第69話 すべての視線が届く場所
第69話 すべての視線が届く場所
少年は、
ラインへと歩みながら、
何ひとつ言葉を残さぬまま、姿を消した。
そして次の瞬間――
彼は、再び地上に立っていた。
まるで最初から、
そこに存在していたかのように。
少年は、ゆっくりと顔を上げ、
周囲を見渡した。
計画は――
意図した通りに進んでいた。
派遣された兵士たちは、
正確に指定されたラインの外側で待機しており、
一人として境界を越えていない。
秩序は、完全に保たれていた。
都市の避難も、
すでに完全に終了している。
そのすべての光景を、
少年は言葉なく受け止めた。
遠くから――
彼を見つめる視線を感じた。
リセイラだった。
言葉はなかったが、
彼女の身体はわずかに震えていた。
マントで顔を覆い隠し、
表情を見せまいとしているようだった。
その反対側には、
夫人と伯爵がいた。
ロイド、
そして名を明かしていない協力者たちもまた、
少年を見つめていた。
誰一人として、
近づこうとはしなかった。
誰一人として、
問いを発しなかった。
すべての者が、
ただ――「見て」いた。
しばらくして――
霧の奥で、
何かが動き始めた。
黒い霧が裂け、
正体不明の敵たちが、
一体、また一体と姿を現す。
その数は、
予想していたよりも、はるかに少なかった。
おそらく――
先ほどの闇の空間から、
ポータルによる脱出に失敗した残党。
彼らは、
すでに著しく弱体化していた。
少年は、
彼ら全員が姿を現すまで、
一切動かなかった。
焦らなかった。
急ぎもしなかった。
すべては、
予定された順序の中にあった。
やがて――
少年は静かに、
最も高い場所へと登った。
そこから、
戦場全体を見下ろす。
都市。
軍勢。
立ちのぼる煙。
漂う霧。
そして――
自分を見つめる、
無数の視線。
都市の市民たちも、
すべてが彼に注目していた。
派遣された他都市の兵、
中央王国の軍、
帝国の兵力、
さらには――
その向こう側からの視線までも。
その光景は、
あまりにも、荘厳だった。
だが少年は、
その中心に立ちながらも、
何の表情も浮かべなかった。
そして――
彼は時を待ちながら、
派遣軍へと送る
合図の準備を整えた。
いま――
最後の整理が、
始まろうとしていた。




