第5話 構造体
それは、
眠っているように見えた。
関ヶ原地下最深部。
壁の向こうに隠されていた空間は、
体育館ほどの広さがあり、
中央に巨大な金属構造体が鎮座していた。
形状は、
球体に近い。
だが、完全な球ではない。
無数の“歪み”が重なり、
まるで地球そのものを真似た失敗作のようだった。
「……金属じゃない」
最初に口を開いたのは、
村雨玄蔵だった。
彼はゆっくりと近づき、
構造体の表面に手を当てる。
「鉄でも、鋼でもない。
でも……金属の“振る舞い”はしている」
「複合素材か?」
柴崎が問う。
「いや……
素材という概念が、古い」
その言葉に、
場の空気が変わる。
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神谷圭吾は、
壁際に設置された古い計測機器に気づいた。
「……これ、
地殻応力計だ」
「戦後のもの?」
直哉が聞く。
「違う。
戦後に“再利用”された」
神谷は、
一つの数値を指差した。
「この装置、
地震を測るためじゃない」
全員が、
彼を見る。
「地球が“引かれる方向”を測ってる」
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玲奈のタブレットに、
次々とデータが流れ込む。
「……一致してる」
彼女の声が、
わずかに震えた。
「小惑星KA-47の軌道変動と、
この地下構造体の反応周期」
「どれくらい一致してる?」
三枝が尋ねる。
玲奈は、
一瞬ためらってから答えた。
「ほぼ、完全に」
沈黙。
誰かが、
無意識に一歩後ずさる。
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「つまり……」
柴崎が、
低く言う。
「この地下の“何か”が、
あの小惑星を
引き寄せてる」
「逆だ」
神谷が否定した。
「呼応している」
村雨が、
構造体を見つめながら言う。
「……同じ“型”だ」
「型?」
「作られ方が、同じだ」
その瞬間――
構造体の表面を、
淡い光が走った。
全員が、
息を止める。
振動。
いや、共鳴。
まるで、
遠く離れた何かと
“会話”しているようだった。
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三枝美波は、
静かに一歩前へ出た。
「これ、
誰が作ったの?」
答えは、
誰にも分からない。
だが、
直哉が、ぽつりと呟いた。
「昔……
この辺りの年寄りが言ってました」
全員が、
彼を見る。
「**“関ヶ原は、落ちた石を埋めた場所だ”**って」
玲奈の指が、
止まる。
「……落ちた、石?」
「戦より前から、
ずっと昔から」
直哉は、
構造体から目を離さず続けた。
「この土地は、
空から来たものを
返さないって」
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その瞬間。
玲奈のタブレットが、
甲高い警告音を鳴らした。
「軌道変動、加速してる!」
神谷が叫ぶ。
「共鳴が強まった!
このままだと――」
真田の声が、
通信機越しに割り込む。
『……見つけたんですね』
全員が、
通信機を見る。
『それが、
Project SEKIGAHARAの
本体です』
三枝が、
即座に問い詰める。
「最初から知ってたわね」
一瞬の沈黙。
『……完全には』
真田は、
そう前置きしてから続けた。
『だが一つだけ、
確かなことがある』
スクリーンに、
新たな映像が映る。
小惑星KA-47の内部。
そこに、
地下構造体と酷似したコアが存在していた。
『あれは、
“自然物”ではありません』
世界は、
偶然で終わらない。
関ヶ原地下の構造体と、
宇宙から来る小惑星。
それは、
同じシステムの一部だった。
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そして6人は、
ようやく理解し始める。
彼らの役目は、
小惑星をズラすことではない。
“再接続”を、断つことなのだと。




