第3話 合流
東京湾岸にある、
地図に載らない施設。
正式名称は存在しない。
ただ関係者の間では、
**「第七会議室」**と呼ばれていた。
窓のない廊下を進み、
重厚な扉の前に、6人は集められた。
互いに名乗ることはない。
だが、全員が同じ匂いを感じていた。
――普通ではない場所。
――普通ではない仕事。
最初に口を開いたのは、
白衣姿の男だった。
「時間がありません」
JAXAプロジェクト責任者、
真田と名乗ったその男は、
背後のスクリーンを起動する。
映し出されたのは、
地球へ向かってくる一つの光点。
「小惑星コードネーム、KA-47。
衝突予定地点――岐阜県関ヶ原町」
6人の視線が、一斉にスクリーンへ集まる。
「破壊は不可能です。
必要なのは“軌道の変更”。
ズラす距離は、わずか1ミリ」
鷹宮玲奈が、即座に口を挟んだ。
「1ミリでも、
失敗すれば誤差は指数関数的に拡大する。
つまり――賭けです」
「その通りです」
真田は否定しなかった。
⸻
神谷圭吾が、
静かに手を挙げる。
「……質問があります。
なぜ、地上の人間を?」
「宇宙での作業は、
時間も予算も足りない。
それに――」
真田は一瞬、言葉を選んだ。
「この小惑星は、
**“地球と相互作用している”**可能性があります」
空気が、重くなる。
「重力だけじゃない。
地磁気、地殻、金属構造……
複数の要因が、軌道に影響している」
村雨玄蔵が、低く唸った。
「……つまり、
石じゃない、ということか」
「ええ」
⸻
柴崎剛志が、
腕を組んだまま言う。
「で、俺は何を壊す?」
真田は、
一枚の図を映し出した。
それは、
小惑星KA-47の内部構造予測図。
「“壊さずに、ズラす”ための
内部衝撃制御です」
柴崎は、
わずかに口角を上げた。
「……面白い」
⸻
三枝美波は、
6人の顔を順に見渡してから、
真田に視線を戻す。
「このメンバー、
技術的には理解できる。
でも――」
彼女は言葉を切った。
「誰かが、嘘をついてる」
室内の空気が、張りつめる。
真田は、
その視線を真正面から受け止めた。
「ええ。
世界中が、嘘を必要としている」
⸻
最後まで黙っていた関口直哉が、
ゆっくりと口を開いた。
「関ヶ原の地下には、
地図に載らない空洞があります」
全員が、彼を見る。
「戦後に埋められた坑道。
でも、完全には塞がれてない」
真田は、
初めて表情を変えた。
「……やはり、あなたでしたか」
スクリーンが切り替わる。
そこに映ったのは、
関ヶ原地下の三次元構造図。
そして、
小惑星の軌道修正予測線。
二つは、
一点で交わっていた。
「ここが、
Project SEKIGAHARAの起点です」
沈黙の中、
誰かが、息を呑む音がした。
世界を救う計画は、
あまりにも――地味だった。
だが、
失敗すれば、すべてが終わる。
6人は、
まだ気づいていない。
この計画の最大の敵が、
時間ではなく、人間そのものであることを。




