第67話 ― 暴走する炎柱
第67話 ― 暴走する炎柱
「チッ……遅かったか。」
「お前たち、できるだけ生き残れ。」
その直後——
少年が指を鳴らすと、
闇の空間、その“空”が変わった。
何もなかった虚空に、
正体不明の紋様が、ひとつ、またひとつと浮かび上がり始める。
円形でも、角形でもない。
理解不能な構造を持つ紋様。
幾重にも重なり、
互いを侵食するように絡み合い、
空間そのものに刻み込まれていくかのような——
圧倒的な神秘の配列。
同時に。
都市全域に設置されていた鉱石が、
まるで示し合わせたかのように、
極限の輝きを放った。
その光は、単なる発光ではなかった。
脈動するように、
都市と空間を貫いて鼓動していた。
その瞬間——
天から、降り注いだ。
圧倒的な炎柱。
炎と呼ぶにはあまりにも不適切な、
空間そのものを押し潰す災厄の落下。
ドガァァァン——!!
闇の空間全体が歪んだ。
空気は裂け、
地面は割れ、
存在そのものが分解され始める。
「なんだこれは!!!!!」
「なぜ都市各所に落ちるはずのものが、ここに落ちてくる!!!!!」
「しかも……威力が違う……!」
大軍が悲鳴を上げた。
だが、逃げ場はなかった。
炎柱は、一度きりでは終わらない。
ドン——
ドン——
ドン——!!
まるで判決を執行するかのように、
完全に消滅するまで、
炎柱は何度も何度も叩き落とされた。
無数の兵が、
形すら残さぬまま、
そのまま消え去っていく。
だが——
すべてが消えたわけではなかった。
指揮官級の存在。
次元の違う強者たち。
そして、なお残った強力な残党……。
彼らは炎柱の中で、
血を吐きながら耐え抜いていた。
四肢が焼け落ち、
身体の各所が崩壊してもなお、
倒れぬまま——
一方向を、睨み続けていた。
ラインの前。
そこに立つ、
小さなシルエット。
「忌々しいガキめ……」
「何者だ……。」
マントに覆われ、
顔すらはっきりとは見えない存在。
炎柱の中にあっても、
その姿はかすむことがなかった。
「チッ……新たなポータルを開く。」
「急ぎだ——制限付きだが、仕方あるまい。」
「“あのお方たち”も……理解してくださるだろう。」
空間が再び歪み始めた。
不安定なポータルの前兆。
その様子を見て、
少年は息を呑んだ。
『……強い。』
これほどの炎でも、
彼らを完全に消し去ることはできない。
だが——
確かに、
弱体化はさせた。
計画は、失敗ではなかった。
指揮官の一人が、
血まみれの顔で呟いた。
「忌々しいガキ……」
「こんな屈辱を味わうとは。」
その眼差しが、揺れた。
怒りは次第に薄れ、
代わりにそこに宿ったのは——
好奇心。
疑問。
そして、神秘。
「……一体、何者だ。」
時間が経つにつれ、
怒りよりも、
正体の知れぬ興味の方が、
大きく膨れ上がっていった。
闇の空間は、なおも歪み続けていた。
炎柱の痕跡が、
空間全体を引き裂いたまま、
消えずに残っている。
そして——
その中心で。
少年のマントが、
嵐の中で激しくはためいていた。




