竜
目の前には、流花さんがいる。 なんか言ってるが 、うるさ過ぎて 全く聞こえない。耳に手をあて「何?」と口を動かす。 返事は 「竜」。 あ〜あれか スピカが現れると竜が騒ぎ出すって言うやつか・・ それにしてもこれじゃあ話も出来やしない。 苦笑いしながら流花さんが指差す方を見る。その先には 大きな木の幹が見えた。
その木は、今まで見たことのない大きさだった。 すべてを視界に納めることは出来そうにない まるで壁だな。 直径5メートルはありそうだ。 木の匂いなのか 柑橘系の甘酸っぱい匂いがしてきて うれしくなり めいっぱい吸い込む。
「この木が 魔素を生みだしているんだ 」
恐る恐る木の幹を触ってみる。想像していたより ずっと硬い。木の根元は あの○トロのクスノキーのように入り組んでいる。 探せば虚があって中に入れそうだ。よじ登って行ける所まで登り 身体を木に密着させる。 自分の心臓の脈動が 波打つように 跳ね上がり 自分の心臓の鼓動なのか それともこの大木の鼓動なのか 頭の中に力強い鼓動が、響く。目の奥には、光輝く水が 流れるような様が見える。一体になった様な 否 なりたい自分に気付く。
「ラウール」
いつもと違う呼びかけに
「なに 母さん・・ん・・母上?とかがよかったかな?」
「うーん・・母さんで・・ ただ 王族として振舞わないと駄目なときは、母上で」
「了解。ところで 俺 この世界で言葉どうなってるの?」
「私が、日本語とフォレスタリア語 理解できるから あーと 例の異世界補正で喋れるようにしといたよ。まあ ただ単に 私の言語知識を魔法で移しただけなんだけどね。 言っとくけど ステータス!なんて叫んでも ステータス画面は 出てこないからね。見れないからー ここはゲーム世界じゃないから」
「ここは、どんな世界? 」
「その話する為には、上に行くよ! リル~」
次の瞬間 空に近い場所にいた。 遮る物の何もない 山の頂の崖っ淵にいて、バランスを崩したら落ちてしまうんじゃないかと 足がこわばってきた。どうやらここは さっき見た 大木の上で 鳥の巣みたいな処だ。 だが 直径が3メートルもある巣を持つ鳥って?
「ここは 何?」
「ここは、フロウエンドで 一番高い所。 いつもは 竜が見張りをしてるのよ。」
「竜が? あれ?そういえば竜の咆哮 治まったね」
「お願いしといたからね。また騒ぎになったら嫌でしょ!彼らが 喜んでくれるのは うれしいんだけどね・・・」
「ミリュエル様 お久しぶりでございます」
後ろを振り返ると いつの間に来たのか
190はありそうな大柄な男が立っていた。そして バサッと音と共に もうひとり現れた。
「ああオーリク!会えて嬉しい!やっと帰って来れた」
「ミリュエル様・・ つまり 帰れない処に居られたので・・なんと・・・ミリュエル様の気配が消え 情けないことにショックのあまり巣穴に篭って居りました。此処のところもう永久の眠りに就こうかと思っておりました処 其処に居りますアルバに起こされたのです。またミリュエル様にお目にかかれるとは・・・・」
目に涙を浮かべ 感動のあまり今にも倒れそうな大柄な男に あっけに取られていると 俺と同じくあっけにとられている後から来た若い方の男と目が合った。アルバと呼ばれたその男は 俺の顔を凝視して驚いた様に目を見開き 視線を胸元のトゥールがいる辺りに 腰のベルトに挿しているベヒモスの剣の辺りに視線を漂わせている。どちらも見えないはずなんだが 気ずいたんだろうか・・この人達は 何者なんだろう 竜のテリトリーに居て大丈夫だなんて・・・んん? 巣穴って言った??
「もう!オーリクったら まだまだそんな歳じゃないでしょ!竜は3千年は生きるって聞いてるわよ。まして賢竜はもっと長生きなはずよ」
思わず「竜??」と つぶやいてしまい 皆の視線を集めてしまった。オーリクは、俺の存在に今初めて知り改めて食い入るように見つめた。
「こちらの御方は もしや・・・・」
と 今度は はらはらと涙をこぼし始めた。
「オーリク、この子は息子のラウールよ。この子の処にスピカが来てくれたので 帰って来れたの」
「ラウール 彼の名はオーリク 竜の王様よ」
「ラウールです。この世界の事は まだ 何も知らないので よろしくお願いします」
とりあえず 無難に挨拶をすると、
「若様・・・・」
もう 恍惚状態になっていて 後ろからアルバに支えられている。歓迎されてるみたいなんで ホッとした。この世界での初めて会った人?だしな!
「竜は 人の姿になれるんだね?」
母親の方を向くと 涙目で笑みを浮かべながら、
「彼らは特別で 人化出来る竜は 賢竜と呼ばれているのよ。 あと何人か いると思うんだけど・・・ 私は オーリクにしか会えてないんだけど・・・
オーリク?あと何人いるの?・・・・・オーリク?」
未だに 涙を流しながら 恍惚状態解除の出来てないオーリクは、40代位に見える精悍な容姿を台無しにしている。 若様・・・ジズ・・・・神蝶・・・とブツブツと呟いている。
「はーーー!大変失礼いたしました。私は、アルバと申します。 恥ずかしながらそこで呆けている 一応 王と言う地位についている者の11番目の子でございます。何分父は4長老が一人と言う年齢であるのに拘らず 未だに感情のコントロールができず、お恥ずかしいかぎりです。まあ他の3人の長老も似たり寄ったりなんですが・・・特に嬉しい悲しいには どうしようもなく 見ている身内としては 虚しい思いでございます。この様な呆けは捨て置き私が先ほどの質問に答えさせて頂きます。現在人化できるようになった賢竜は 父を含めた4長老、3老子、戦師の中に2名 成竜には9名 子竜の中は私を含め2名 おり、後 神竜が1名 最近生まれました」
「神竜?初めて聞くわね」
「はい、我々の間では伝説の存在でした。竜は、生まれてから100年は幼竜、1000年は子竜といい 成竜となってから 黒っぽい色から 様々な色に変化します。
ゼダは 人化の状態で生まれ、すぐに竜の姿になったのですが、最初から金色だったのです。」
「へぇ~ ゼダに逢ってみたいな、最近生まれたってまだ赤ちゃんなのかなぁ~」
「はい、竜の姿では 小型種の飛竜程の大きさしかありません。人化した姿は 15歳ですので 若様と同じ年頃と思われます」
「えっ?」
「ふふっ!竜にとっては 15歳は 最近生まれた・・ということみたいね。それにしても 賢竜 増えたみたいね。アルバも子竜なのに人化できるなんてすごいわ!2000歳過ぎないと人化出来ないと言われていたのに・・」
「私の妻のメリダも子竜ですが、人化できます。メリダの両親ゲイドとモラ、私の両親オーリクとテセラ この4人は4長老と呼ばれフロウエンドの始まりの時から生きている賢竜です。その4長老の血筋の者に 賢竜となるものが、多いようです」
賢竜と神竜か・・・竜が人の姿になれるというのにちょっと驚いたというか嬉しい驚きだ!その神竜のゼダが同じ歳っていうのも!
「ラウール この神木は、’神域の大樹’ と呼ばれているんだけど 他に4本の神木があるのよ。フォレスタリア大陸のある ’癒しの神木’、 竜の棲家にある ’竜の神木’、 獣人の国にある ’獣人の国の神木’、 砂漠の奥地にある ’砂漠の神木’。 そのすべての神木を竜がずっと守ってきた。そして神木のある森を神獣が守ってきた。神木を守ることが 一番大事な事なのよ!」
そう言って遠くの方を指差した。指し示す方を見ると 遥か遠くの方を何かが飛んでいる。点見たいに小さくしか見えないが ゆったりと飛ぶ様子だとか尾があるのが見える。 竜なんだろう。 だがふと疑問が湧いた。なんなんだろう・・・母親から漂ってくる感情は・・・悲しみ?苦しみ?あきらめ?怒り?・・・・なぜなんだろう いつもの能天気さは影を潜め複雑な感情が伝わってくる。
「守る?・・・・何から?」
「・・・・・・・落ちてくるのよ・・・あらゆるものが・・・だから 何が起こるか分からない 」
「何それ!落ちてくるって 空から ドドーーンて?」
「そうね 隕石が落下してくるみたいに ドドーーンと地面にクレーターっていうのもあるけど、 ゆっくりと落ちてくる事もある。 そういう時 竜が神木と神獣の森を守り 飛竜に乗った竜騎士が 人の世界を守る。空から落ちて来るものには 空を飛べるものしか対処出来ない事が多いからね。彼らのおかげで 多くの命が助かったから この世界の人々から 尊敬されているのよ」
「ええっ!命って?え?もしかして、人が落ちて来るの?」
「人も 獣も 恐ろしい魔物も落ちて来るのよ。助けるべきかどうかも分からない事もあるし 既に 手遅れで白骨化している亡骸という事もあるのよ。そういうものが、大量に落ちて・・ううん 正に 降ってくるという感じ そして それが どれだけこの世界に影響を与えているか 知ってほしいの。見て! ここから見えるフロウエンドのすべてを」