おしくらまんじゅうと乱舞
「契約終わったから 私は、行くとこあるから先に戻ってるけど、 颯ちゃんは、他のスピカ達とベヒモスに 会ってから 神域の大樹に来て! 1時間以内に戻ってきたら良いから。
頼んだわよ、ロック〜」
そう言いながら、いつの間にかロックを手の平に乗せて、首の辺りをかいてやってる。 ロックは、気持ち良さそうに目をつぶっている。 今まで周りを飛び回っていたリルが、流花さんの肩に 乗った途端 一人と一羽は 忽然と 消えた。 おー いきなり消えられると、取り残された感、半端ねえなー でも もう俺には ロックがいる。 無敵だし。 あれっ! 俺って どうなんだろー 戦闘力 ゼロじゃん 武器すら持ってないし はぁ〜 ロックが頼みの綱なんだね。 自重しよう。
「それじゃあロック、ベヒモスのとこに 頼む〜」
そして 俺は 再び緑の世界に 戻ってきた。
「…………………」
だが 俺は、思考がフリーズする持病をまた発症した。
緑は、ほとんど 青虫だった。足元の地面すらあまり見えない。 ツヤっとした表面、斑ら模様で 人の手のひらサイズの葉っぱ、これが神様オススメ美味しいポトスだろう。 ポトスの絨毯だ。その上で、青虫がおしくらまんじゅうしている様に 蠢めいている。 段々と気持ち悪くなってきた。 一番デカイのは 人間位ある。
以前 楽しようと薄い本で読書感想文を書こうとして読んだ本に、人間が青虫になる話があったなあ、きっと これ位の大きさなんだろう と考えている俺、
「余裕だなっ。ははっ!」
だが おしくらまんじゅうに強制参加させられている現実にいつまでも 目を反らし続けててはいけない。
「ベヒモスを探そう」
太ももに感じる ぶよぶよとした感触は・・・忘れたい。
そうしてると シャリシャリという音が 、聞こえ始めた。 それが だんだんと こちらに近づいている様な気がする。
何かが 蠢めく音。 何かが来る予感。 集中すると 大きなものが 直ぐ近くに居ると判る。 真正面だ。
木々の間からのっそりと現れたそれは、角がある。 位置は、鼻から眉間にかけて2本の角がある。サイと同じだ。 つまり 顔は、サイだ・・・が、 亀を背負っている。 いや、体は 陸亀の様にこんもりとした背中だ。 大きさは・・・ と横に回って見たいのだが 青虫が邪魔で 動けない。 もたもたしていると 手を伸ばせば 届く所までやって来た。 ダンプカー並みの大きさだ・・が、不思議とちっとも恐くない。
「ベヒモス? 俺は、ソウっていうんだ。ロックという名のスピカに連れて来てもらったんだ。 青虫踏まずに歩くの大変だね。」
「ブモッー」
おー返事してくれたみたいだ。
ポトスは蔓性の植物だからか、ベヒモスの足に絡み付いていた。 それを取ろうとして、葉っぱを1枚食い千切り、食べ始めた。
クシャ クシャ クシャ クシャ クシャ クシャ クシャ クシャ クシャ クシャ クシャ クシャ クシャ クシャ クシャ クシャ クシャ クシャ クシャ クシャ クシャ クシャ クシャ
「1枚の葉っぱ食べるのに 随分噛むんだね」
「フーー」
っと 、鼻息を飛ばしてきた。 うん 仲良くなれた気がした。 感だが。
「此処 良いとこだから また 来ていい?」
「ウモーーーーーー」
首を 上の方へ 上げながら 咆哮した。 すると、遠くの方から、チルチルと騒がしい鳴き声をあげながら スピカの群れがやってきた。 随分賑やかだ。 俺の近くにまでやって来ると、グルグルと回り始め 何羽かが、俺の前に何かを持ってきた。
それは、サイの角、と同じ形のベヒモスの角だった。
「これ 俺に? あ! 大事なものなんでしょ? ほんとにいいの? あー ありがとう。
大事にするよ。」
ベヒモスと会話をしながら スピカ達の飛ぶ様に 見惚れる。 ここのスピカ達は、カラフルで、赤、青、黄、緑、オレンジ、紫、茶、冠の様に 飾りが付いていたりと 様々だ。
チルチルと かしましい。
ふと気がついたら 俺は、ベヒモスの背中に乗っていた。 そこから 遠くを見渡せば、山が動いているのが 見えた。 あれは、ベヒモスだ! デカイ!!! 回りを何かの群れが、飛んでいる。
「あれはー あ〜 神蝶達だなー これだけいる青虫達が孵化する訳だから さぞかし………」
神蝶は、七色に輝く姿で、大半が手のひらサイズ の様に見える。それが 群れを成して こちらに近づいてき始めた。 まるで 川を描くように キラキラ輝いている。その流れは なかなか終わらず 今度は 手のひらの4倍はありそうなのが混ざり始め、ついには 人間に羽が生えたような大きさの神蝶までもが、飛んでいる。
「ぅあ〜 凄い! 蝶の乱舞っていう奴だ」
見上げていると、目眩がしそうになり その場に座り、足を前になげだし 手を後ろにつき 暫く ぼんやりと眺めた。
やがて 乱舞が終わり、一羽の大きな神蝶が、ゆったりと 直ぐそばに舞い降りた。
そして羽を 小刻みに震わした。 すると 羽のあたりから キラキラと光る粒子が舞い上がり ベヒモスの角を持つ手の方に来てベヒモスの角の包み込んだ。
その後は、俺の手首に 吸い込まれていった。 一瞬 蝶の形の紋章が現れたが、やがてゆっくりと消えていった。
ベヒモスの角は、小太刀に変わっており、鞘には、先ほど見た蝶の紋章が、刻まれていた。
「ありがとう 大事にするよ。」
小太刀を摩り 見つめていると パサーッと音がして、ふわっと風が 頰を撫でた。 神蝶の方を見ると もう すでに高くに舞い上がっていた。
羽ばたく度に きらめく姿は 気高く 優しかった。
ベヒモスに 別れを告げ、母の元へ・・・これから何が待ち受けているのだろうかと 期待と不安・・・きっとそれは、 驚きに満ちているんだろうと 左の手で トュールを服越しに撫でながら 俺は 小太刀を握り締めた。