第十話 兄妹の両親
「・・・・・・・・??」
風丸は繰り返した。
「お前、知ってるんだろ!?」
「・・・・・・?お前・・・・・・」
「あの爺のやってる“呪い”の事だよ!」
元はパッと目を逸らした。胡蝶は首をかしげた。
「・・・・・・あの爺、俺と兄上の事でも何かほざいた様だな。なんと言った?」
「・・・・・・“近々、余所者が滅びをもってくる”と一昨日・・・・・・・」
「・・・・・・元、お 前 は 信 じ て い な か っ た 。そ う だ ろ ?」
元は草を弄びながら黙っていた。
「・・・・・・“呪い”に気づいていたわけだ」
「・・・・・・あの爺は・・・・・・“術”を使って・・・・・・俺たちの両親を殺しやがったんだ!」
胡蝶と風丸が同時に反応した。下のほうをさまよっていた視線が急に上がり、元を見た。風丸が先に言った。
「俺たち?」
元はめんどくさそうに視線を逸らし、山のほうを見やった。
「胡蝶は俺の妹だ」
胡蝶がようやく言葉を発した。
「・・・・・・・“殺した”?」
「・・・・・・・・」
逸らした元の顔がぐっと険しくなった。胡蝶は何も言わない元の服を引っ張った。
「お兄ちゃん、どういうこと・・・・・!?だって“お袋も親父も地震で死んだ”って・・・・・・・!」
「・・・・・・・・」
八年前――――――――
夕方の事である。家に彼の父親の姿が見えなかった。
「おとうは?」
「何か“山神様”に呼ばれたらしくて・・・・・・・」
「ふ〜ん」
「元、胡蝶の面倒をしっかり見とくれ!!」
「ヤダね!」
元は家から飛び出した。が、飯時ということもあり、彼の遊び友達は誰一人いなかった。
「ちぇ。おとうもいないし飯はまだだし・・・・・・・・」
元はすぐ近くの山に登ることにした。
頂に立つと、夕日に赤く染まった村を見下ろす事になった。茜色の屋根や畑に見入った元は、自らの腹の虫の音で我に返った。
“そろそろ帰るかな?”
と、眼下の村がざわざわと騒がしくなっているような気がした。
“・・・・・・・・?”
耳を澄ましても何も聞こえない。胸騒ぎを抑えられない元は、山を駆け下りた。
家に近づくと、子供の泣き声が聞こえてくる。一番聞きなれた声だ。
“胡蝶!?”
道の真ん中で胡蝶が大声で泣いていた。その頬や服に赤いものがべったりと付いている。
「胡蝶!!大丈夫か!?」
だが、どうやら何処も怪我をしていないようだ。
「おい、どうしたんだ!?」
「おっかあが・・・・・・!おっかあが・・・・・・!」
「え!?」
元は胡蝶を脇にやり、また走り出した。
「おっかあ!!」
家に飛び込むと、血のにおいが鼻をついた。
「!?おとう・・・・!?」
暗がりに立っているのは紛れもなく父親だったが、何かおかしかった。体中から発散されている禍々しい“気”に、元は後ずさった。
「・・・・・・・おとう・・・・・・?」
彼はゆらゆらと元のほうに歩いてきた。
その右手が光に照らされたとき、元は息をのんだ。
血の滴る刀が握られていたのだ。
その左手が光に照らされたとき。
元は体が動かなくなってしまった。
彼の母の生首がその手からぶら下がっていた。