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時は戦国  作者: 田中 遼
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第十六話   逃亡の終わり

“そろそろ、着くころなんだが・・・・・・まずいな”


風丸は後ろの二人を振り返った。


元はあの夜の後、少しの間は意気揚々としていたが、疲労が影響して不機嫌に戻っている。


胡蝶は疲れているそぶりを見せないようにしているようだが、それでももう限界が近いのが分かる。


雷助が耳元でささやいた。


「風丸・・・・・・そろそろ・・・・・・・」


「分かってます・・・・・・」


獣道を歩き続け、この兄弟も相当まいっていた。


「・・・・・・五日目、だからな・・・・・・」


と、先を歩いていた二人が峠を超えた時。


目の前が開け、目指していた城がふもとに現れた。


「おぉ!元、見えたぞ!」


「ホントか!?」


元は疲れた顔を輝かせ、一気に駆け登ってきた。が、反対に胡蝶はしゃがみ込んでしまった。風丸がさっと駆け寄る。



元は城を見て、言葉を失ったようだ。


「……ず……随分、立派な城だな……」


声が掠れている。


「まぁ、それなり、だな」



雷がさらりと言う。元は口をあんぐり開け、彼の顔をまじまじ見た。


岡崎城は、1454年ごろ、守護代西郷氏が築城した城だ。


1531年に松平清康が改修拡張整備し、勢力を広げた。


明治の初めに廃城となったが、その当時の規模は東海地方で三番目だったらしい。



風丸が胡蝶をおぶって昇ってきた。


「兄上、行きましょう」


「……」


元は妹をおぶりながら、軽々と山道を下る風丸にも、城と同じ位、驚いていた。




「止まれ!」


門番が槍を構えた。雷助は眉も動かさず、すぐ側まで歩いていった。


「なにやつ!?」


「残念ながら、貴様らに用はない」


雷助は槍の先を摘んだ。


「……ここの主にあるものを渡してほしいだけじゃ」


門番は槍を引っ込めようとしたが、全く動かない。


「……!」


「頼まれてくれるか?」



門番の一人―――槍を捕まれていない方―――はさっとその顔を見つめた。



農民の、しかもほんの子供であるにも関わらず、一端の口を聞く。



「……何を渡せと言うのか……?」


しかも、よく見れば腰に立派な太刀をさしている。


少年はその太刀を外し、差し出した。


「これだ。後は主の指示に従ってくれ」


門番は、この少年を気に入った。従いたいとさえ思った。



「……分かった。ここで待っていてくれ」


「え?」


「……お前はここで見張っていろ」



彼は同僚にそう言い、踵を返した。



残された男は混乱したらしく、4人の顔を見渡した後、もう一度槍を引っ張った。だがしかし、やはり微動だにしなかった。



雷助は薄笑いを浮かべ、二本の指だけで彼の両腕から槍をもぎ取った。


「な!?」


「……もう少し鍛えた方が良さそうだな」


「兄上!」


「分かっている」


雷助は唖然としている門番に槍を投げ返した。



しばらくして、なにやら緊迫した表情の男が先ほど門番に渡した刀を持ってやってきた。


「おぉ!!やはり無事じゃったか!」


雷助が嬉しそうに言うと、その男ははっとした表情で跪いた。


「その声は雷様ですか!?よくぞご無事で・・・・・・」


「何じゃ、わしの顔も忘れたのか?」


「滅相もございません!ただ、お顔もお召し物も・・・・・・」


雷助は納得したように自分の顔をなでた。


「ああ、これは風の意見じゃ」


「風さまも・・・・・??」


「無事じゃ。その、娘をおぶってるのが風丸。娘が胡蝶、もう一人が元。・・・・・・それより、何事か、教えてくれ。わしらはとにかく逃げてきて、皆目見当がつかんのじゃ」


男は平伏した。


「は!その前に、お体を清められては?」


「・・・・・・しかし・・・・・・」


風丸がはじめて口を開いた。


「頼む。それから、胡蝶と元を休ませてやってほしいのだが」


「承知、仕りました」


時は天正10年。


六月十一日である。



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