。


「ふっ、まぁその反応が普通だわな。俺も大家から聞かされたときはお前と同じ反応をしたよ。でも、否が応でも戦いに巻き込まれることになる。お前が今日さっそくカモにされたみたいにな。」


「さっきも言ったが基本的に交戦するのは自分の右隣りの部屋だ。だがな、自分より若い番号の部屋の住人を倒すことによって、その月の自分の部屋の家賃を、相手に負わせることが出来るという特殊ルールも存在する。」


「そうか・・・何も知らない俺は自分からホイホイとあの鬼畜JKのところへカモになりに行ったという訳か・・・。」


「あの女は、あらゆる姑息な手段を使って108号室に君臨している。今まで何人もの新入りが、お前のようなカモにされてきた。恐らく、ここ半年は自分で家賃を払ってないはずだ。」


「!?そんなこと、法的にアウトじゃないですか!?俺、あの鬼畜JKにされたこと警察に通報するつもりですよ!」


「無駄だ。警察にアパートの住人に関することを伝えようとすると、謎の力が働いて自分が何を伝えようとしたか忘れてしまう。どんな方法でも通報することはできない。信じられないなら後で好きなだけ試してみろ。」


「そ、そんな馬鹿な・・・。」


「それに、初めの3か月はいかなる理由があろうと、このアパートから引っ越すことはできない。夜逃げしようとしても無駄だ。謎の力が働いてあらゆる邪魔が入る。」


「嘘だろ・・・。ってことは、3か月間はあの鬼畜JKの家賃を肩代わりしないといけないのか・・・。」


「動画撮られてるんだっけか。戦って奪い取るしかないな。まぁ、そう簡単にはいかないだろう。あの女は一筋縄ではいかない。おれもここ最近はこの部屋の保守しかしてない。」


「一体どうやって戦えば・・・。」


いまだ信じられない。こんな話が現実に起こり得るなんて。


「知るかよ。とにかく俺は今、現状維持しか考えてない。お前に戦いを挑む気はない。お前を倒したところであの女に勝つ自信はないからな。まあ、せいぜい頑張れや。」


「はい・・・。」


デブ男にお礼を言って、俺は106号室を後にした。太陽はすっかり上っていて、日差しが眩しい。


「ちくしょう・・・一体どうすりゃいいんだよ・・・。実家に帰りてぇ・・・」


こうして俺の記念すべき新生活一日目が終わった。

とにかく疲れた。部屋に帰って寝よう。今後のことを考えるのはそれからだ。


そうやって俺は布団に突っ伏して、眠りに落ちる。


目覚めたら、これが全部夢であってほしいと願いながら。












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