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時は戦国  作者: 田中 遼
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第二十六話    じゃれ合い


片桐兄弟が一向に加わってから、胡蝶は始めのように笠を深く被り、顔を隠して馬にまたがっていた。


彼女は風丸に合図を送り、彼女がいる後方まで呼んだ。


そして彼が近づいてくると、小声で話しかけた。


「……風丸、あの兄弟、そんなに信用できないの?」


風丸は半分笑って、先頭で馬を歩ませている二人を見た。


貞隆は未だに風丸をちらちらと睨んでいる。


「……ま、今のところ」


「……でも、心配なのはあの弟さんより、お兄さんのほうだね……。何か裏がありそう……」


風丸は驚いて胡蝶を見た。胡蝶はニッと歯を見せる。


「でしょ?風丸」


彼は一瞬目をぱちくりさせた後、ぷっと吹き出した。


「さすが、城下一の……」


しかし、胡蝶はそれを遮った。


「「才女」、よね?」


風丸は半ば笑って、呆れたように首を振った。


「やれやれ、その通りその通り……」


「……風?」


胡蝶は於義丸に言ったように言った。しかし、風丸が彼女を恐れるわけもなく、一段と笑っただけだった。


胡蝶は笠の下でぷっと膨れ、横を向いた。


風丸はクスクス笑いながら、その肩をぽんぽん叩いた。




貞隆はその様子を睨みつけ、


(務めの最中に何をやってやがる)


と、苛立っていた。


風丸が仲間とじゃれあっている子供にしか見えなかったのだ。


「……貞隆」


且元が小声で言った。


「……兄上」


「……どう思う?」


そしてくいっと風丸を指した。


貞隆はペッと唾を吐いた。


「……こんな時に主を他人に任せ、友とじゃれあっているなど、大したものではない証拠といえましょう。ただの生意気なガキですよ」


しかし且元は、「ふむ」と唸った。


「……そういう見方もあるな」


貞隆は眉ををひそめ、兄の顔をうかがった。


且元はずっと前を見ている。


彼は自らの言葉に含まれている意味を話そうとはしなかった。




且元は横を歩いている貞隆にも、風丸のすぐ傍にいる胡蝶にも気付かれずに、風丸を見ていた。


見続けていた。


そして、貞隆とは真逆の結論に達したのだ。


(……これは大した男だ)


己に向けられている視線に気付いているだけではなく、それがどこから来ているかまで、しっかりと認識している。


しかし、ごく自然に振舞っているのだ。


しかもそれでいて、警戒も忘れていない。


且元は笠を被っているものが何者かは知らないが、その者を彼から遠ざけようとしているのが分かった。


しかしそれも、且元以外には、笠の者にすら分かっていないかも知れない。


(……しかし、まだ少し甘い)


且元は思った。


(……女子だな)



彼は誰にも気付かれず、口元を吊り上げて笑った。




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