犠牲者による始まり
「みなさん、死についてしっかり考えたことはありますか?」
教授が虚ろな目をしながら生徒達に問いかける。
「死とは人生で一度きり。味わったら全て終わりです。そもそも、味わうなんてものではないかもしれませんね。おそらく、眠るものと大差ないでしょう。まあ、焼死だったり溺死だったり、苦しんで死ぬ、という場合もありますが」
教授の口から淡々と発せられるその言葉たちは何も感情が込められていないように聞こえる。教室が凍りついている。
「それなのに、今の若者は口々に『死にたい』だの、『生きてるの辛い』だの、くだらないことを口々にしちゃうから驚きますね。あなた達はどうですか?こんな山奥の大学に、夢や希望を持って来ていますか?死にたいと思ったことはありませんか?」
突然核心に迫るようなことを言われた。
(何が楽しくてこんなとこまで足を運ぶかよ)
ボソッと口する生徒。義孝も似たようなことを考えていた。希望なんてなかった。あるのは、苦痛だけだった。
「死にたいなんて思う人は、みんな死んでしまえばいいと思うんですよね。でも、なぜ生きているかわかりますか?中途半端なんですよ。本当の死に直面していない。アフリカの子供達を知っていますか?彼らはどんなに苦しくても、死にたいなんて言う子はいないですよ。いたとしても、数少ない。それは、なぜか。彼らは生きるのに必死なんですよ。もう、明日はないかもしれない。だから、今日を精一杯生きている」
ふあぁー…
「そうですか。私の話はそんなに、眠くなりますか。そうですね。こんな理屈はもうやめましょう」
欠伸をする生徒を見て、教授の目が変わる。表情は死んだままだ。
黒板に文字を書き足す。
『死』
「これは、文字通りゲームです。そして、死です。死の勉強は、体験するのが一番ですからね。これから、殺し合いのゲームをしてもらいます」
教室がざわつく。会話もしたこともない生徒だが、隣の人と顔を見合わせ何かボソボソと口にする。
「ノルマは一人。一人殺したものは合格です。そのまま、生きる権利を与えましょう。それ以外は死ぬだ「そんなの許されない!」
突然生徒の一人が立ち上がる。少しやせ細った、眼鏡をかけた勤勉そうな男学生だ。
「人の命をなんだと思ってるんだ!」
「……あなたは、なんだと思いますか?」
「お、、重くて、そんなに軽々しいものじゃない、と!」
「そうですか。私とは少し価値観が違いますね」
教授は淡々と続けていく。
「たしかに、軽いものではない。しかし、なくてもいい命もあると思いますが?」
「そ、そんな、の、横暴だ!」
ガタッと席を立ち、その学生は教室から出ようとする。
「授業を欠席するつもりですか?それは何を意味するか分かっていますか?」
「し、しし知るか、そんなこと!」
扉に手をかけ、開けようとしたその時、
パァァッン
キーンとくる短い音が耳を突き抜ける。その一瞬は驚き、目を瞑ってしまったが、開けた時驚愕の映像がそこにあった。
教授は銃を手に、出て行こうとした学生は後頭部から血を吹き出しながら倒れている。
「きゃーーーっ!!!」「うわぁあぁっ!」
「欠席とは、死と同等です。生き残って、出席を確保しましょう。単位をあげても、構いませんよ」
「それでは、始めましょう。今回の授業、死を」
生存者9人 死者 1人 出席者0人