第七話 殺気立つ村
一人の村人は厳しい農作業の途中、ふと顔を上げた。と、山から小さな影が二つ、こちらに歩いてくるではないか。
「なんだぁ?」
何より目を引いたのは、その腰の刀だ。
「侍にしちゃぁちぃせぇなぁ」
「何処のガキだぁ?」
二人は気にも留めずあぜ道をすたすた歩いていった。と、目の前に少年が10人ほど立ちふさがった。その真ん中の体の大きい子が(15,6歳といったところか)唸った。
「おい、お前たち、ここに何のようだ?」
「・・・・・・・お前らには関係ないだろ」
一番端のやせた子が、高く、耳障りな声で言った。
「そうは問屋が卸さないぜ!」
「あん?」
「この村にはいるには、通行料を払ってもらうぞ!」
「通行料?持ち合わせはない」
風丸が両手を広げて見せた。
「その腰の刀を置いていってもらおうか」
「・・・・・・大概にしろ」
雷助が激怒していた。その顔を見て、真ん中にいた子以外はたじたじと後ずさった。
「兄上」
「なんじゃ!?」
「・・・・・・まさか、暴れるつもりですか?」
「そうだ」
「・・・・・・刀をよこしてください」
雷助は素直に刀を渡した。風丸はそれを腰につけ、溜息をついた。
「兄者と戦うんだったらそれもよいが、その気がないなら、長のところに案内してはくれないか?」
「・・・・・・元ちゃん」
「俺はやる」
“元”は指をバキボキ鳴らした。
「俺を負かしたら案内してやる。ただし、俺が勝ったら刀を置いていってもらうぞ」
「まるで追いはぎだな」
どさっと言う音に振りぬくと、風丸が座って退屈そうに山を見ていた。
「・・・・・・・風丸、なんか激励の言葉はないのか?」
「・・・・・・・骨折ったりすると、後が面倒ですからね。手加減してくださいよ」
「・・・・・・・」
あっという間に決着がついた。
頭一つ以上に違う二人が組み合ったとき、誰がどう見ても元が有利に見えた。
しかし、彼の体は軽々と持ち上げられ、泥沼の中に放り込まれた。
「「「元ちゃん!!!」」」
風丸は気のない目でそれをちらりと見やり、また溜息をついた。
「手加減してくれと・・・・・・・」
「うつけ!だからその沼に投げ込んだんだろうが」
「・・・・・・・ゲホ!ゲホ!」
下では、沼から元が引っ張り出された。必死で口の中の泥を吐き出している。
「・・・・・・・約束は守ってもらおうか」
「・・・・・・・お前、名前は?」
「雷助。こっちは弟の風丸だ」
「強ぇな・・・・・・」
「刀は飾りじゃないからな」
「・・・・・・着いて来いよ」
彼は着物を袖でぬぐいながら歩き出した。ただ、着物も汚れていたので、大して汚れは落ちなかった。
雷助も風丸も、周りの大人たちが殺気立っているのに気付かざるを得なかった。村の入り口に足を踏み入れた瞬間、その中にいた全員が動きを止めた。
“・・・・・・なんだ・・・・・・?”
“兄上、後ろ・・・・・・”
“!?”
先ほどまで農作業に従事していたものどもが鍬や鋤、鎌を待ち、二人の逃げ道を塞いでいる。
「・・・・・・・」
二人は元の背中だけを見て歩き続けた。
実際、案内の必要はなかった。道は一つしか選択できない。ずらりと並び、腕を組んでこちらを見ている村人を押しのけても仕方がないからだ。
元は一つのぼろ屋の前で立ち止まった。
「ちょっと待ってろ」
そういうと、彼は中に入った。
“・・・・・・・・!”
村人は二人を中心にぐるりと囲んでいた。皆が皆、どちらかの手に武器を握り締めていた。
“・・・・・・・・?”