第1話 発見
関ヶ原の朝は、いつも霧から始まる。
山と山の間に白い膜のように漂う霧は、
まるでこの土地が、いまだ何かを隠そうとしているかのようだった。
その日、アメリカ・カリフォルニア州にある
NASAジェット推進研究所(JPL)では、
一つの数値が、静かに異常を示していた。
「……ありえない」
若い研究員の声が、夜明け前の管制室に落ちる。
大型スクリーンに映し出されているのは、
太陽系外縁から接近してくる一つの天体。
直径およそ12キロ。
反射率、軌道角、質量――
すべてが、**“あの小惑星”**と酷似していた。
恐竜を滅ぼしたとされる、
6600万年前の衝突天体。
「同系列天体……?」
誰かが呟いた瞬間、
別の研究員が、声を失ったままスクリーンを指差す。
衝突予測地点。
日本列島。
本州中央部。
拡大表示された地図に、赤い円が浮かび上がる。
――関ヶ原。
「冗談だろ……」
だが、シミュレーションは何度やり直しても同じ結果を示した。
誤差は、わずか数十メートル。
時間は、約14か月後。
その日のうちに、
NASAとJAXAの間で、暗号化された回線が開かれた。
会議の結論は早かった。
――公表すれば、世界は終わる。
――避難は不可能。
――迎撃も、現行技術では間に合わない。
必要なのは、破壊ではなく、ズラし。
ほんの、1ミリ。
軌道を変えられれば、地球は助かる。
だがその方法は、
宇宙工学の教科書には、どこにも載っていなかった。
「……地上から、動かすしかない」
JAXA側の責任者が、静かに言った。
その言葉を合図に、
極秘プロジェクトが動き出す。
Project SEKIGAHARA
そしてその頃――
関ヶ原町の外れで、小さな土木会社を営む男、
関口直哉は、
工事現場で妙な振動を感じていた。
「……またか」
地震計には出ない。
だが、地面の“鳴り”が違う。
彼は長年の経験で、それを知っていた。
関ヶ原の地下には、
まだ誰も把握していない「空白」がある。
直哉は、霧の向こうに広がる山々を見つめながら、
なぜか胸騒ぎを覚えていた。
まるで――
空の向こうから、
何かが近づいてきているような。
その日、彼の携帯電話が鳴る。
表示されたのは、
見たこともない国際番号だった。
――歴史が、再び動き出す音だった。




