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時は戦国  作者: 田中 遼
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第十九話    別れ

風丸は、兄 に ま っ た く 気 付 か な か っ た か の よ う に振舞った。


雷助も、 弟 に 気 付 か れ た こ と を 知 ら な い か の よ う に 振舞った。


風丸は次郎三郎の部下に案内されるままに、一つの部屋に入った。


「・・・・・・・・?」


部屋の中にどこかの姫君らしき少女が座っている。


「どうされました?」


「あの姫君は・・・・・・・?」


「風丸!!」


姫がうれしそうに振り向いた。


「!?胡蝶!?」


「遅かったね!」


「あ、ああ・・・・・・・元は?」


「寝ちゃった。風丸も帰ってきたし、私も寝ようかな・・・・・・・」


胡蝶はとても眠そうに“ふわぁぁぁ”とあくびをした。途端に眠気が風丸に伝染する。


「俺も・・・・・・・寝・・・・・・よ・・・・・・・」


風丸はゆっくりと腰を下ろし、ぱたりと横に倒れた。


「・・・・・・・風丸??」


従者が彼の顔を覗き込む。


「・・・・・・・お休みになったようですね」


「・・・・・・よく分かんないな、風丸は」


「お運びいたしますか?」


「え、あ、お願いします」


12歳の少女にお辞儀をする従者の姿は、胡蝶の目にはとても奇妙に見えた。




雷助の炎は燃え上がっていた。


ただ、まだわずかに冷静さが残っていたため、家康を急襲するような行動にはいたっていない。



“次郎三郎を討っても仕方あるまい。だが・・・・・・・このまま奴の思い通りにさせることは・・・・・・・!!”


風丸が家とか、父の仇などという小さなことに無関心なのは知っている。そう、そういったものが小さいものであることも、知っている。


だが、だからといって、雷助は我慢がならなかった。



“・・・・・・・おそらく、こういうところが風丸と違っているのだろう・・・・・・・俺もやはり、ただの人に過ぎんな”


雷助はしかめっ面のまま、すくっと立った。


“・・・・・・・“乱世に対する復讐”は風丸に任そう。あいつ一人で十分だ”


雷助は、弟が自分より優れていることにとうに気付いている。自分がいなければ、風丸は存分に才を発揮してくれるだろうという風に考えているのだ。


“俺は・・・・・・“小さいこと”にこだわらせてもらおう”


雷助は思案をやめ、布団に向かった。彼の頼みで、ほかの3人とは違う部屋に寝床が準備されていた。





風丸は明け方近くに目を覚ました。元と胡蝶との三人で川の字を作っている。


“・・・・・・・・?”


眠気でぼんやりした頭の奥底で、“嫌な予感”が鋭く風丸を突き刺した。


“・・・・・・・兄上・・・・・・?”


途端に頭がさえてきた。


布団を跳ね除け、飛び起きる。横の二人がもぞもぞ動いてもお構いないしで障子を開け放った。


“・・・・・・まさか・・・・・・!”


全速力で門まで走ると、案の定旅支度を整えた雷助の後姿が見えた。


「兄上!!!!」


雷助はぱたりと足を止めた。


「どちらへ行かれるつもりですか!?」


彼はゆっくりと顔を向ける。


「・・・・・・・お前は、お前の復讐をやり遂げろ。俺は、狸や猿に一矢報いる」


「兄上、そうしても・・・・・・・」


当然、弟の言いたいことは分かる。“何にもならない”“両親は帰ってこない”。雷助はそれをさえぎった。


「風!」


「・・・・・・はい」


「分かっているだろう。俺とお前は、一緒な様で、やはり違う」


「・・・・・・・はい」


「お前の方が、よほど俺より賢く、強く、優れている」


「そんな・・・・・・・!」


「いや、そうだ。さもなくば、乱世を鎮めるなどという大仕事を任せられないだろ」


風丸は黙って兄を見ている。


「・・・・・・いつか、また、戦場であいまみえるかもな。お前が狸を影から支えるのであれば・・・・・・・」



雷助は“敵として”とは言わなかった。ただ、風丸には十分すぎるほど伝わっていた。


「・・・・・・その時は、容赦はしません」


雷助は笑った。


「それでこそわが弟だ。俺も、お前に斬られるまでは生きているつもりだ」


「でも・・・・・・・!!」


「達者でな」


雷助はすたすたと歩き出す。昇り始めた太陽が、完全に雷助と重なり、風丸の目をくらました。




こうして、兄と弟は別れたのだった。





天正十年六月十二日。



既に羽柴軍は明智軍に襲い掛からんとする勢いを見せていた。






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