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異界の果て  作者: 蒼花
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二人の母親

 うちの母親は、たまに爆弾投下してくる。

 今回は 全くの不意打ちで特大サイズだった。

 

 学校から帰って冷蔵庫の扉に手をかけたときに、


 「ねぇ 颯ちゃん 高校入ったらさ~2ヶ月休学してね。」


 「えっ!!!」


 「お父さん 探したいの」


 「なっ! なんでそんなに急に!!」


 「急じゃないよ! まだ8ヶ月もあるよ」


 「いやそうじゃなくて!!」


 「本当はね、颯ちゃんが大学生になったら 一人でいくつもりだったのよ。その準備はしてきたから。

 前から探したい あなたに逢わせたいって言ってたでしょ。

 目処が立ったのよ。」


 「目処?」


 「それに 向こうの状況を考えたら早いに越したことはないし」


 「むっ危険?」


 「子供の存在知らないんだから 可愛いうちに逢わせたいし。いきなりおっさん連れてきて 『あなたの子よ』なんて 複雑でしょ。」


 「おっさんって… 」


 「だから あんまり規律の厳しそうな進学校だと休学しにくいでしょ。そこんとこ緩そうなとこにしといてね。  あっ タイムセールの時間!!」




 

 最近友人に言われた言葉が蘇る。

 「お前 関西に住んでててツッコミスキル手に入れられなかったな。なかなか便利なのに」




 どこから突っ込めばいいんだ!! なんだ あの手ごわさは。

 まず 将来どうしたいのとか 好きなことは何とか 理系か文系かとか 思春期の子に気遣った様な言い方するもんだよな。

 それを なに!!いきなり休学!! 緩いとこ選べ!!進学校行って一流大学目指すつもりだだった予定をどうしてくれる!!それに 大学生になったらおっさんになってるって?  はぁあああああ!!

  って・・・・・あっ・・・・・・




 大事なタイムセールから無事ご帰還なさいました流花さんに  速やかに  着席していただきまして


 「で? 準備をしてたって言ってたけど? どういった準備な訳?」


 「それは勿論 山内弁護士に色々と」


 なんか 目が泳いでいるような 焦ってる様子。 確信を持って聞く、


 「帰ってこれない可能性があるんだね。早く行く方が安全なんだね。  そうやって煙にまいて肝心なこと誤魔化すのやめろよな!  ったくガキ扱いなんだから! 言い捨てて  逃げんなよな!」


 「ごめん。 颯ちゃん普段ひえひえしてて爽やかなのに 怒ると火をふきそうで怖いんだもん」


 「何それ どこぞのメーカーのわりと人気のあるアイスを指したいつものネタに お次はゴジラか龍かドラゴンか。自分は ○○ワンアイスクリームと同じ歳だろ! もんって言うな!」


 「ふふふふふ」


 なにやら 後ろから冷気が来てる様な 痛いような身の危険を感じ、今までこの人から与えられた数々を思い出し、早々に自分の敗北を認めました。 年齢ネタは 地雷でした。




 この時俺は、気付いてしまった。

 今まで 目を背けてきた 普通ではないという事・・真実を知る日が来た事に。

 だから 夏休みの予定を勝手に決められていた事実をさほど驚く事無く受け入れた。

 山内弁護士の次男の龍二さんと10日間の恒例の登山とサイクリング。

 山内家の実家が経営するリゾートホテルでの2週間雑用バイト。

 俺中3だよとか、受験生だよとか もういいよ! 

 友人に学校の夏期講習は?余裕~とか言われたって寝る間を削って勉強するから。 バイト中に熟女に追いかけられたって、女性苦手病にかかりそうとか気にしてられない。


 唯唯 麗花さんが、言った言葉を思い出す。


 「颯、私は あなたを生んだわけではないけど 戸籍上は母親だし10年流花と一緒に母親をしてきた。

 だからお願い強くなって。

 そして流花を助けてあげて。

 すべて一人で抱えようとするから。

 私は、もう長くないから助けてあげられない。

 魂だけになっても そばにいたいと思うくらいあなたのことを 想っているから。

 流花がなにかから逃げていたらしい事、 怖い思いをした事、16歳であなたを産んだとき、どんな気持ちだったか、10歳の時にはわからなかったことでも13歳なら理解できることがあるはず。」


 中学に入った時、いつも朝倉家がお世話になってる山内弁護士がこっそり麗花さんさんからの手紙を渡してくれた。

 

 そこには 入学祝いの言葉とお祝いの品物は山内弁護士に預けてあると。

 そして 二人の出会いについて書いてあった。

 麗花さんの自宅のすぐ裏は林になってて よく散歩をしていたそうだ。

 そこで倒れていた流花さんを拾って そのただ事ではない様子に、養子にすることを決心したようだ。 

 麗花さんは、天涯孤独な上 病気であまり長生きできない身の上だった。

 とても裕福だった両親を大学生の時になくし 美しい女相続人として様々な人から追いかけ回され 人間不信になったので仕事に没頭し過ぎ、体を壊してしまったようだ。 


 そんな時 身元はわからない 日本語も話せない 判ったのは15歳という年齢だけ。その上衰弱してたので検査したら妊娠してる。

 何かに追われていたような怯えっぷりで、泣き続けていたらしい。

 妊娠している事を知って 少しずつ変わってきたその姿に麗花さんは、自分の方が生きる希望と勇気をもらったように思ったと したためられていた。


 この手紙は 中学生になって難しい年頃になった俺に対する母親としての気遣いだったんじゃないかと思う。 16の時の子だとか 父親も同じ年で子供の存在を知らないだとか 話したくない事情があるんだろうなって察することが出来た。

 そして麗花さんを想い泣き、流花さんがいつか話をしてくれるまで待つことに決めた。




 二学期の学生生活は 充実してたと思う。

 不思議と先の事を思って不安になるなんてことはなかった。

 いや バカらしくなったというか そんな暇がなかったというか 開き直ったという気持ちだった。

 体育祭で父兄席ではなく 俺のクラスの友人達と一緒に旗振ってる流花さんを見た時 そのはっちゃけぶりに 危うさを感じたりもしたのだが ソファーに寝っ転がって「ラノベって楽しいよねぇ」などとのたまいやがるお気楽な姿に 弾丸が飛び交うのか とか  らくだがいるとこか?とか 暗闇の中 川を渡るのか 予防接種いるのか 等等  忘れることにした。


 中学最後の文化祭や遠足は、 楽しかった。

 友人達に 「爆ぜろ」と言われた。

 何なんだ?


 ランニングは、二人で続けた。 麗花さんとの約束だからな。

 続けることが健康と自信と誇りに繋がるんだそうだ。 

 なんでもいいよ。 楽しいから。


 あっ あの俺専属目覚ましツバメさん 南の国に帰るその日まで毎日元気に働いてくれました。 

 なんだか寂しいよ。

 いつごろ返って来るのかなぁ。間に合うかな。


 流花さんと龍二さんに「ラーメン食いに行くぞー」って 飛行機乗って北海道に連行されたり、 

「正月はやっぱりスキーだよね」って また俺の冬期講習無視されたり、

 友人には 「受験する気あんのか なめてんのか このヤロー」って胸倉掴まれたけど俺の方がいつの間にか背が伸びてて持ち上がらなかったり・・・


 たくさんの 思い出が作れた。


 無事 合格通知を受け取り そろそろ 本格的に準備を始めないと思っていたある日・・・・



 ツバメを見た。



 


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