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第71話 ― まだ終わらない道

第71話 ― まだ終わらない道


アラヤは、

少年を背負ったまま戦場を離れていた。


足元では砕けた石や瓦礫が踏みしめられ、

遠くでは、まだ金属がぶつかり合う音と

消えゆく悲鳴が、かすかに続いていた。


少年の息は浅い。

背中越しに伝わる体温さえ、不安定だった。


その時――


ごく小さな声が、

アラヤの耳に届いた。


「……心配かけて……ごめん、アラヤ……」


その言葉に、

アラヤの足取りが一瞬揺らいだ。


涙が、

止まらずに頬を伝う。


それでも彼女は――

笑った。


「……ありがとう」

「私こそ……」


声は震えていたが、

はっきりと言った。


「助けてくれて……」


アラヤは歯を食いしばり、

再び速度を上げた。


衰えた敵の残党が

ときおり道を塞いだが、

すでに戦列は崩壊していた。


反撃は飛んできた。

脅威もあった。

だが――


抗う術はなかった。


そして――


前方から、

黒い影がひとつ飛び出してきた。


アラヤは反射的に身を捻った。


だが――

次の瞬間。


その敵は、

彼女の目の前で倒れ伏した。


鈍い音。


そして――

聞き慣れた笑い声。


「……無事だったか」


炎の中から、

大柄な男が歩み出てきた。


黄金の獅子の紋章が、

淡く光っている。


ロイドだった。


彼は倒れた敵を一瞥すると、

アラヤの背にいる少年へ視線を向けた。


「無事だったか……お前たち……」

「ははははは……」


「……少年」

「詳しい話は後だ」


ロイドは一歩近づき、言った。


「今はまず、安全な場所へ行こう」


そうして慎重に、

少年を抱き取った。


その動きは――

異例なほど慎重だった。


――それも当然だ。


ロイドは、

この目で見ていた。


都市の流れが変わる瞬間を。

戦場が、たった一度の合図で動いた光景を。


もはや『小僧』という言葉では

説明できない何かを。


アラヤは

無言で頷き、

その後を追った。


その間にも、

霧の中に残っていた敵は

一体、また一体と消えていった。


しばらく進んだ後――


少年の身体が、

わずかに動いた。


呼吸が少し安定し、

瞼が震えた。


「……」


少年は、

かすかに目を開いた。


霞む視界の中に、

黄金色が映る。


「……ロイド……さん……」


声は、

まだ震えていた。


ロイドは

すぐに身を屈めた。


「目を覚ましたか?」


少年は、

一度息を整えてから

小さく言った。


「……まだ……終わっていません……」


その言葉に、

アラヤとロイドの表情が同時に固まった。


少年は、

必死に言葉を継いだ。


「……特定の……場所へ……」

「……そこへ……連れていってください……」


ロイドは、

アラヤと視線を交わした。


戸惑いはあった。

だが――


この少年は、

これまで一度も間違えたことがなかった。


「……分かった」


ロイドは

短く答えた。


アラヤもまた、

頷いた。


「案内して」

「どこでも」


ロイドは

進路を変えた。


少年が示した道は――


アスティラの中心へと、

向かっていた。

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