十章
十章
事件が終わってから三日後、悠斗は美悠を見送るために駅のホームにいた。
玖藤兄妹の他には、久慈と、美悠の付き添いをするための隊員がいる。
美悠は地方にある、オグマ式の研究施設に患者として送られることになっていた。
事件のあと、美悠は一晩で目を覚ました。ASH化の兆候も見られなかったが、バレットプログラムとキャンセラーを打たれているので、さすがに経過観察は必要だった。
美悠を決して実験台にはしないと、斑鳩大佐から了承も得ている。悠斗は疑っていたが、何かあれば今回のことは七課に共有するぞと久慈が取引を持ちかけたそうだ。
「大佐にとっては彼女一人より、八課とオグマ式のほうが大事だよ。遺伝子データの提出は飲んでやったから文句もないはずだ。検査結果を見せるぐらいはいいだろう?」
悠斗は、それならと納得し、美悠を研究施設へ預けることにした。
そしてもうすぐ、美悠が乗るため電車が来る。玖藤兄妹は、見つめ合ったまま会話をすることはなかった。この空気に耐えられなくなったのか、護衛の隊員が口を開く。あの夜、セセリ達と戦った時の後処理をした隊員なので、大体の事情は知っている。
「あの……自分は少し、席を外しましょうか」
久慈は「そうだな」と頷き、自分も席を外すことにした。
「僕も外すが、警戒だけはしておく。勝手に動かないでくれよ」
二人が離れると、ようやく美悠が口を開いた。
「お兄ちゃん……お兄ちゃんは、怪我とかしてない?」
「大丈夫だよ。美悠も痛いところとか、ないか?」
「うん、大丈夫」
それで、話が途切れてしまう。事件後、玖藤兄妹が話すのは、これが初めてだった。
悠斗の脳裏には、美悠の声が染みついている。
(――バケモノ)
両親を殺したバケモノ――ASH――自分はもう、ASHなのだ。
これ以上、美悠とは関わらない。覚悟はしていたことだ。
悠斗は、そう決めていたが、美悠の考えは違ったようだった。
「お兄ちゃん! あの、バケモノって言って……ごめんなさい!」
車椅子に乗ったまま、美悠は深く頭を下げた。
「お、おい……どうした、急に」
「美悠は、全部聞きました! お兄ちゃんが美悠のためにASHになったって! それなのにお兄ちゃんのこと、バケモノって言って、ごめんなさい!」
「き、聞いたって……誰に?」
「昨日、久慈さんがきて、美悠にいろいろなことを教えてくれたの」
「久慈さんが? そっか……いいよ、気にしてない。俺がASHなのは本当なんだから」
「ASHでも――お兄ちゃんがASHでも――美悠、怖くないよ」
美悠は車椅子を動かして、悠斗にぎゅうっと抱き付いてきた。
「お兄ちゃん、ごめんなさい……ありがとう……美悠、お兄ちゃんのこと大好き……」
美悠は泣きながら、悠斗にしがみついてきた。しかし、悠斗は抱き返すことができない。
「俺さ――美悠のことを見殺しにするかもしれなかった――セセリさんに、美悠を助けたいならレジナを殺せって言われたけど、できなかった――だから――」
「知ってる。それも久慈さんから聞いた」
「そうか……俺は勝手に、美悠の命を賭けた。ごめん。謝ってすむことじゃないけど」
つらそうな表情をする悠斗のことを、美悠はさらに強い力で抱きしめた。
「お兄ちゃんは間違ってない。玖藤兄妹は、貧乏だけど誇り高くて、仲がいいんだから。命なんか、とっくの昔にお兄ちゃんに預けてあるんだから」
美悠は涙に濡れた顔をあげて、笑って見せた。それは、本当に綺麗な笑顔だった。
「美悠――ありがとう」
悠斗は、身を屈めて美悠を抱きしめた。
美悠が悠斗を抱き返す。小さな体で、めいっぱいの力で。
この可愛い妹が、どうか幸せになりますように。
自分が少しでも、妹のために生きられますように。
悠斗はただ、それだけを願った。
二人が抱擁をやめると、そこにはいつの間にか、久慈と護衛の隊員がいた。
「や、やだ! もう! デリカシーないなぁ……」
美悠が照れながら、目元の涙を指でぬぐう。久慈は「興味ないから気にするな」と言って笑ったが、護衛の隊員は美悠よりも激しく泣いていた。
「……悠斗さん! 美悠さんは、責任を持って私が送り届けます! 施設の人間が変なことをしないよう、強く言っておきますからっっ!」
悠斗は、がっちり両手を握られて熱弁された。
「あ、ありがとうございます。頼りにしてますね」
男がぶんぶんと首を縦に振る。これでまた少し、安心材料が増えた。
そして、なごやかに話をしているうちに、美悠の乗る電車がやってきた。
「それじゃあ、お兄ちゃん。行ってきます」
「ちゃんと、電話するんだぞ」
「うん。お兄ちゃんもしっかりね――美悠、絶対に帰ってくるから! 絶対だからね!」
「ああ、待ってる。ずっと待ってる」
電車のドアが開き、美悠達が電車に乗り込む。護衛が美悠の体をホームへと向けてくれた。
「お兄ちゃん――大変だと思うけど。あきらめたり、腐ったりしないでね! 美悠、いつでも応援してるからね! 美悠も頑張るから、お兄ちゃんも頑張ってね!」
言い終わった瞬間に、電車のドアが閉まる。悠斗はドアまで駆け寄り、何度も頷いた。
美悠はそれを見ると、満面の笑顔を浮かべて手を振った。
そして電車は走り去り、ホームには悠斗と久慈が残された。
「さて、次は玖藤の番だな――ああ、答えは今じゃなくていい。とりあえず、これを」
久慈はポケットから何かの鍵を取りだして、悠斗に渡した。
「これは?」
「おまえの学校の美術室の鍵だ。東儀セセリがよく居た場所なので調べていたのだが、玖藤が見ておいた方がいいものがあったので、そのままにしてある。今は誰も入れていない」
「それは……わざわざ、どうも。でも、美術室に一体何が?」
「自分で確認しろ。鍵は「ビハイブス」に持ってこい。身の振り方も、そのときでいい」
「わかりました」
「ああ。それじゃ、必ず来いよ――レジナも、おまえを待っている」
久慈は最後だけを早口で言うと、返事も聞かずに去っていった。
いつも仲が悪そうだが、なんだかんだでレジナことを気にしているのだろう。
(言われなくても必ず会いに行きますよ)
悠斗は久慈の背中を見ながら、心の中で語りかけた。
さて――悠斗はポケットに入れた鍵を確認する。
今日は日曜で、美術室には誰もいないはず。悠斗は学校の美術室へと向かうことにした。
そこにはきっと、何か大切なものがあるのだろうと、予感していた。
悠斗は美術室の前に立つと、久慈から受け取った鍵で、ドアを開けた。
室内はカーテンが閉められており、昼間だというのに薄暗い。
悠斗がカーテンを開けると、薄暗かった美術室に風と陽が流れ込んできて、舞い散る埃を照らす。その明るさと静けさが、日曜の学校という違和感を強くしていた。
美術室をぐるりと見回して、久慈の言っていた「悠斗が見るべきもの」を探す。
わかりやすく大きなものや、特に目立つ位置に置いてあるものはない。
見るべきとはなんだろうと悩んでいると、窓際に布が掛けられたキャンバスを見つけた。
悠斗は、これに見覚えがある――セセリが描いていた絵だ。
「それに、絵が完成したら見せてくれるって約束でしょう?」
「ええ――もちろん。絶対、見てくださいね」
確かに、セセリとそんな約束をしていた。
この絵は、もう完成しているのだろうか。見てもいいのだろうか。
しかし、その問いに答えてくれる作者は、もうどこにもいない。
悠斗は迷う気持ちを断ち切るように、絵にかかった布を一気に外した。
布が舞い、その下にあった絵が、窓から差す陽に照らされる。
そこには、明るい陽の下を楽しそうに笑顔で歩いている二人の男女がいた。
それが誰なのかは、言うまでもない――セセリと悠斗だった。
あの日、美術室でセセリの誘いを受けたときから、すべてがセセリの思うとおりになったとしても――いや、ずっと前から、決して叶うことの無い風景が、そこには描かれていた。
願いごとのすべてが――何もかもが手に入ることは、きっとないのだろう。
それでも、彼女の願いはそんなにも大それたことだったのだろうか。
すべてを引き替えにしても叶わないほどの願いだっただろうか。
誰の、何がいけなかったのだろう。誰が、何を恨めばいいのだろう。
悠斗はただ、その絵の前で膝を付き、涙を流し続けた。
窓からの陽射しが、悠斗と絵を照らし続けていた。
「あ、玖藤君」
美術室を出た後、榎本に会った。前に悠斗をカラオケに誘ってくれた同じクラスの子だ。
「榎本……これから部活?」
「うん。吹奏楽部なんだ。玖藤君はどうしたの? 文化部だっけ?」
「いや、ちょっと用事があって。もう終わったから帰るところ」
「そっか――ねえ、玖藤君」
「なに?」
「なんか――雰囲気、変わったよね」
「そう、かな」
「上手くいえないけど、すごく遠い感じがするよ……本当に一人になっちゃうよ?」
「――慣れてるから」
悠斗は笑顔を浮かべて別れを告げた。笑顔を浮かべたはずなのに、榎本は悲しそうな表情をしていた。
「よう、送ってくぜ」
「木島さん……パトカーじゃないんだ」
「学校前にパトカーでお迎えくるほどバカじゃねえよ。ほら、乗りな」
「気持ちの整理はついたか?」
「どうでしょう。もう少し時間が経てば落ち着くと思うんですが」
「……ガキが生意気言うんじゃねえよ。落ち着くまで、どうやって過ごすかが問題だ。一人でこもってるか、動き続けて気を紛らわせるのか……俺にはこの二つしか思い浮かばねえ」
「どっちが正しいと思いますか?」
「多分、どっちも外れだ。もっとましな答えがあるとは思うんだが……見つからなかった」
「わかったら教えますよ」
「だから、生意気なんだよ。お前はよ」
悠斗と木島は少し笑った。それ以上、会話はなかった。
「いらっしゃいませ。お待ちしておりました」
美形のバーテンが微笑む。他に客は一人。眼鏡をかけた、神経質そうな男だけ。
悠斗はその客に、預かっていた鍵を渡した。男は鍵を受け取ると、煙草に火をつけて、一つ大きく吸い込んでから話かけてきた。
「ちゃんと見たか?」
「ええ、見ました。ありがとうございます」
「そうか。なら、僕の言いたいことは終わりだ。あいつは地下にいる。会ってやれ」
「ええ、そのために来ましたから」
「――どうするか決まったら、伝えに来い。今日は、ここで飲んでいる」
「わかりました」
そのまま地下へ向かおうとする悠斗を、バーテンが呼び止めた。
「悠斗さん。男は殴れば目が覚めることもあります。女は殴っても駄目ですよ」
「――どうすればいい?」
「昔から、女を目覚めさせる方法は一つです」
バーテンは投げキッスをする。彼女には似合わぬふざけた仕草に、悠斗は苦笑した。
そして、地下へと続くドアを――彼女へと続くドアを開けて、地下へ降りていった。
「さて、どうなりますかね」
「何を格好つけているんだ。残って欲しいんだろう? 投げキッスまでしておいて」
「色っぽかったでしょう?」
「薄気味悪いだけだ、馬鹿が」
久慈はそう言ってグラスに残ったビールを飲み干すと、真面目な顔で語り始めた。
「なあ、リノス。この事件は本当に解決したと思うか?」
「――バレット、セセリ、ウェイの関係性ですか?」
リノスも真面目な表情に切り替え、久慈の問いに答えた。
「そうだ。セセリは独断でバレットを連れ出し、ウェイは自分の情報網で、嘉神町に現れたバレットと接触した――ということになっている。セセリが野放しにしたバレットを偶然、ウェイが拾った――信じられるか? セセリとウェイは繋がっていたんじゃないのか?」
「はっきりしないところですね。セセリとバレットは死に、ウェイはこれ以上、何も語らないでしょう。やはり、セセリとウェイのせいにするしか――」
「わかっているんだろう? やはり口に出来ないか?」
久慈が強い調子で言うが、背中を向けたリノスには、何の変化も見られない。
「私の主人は、レジナ様だけです。言いたいことがあるのなら、どうぞ遠慮なく」
「――ならば、話そう。東儀と繋がりがあり、セセリがバレットを連れ出せるよう手配ができてASH管理に対しての発言力を持つ人間。さらにウェイと面識があり、嘉神町でバレットを運用した結果を知りたがるような、オグマ式に取り憑かれた人間――こんな人物がいたら、繋がるだろう」
リノスは何も言わなかった――が、かすかにうつむいたのを久慈は見逃さなかった。
「ASHを必要とする人間の気持ちを利用した、実戦のデータ取り。誰も彼もが利用されたんだ。どのモルモットが死のうとかまわない――それが自分の娘だったとしてもだ」
「――飲みましょうか。私もいただきます」
リノスがビールの注がれたグラスを二つ、カウンターに置いた。
一つは久慈に差し出し、一つは自分で持つ。
「それで、課長はどうなさるおつもりか、教えていただけますか?」
「どうもしないさ。今はまだ、な」
「今は、ですか?」
「正義を叫んだら、黙って消されました――僕の趣味じゃない。だが、この先も勝手を続けるのならば、いつかは八課が悪の敵であることを教えてやる。今は力をたくわえるだけだ」
久慈の答えに、リノスは満足そうな顔をした。
「良い判断だと思います。当面はそれが一番です。私も協力しましょう」
「レジナの護衛、エリート兵士の「ホーネット」が、僕に協力すると? 斑鳩の元側近が?」
「その名は捨てました。私はホーネットではなくリノス。リノスが忠誠を誓うのはお嬢様だけです。父にも愛されない、美しく悲しい娘を、私は守ると決めたのです」
「悪趣味だが、理由は人それぞれか――さて、二人とも立ち上がれるかな」
「二人が脱落したら、課長と木島さんで頑張ってください。私はお嬢様と一緒ですから」
「そうしたら、俺と木島がASHになるしかあるまい」
「似合いませんよ――さて、何に乾杯しますか?」
「そうだな。玖藤が、上手く女を口説けることを願って」
「なら、私はお嬢様が親離れしてくれることを願って」
「それなら、僕と同じ内容でいい」
久慈はグラスをリノスへと差し出す。
「娘が父親から離れる理由は、大体において一つだ」
「子供が出来たとき、ですか?」
「馬鹿、もっと前の段階だよ」
二人は笑いながら、軽くグラスを合わせた。
「ビハイブス」地下一階、突き当たりにあるドアの前に、悠斗はいた。
ドアには、スプレーで「Regena」と殴り書きがしてある。
Regena――ラテン語で「女王」という意味を持つ言葉。
(能力と、偉そうなところは女王にピッタリかな)
悠斗がドアをノックすると、中から「入れ」と、だるそうな返事が聞こえた。
「入るよ」
一声かけてから、やたらと重たい金属製のドアを開け、部屋の中に入った。
「……来てくれたか」
室内にある家具は、椅子とベッドだけ。殺風景な部屋だった。小さなライトが一つだけついており、それがレジナの影を浮かび上がらせている。
レジナは大きく、古めかしい豪奢な椅子――玉座というには少し地味だが――に、深く腰掛けていた。着ているのは大きな白いシャツ一枚。
精気がなく、だらりと椅子に横たわるレジナは、それこそ彫刻のようだった。
レジナは自分の前にやって来た悠斗を、目だけ動かして見つめた。
「こんな格好ですまないな」
「いいよ、疲れてるんだろ?」
悠斗がそれきり黙っていると、しばらくしてレジナが口を開いた。
「悠斗はこれからどうするんだ? 先に言っておくが、もう血で縛るつもりはない。おまえがどこにいこうが、血のことなら心配しなくて――」
「俺は八課にいるよ。ASHとして、ASH犯罪と戦う。さっき、そう決めた」
「どうして、そう決めたのか――教えてくれるか?」
「次は――次はセセリさんを、救えるかもしれないから」
悠斗はセセリの描いた絵を思い浮かべる。自分が彼女の想いを受け入れていれば良かったのだろうか。それとも、彼女がASHとなったときから、悲劇は決まっていたのだろうか。
ASHの力があっても、どうにもならないことが、たくさんあるのだろう。
それでも、それでもあがき続ければ、誰か一人ぐらいは救えるかもしれない。
セセリは、もういないけれど。次の誰かを救えるかもしれない。
悠斗の決意を聞くと、レジナは眩しそうに目を細めた。
「悠斗――暗闇は深すぎるよ」
「暗闇?」
「私達は正義もなく悪と戦い続ける――戦った結果、セセリは死に、ウェイは生きている。そして、私は――私は父に愛されていなかった――正義がなくても、父のためなら戦うこともできたのに――何の救いもないよ――暗闇の世界だ」
レジナは人に、世界に、そこから逃げられない自分に絶望し、それを暗闇と呼んだ。
だが、悠斗は「大丈夫だよ」と、レジナに笑いかけた。
「何もかもが上手くいかないことは知っている、思い知らされた。だからこそ、一つぐらいは上手くいくように必死で戦うんだよ。俺はASHで、立派に戦えるんだからさ」
それを聞くと、レジナは金色の瞳から、ポロポロと涙をこぼし始めた。
「悠斗は――悠斗は強いな。私は駄目だ――もう、立てないよ」
レジナは涙を隠すこともなく、弱音をこぼしはじめた。
「お父様の愛も――お父様への愛も――全部、嘘だったんだ――すべてが、嘘だったんだ」
レジナはそれこそ親に捨てられた子供のように泣き続けた。
「ああ、駄目だ――涙が止まらない――こんな気持ちになったのは初めてだ――暗くて、寒くてどうしようもない――これが恐怖か? 不安なのか? 私はずっと、このままなのか?」
「レジナ」
「私はずっと、独りだったんだ。最初から、そしてこれからも――」
「レジナ――」
悠斗はレジナの手を掴んだ。
「何を――んっ――」
そのまま、座っているのレジナに顔を引き寄せて――キスをした。
レジナは驚いて抵抗したが、それも少しのこと。悠斗が力の抜けたレジナの手を放すと、レジナはその手で、甘えるように悠斗の頭を抱きかかえ、自らの唇に押しつけた。
それから、どれくらいの時間が経ったか。
悠斗がレジナから離れたときには、彼女の涙は止まっていた。
「悠斗……どうして……」
レジナの目が潤んでいる。それは悲しみのせいではなかった。
「レジナは一人じゃないって、伝えたかったから」
悠斗が照れ笑いを浮かべる。ガラにもないと、自分でもわかっていた。
だが、レジナはそんな様子を気にすることもなく、じっと悠斗の目を見つめていた。
「――私と一緒に、いてくれるのか?」
「一緒にいる。レジナは一人じゃない。一人にしない。約束だ」
悠斗はレジナの目を見つめて、しっかりと言った。
レジナは嬉しそうな表情をしたが、すぐに悠斗から目を逸らした。
「駄目だ――悠斗が一緒でも、八課がやることは変わらない。正義を踏みにじり、悪党と取り引きをして、誰にも愛されることなく戦い続ける――そんなことを続けていたら、どんなに強く綺麗な心でもすり減って、いずれ本当に暗闇へと落ちてしまう」
レジナを助けようとした悠斗が、一緒に暗闇の世界へと落ちてしまったら――。
「悠斗はまだ、陽の下にいられる――明るい世界へ帰れる。こっちへは、来るな」
どうせ落ちるのならば、たった一人で落ちればいい。悠斗はまだ、戻れるのだから。
だが、悠斗は首を横に振った。
「もう、駄目だよ。戻るには、いろいろなことを見すぎた。知りすぎた」
ASHとなり、八課に入り――何から語ればいいかわからないけど。もう、それらを無視して生きることはできない。知らないふりはできない。
だけど、それが絶望だと決まったわけじゃない。悠斗は笑顔で、再びレジナの手をとった。
「俺はレジナと一緒にいたいんだ。二人でいれば、陽の下には戻れなくても、暗闇に呑まれることもないと思う。昼でも夜でもない――宵闇ぐらいは歩けるさ」
悠斗の手を握りかえしていいのか、突き返すべきなのか。レジナにはわからない。
「悠斗……本当に、いいのか? 私は……私は悠斗のことを離さないぞ?」
「俺もだ。絶対に離さない」
「もう――駄目だぞ。引き返すなら、今だぞ」
「こっちのセリフだよ。俺だって一人は怖いんだ――離さないでくれよ」
悠斗はレジナを強く抱きしめた。
レジナもそれに応えるように、悠斗を抱きしめ返した。
俺達は、いつまで、この宵闇を歩いていけるだろう
宵闇のあとには、必ず夜の闇がくる
ならばそのときが、少しでも遠くなりますようにと
沈みかけの太陽と、昇りかけの月に向かって、強く願った
(了)
まずは最後まで読んでいただきありがとうございます。
「宵闇のレジナ」は以前、応募したものに追記、修正を加えたものです。
元々、小説とライトノベルの間になるような作品を書きたいと思ってはじめました。ライトノベルの公募に出したのでライトノベル寄りかなと自分では思っているのですが、自分で思ってるだけで多分違うような気がします。
こういったサイトに投稿すること自体が初めてなので、何か不備があれば申し訳ありません。あと、縦書きのものを横にしたので美しくないかもしれません。
色々とごめんなさいばかりなのですが、とにかく最後まで読んでいただけたなら何よりです。楽しんでいただけたならこれに勝ることはありません。感想までいただけたら更に更にです。
後書きまでお付き合いいただきありがとうございました。




