さくら
優しくて、温かい。
春の始まりを感じられるようになった、そんなある日。
光射すひだまりの窓越しで、君はこう言ったね。
「私、すっごく幸せだ。」
その心地良い声は、あれから何十年過ぎた今でも、僕の心を揺すり続ける。
別れと出逢いを繰り返していく、そんな忙しない時間の中。
満開を超えた桜の花びらたちは、僕をさらに焦らせた。
早く進め、
速く走っていけ、
飛んでゆけ、と…。
あの日のままの姿の君は、僕に言うんだ。
「春は素敵ね。今年も、素敵な出逢い、あるといいね。」
まるで、入学式へ行く子供に母親が笑いかけるように。
ねぇ、今も君は見てくれていますか?
僕のことを。
今年も、あの季節がやってきました。
春の花束を持って、君に会いにきました。
素敵な、春です。
「僕、幸せだよ。」
あの日溜まりの中で見た笑顔。
今でも忘れた事はありません。
そして…
やっと、僕も僕なりの幸せを見つけました。
ねぇ、やっと…
あの日の別れが出逢いになりました…。
ありがとう。
この桜を、君もどこかでいてくれていますか?
綺麗です。
…素敵な、春です。
。