第六話 頼るべきもの
雷助は飛び起き、刀を抜いた。
「誰じゃ!!」
朝の光が目に差し込み、めまいを覚えた。
「おいおい、物騒なもん振り回すガキだなぁ!」
上半身裸の青年が笑いながら一歩飛びのいた。雷助は彼を睨みつけ、刀を構えた。
「・・・・・・風丸・・・・・・」
返事がない。
「おい!」
足元を見ると、彼はそこにいなかった。
「・・・・・・風丸をどうした・・・・!?」
「まて、落ち着け。お前、名前は?」
「・・・・・・雷助」
「雷助、俺は“吉”じゃ」
「・・・・・・吉・・・・・?」
「聞き覚えがあるはずじゃ。まぁ、後でゆっくりと思い出せば良い。それよりもじゃ」
彼はきっと空を睨んだ。
「猿を信用してはいかん」
「・・・・・・・猿・・・・・・?」
「しかし、“竹”は信じても大丈夫じゃ」
「“竹”?」
「狸といった方が分かりやすいか」
「!?」
「よいな」
「私はてっきり、その逆と・・・・・・・」
青年は快活に笑った。
「そうだろうと思ったんでな。雷、しっかりと生き延びるのじゃ」
景色が急激にぼやけ、一気に遠ざかって行った。雷助が必死で伸ばした右腕は、何も捕らえることが出来なかった。
「吉・・・・・・吉法師・・・・・!?」
目が覚めると、手が天に向けて伸びていた。暖かいものが頬を伝っていた。
「・・・・・・・兄上?」
「風丸・・・・・・・」
雷助はむくりと起き上がった。東の空から光が漏れ始めている。
「・・・・・・・どちらに向かっていたか、分かるか?」
唐突な質問だったからかもしれないが、彼は言葉を濁した。
「・・・・・・・兄上は反対するかもしれませんが・・・・・・」
「??」
「猿よりも・・・・・・・狸に頼ろうかと思います」
“!!!”
「ほう・・・・・何故じゃ?」
雷助はこの頼もしい弟の考えが知りたかった。
風丸は躊躇いながらも、しっかりとした声で告げた。
「猿が・・・・・・父を討ったように思えてならないのです・・・・・・」
「!?」
予想外の言葉に、雷助は驚いた。風丸の目が静かな光を放っていた。
「おそらく、直接は動かず、誰かを唆して父を倒し、その後でその、“誰か”を討ち、天下を盗ろうとしている・・・・・・・」
「・・・・・・・風丸・・・・・・・・」
「・・・・・・・憶測に過ぎませんが、ね」
雷助には、それが信ずべきことに思えた。
「しかし、そうだった場合、あの者も相当危うい位置に・・・・・・」
「・・・・・・・まずは村に下りましょう。行く先も決められない」
風丸はすくっと立った。
夜には気付かなかったが、眼下には、小さな村がひっそりと存在していた。