表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
時は戦国  作者: 田中 遼
15/31

第十五話   元の憂い

村を出て彼らは東に向かっていた。元が山神の家から“頂戴した”刀―――風丸と雷助は気付いたが、元が持っているにはふさわしくない、かなりの名刀だった―――を弄びながら、聞いた。


「それで、お前らは何処に向かっているんだ?」


元がただの好奇心で尋ねのだが、それによって兄弟は気付かされてしまった。


「・・・・・・・元、ここはどこじゃ?」


「あん?」


「攻め込まれて、抜け穴を伝って逃げたのはいいが・・・・・・・」


「自分の位置がわからなくて・・・・・・・」


兄妹がやれやれと肩をすくめた。


「ここは、伊勢と近江の境だ。あの山の・・・・・・」


彼が村の向こうの山を指差した。


「てっぺん近くまで行くと、海が見える」


「ほう・・・・・では、あっちが南だな?」


「なんだか知らないが、ご両人は何処に向かってるんだ?」


風丸が迷いも躊躇いもなく言った。


「岡崎城」


元は叫んだ。


「シロォ!?」


「岡崎・・・・・・?おい、風丸・・・・・・」


「狸は、確か堺にいたはず・・・・・・父上の事を聞いたら、必ず岡崎まで退いてくるでしょう」


「途中で討たれていなければ、だがな」


「悪い知らせはもう十分です。狸を信じましょう」


二人のやり取りを見ていた元が呻いた。


「・・・・・・お前ら、幾つだっけ?」


「?12だ」


「ふ〜ン・・・・・あ、そう・・・・・・」“侍のガキはこんなのばっかなのか??これじゃ歯向かう気も起こらねぇよ・・・・・”


「??」


「じゃあ、私と同じ」


胡蝶が嬉しそうに言った。




風丸と雷助―――つまり、超人的な身体能力とあらゆる戦いに精通している二人―――が行動をともにしていることから、数々の事件を書くのは時間の無駄だと思う。



彼らは夜盗に襲われたが、瞬時に全滅させたし、また、胡蝶をかどわかそうとした愚か者は、口に出せないような目に合わされた。風丸曰く、殺す価値がないから男を捨てさせたとの事。



三日後も、4人とも無傷だった。



様子がおかしいのは元だけである。



ほかの3人の後に、黙ったままついてくることが多くなっていた。





夜、見張りの元は薪の弾けるのを黙ってみていた。嫌な気配がして目が覚めた胡蝶は、兄の顔に変な“気”を感じた。


「・・・・・・・」


「お兄ちゃん、どうしたの?」


「・・・・・・・なんでもねぇ」


「なんでもないなら、その顔は何よ?」


「・・・・・・悔しいんだ」


胡蝶はムクリと身を起こした。


「悔しい・・・・・・・?」


「自分の力の無さが・・・・・・・」


「それは・・・・・・二人と比べて?」


「そう・・・・・・・俺はあまりに弱い・・・・・・」


「アハ、お兄ちゃん、可愛いね」


予想外の言葉に元はたじろいだ。


「何!?」


「弱いんだったら強くなんないとね!頑張れ!」


「で、でも・・・・・・」


「お兄ちゃんならやれる!!信じてるから!」


元は嬉しそうに照れ笑いを浮かべた。


「そ、そうか?」


「うん!!」


胡蝶は満面の笑顔だ。元はそわそわしながら言った。


「お、俺、小便行ってくるから、も、戻ってくるまで見張り、頼む!!」


元はバッと駆け出した。胡蝶は半ば呆れたように首を振った。


「起きてるんでしょ、二人とも」


「「・・・・・・バレたか」」


「お兄ちゃんも馬鹿よねぇ・・・・・・勝てるわけ無いのに・・・・・・・・」


「胡蝶、元はただ、“男”なだけだよ」


風丸がつぶやいた。雷助もうなずく。


「?」


二人はちょっと微笑んで見せながら起き上がった。


「誰よりも強くありたいっていうのは自然なことだ」


「でも、大抵の奴は挫折する。自分より強いのを見た瞬間に、ね」


「元は、自分には歯が立たない、化け物を二人も見たんだ」


「それでも、誇りを捨てず、まだ自分が強くありたいと思ってる。だからあんな態度をとるんだ」


胡蝶はクスクス笑った。


「化け物って自分たちのこと?」


「そうだが?」


雷助は不思議そうに首をかしげた。



風丸は、笑いが止まらない胡蝶とその理由を訝る雷助に呆れ、パタッと倒れて寝てしまった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ