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第63話 ― 本隊の影

第63話 ― 本隊の影



「本隊です。」


少年の声は低く、断定的だった。

そこに迷いも、誇張もなかった。


「ゆっくりと——後退してください。」


その言葉を聞いた瞬間、

リセイラは本能的に頷いていた。


不思議なほど、

今この瞬間に限っては、

彼の判断を疑う理由が一つもなかった。


彼女は一歩、

そしてもう一歩と後ろへ下がる。

剣は手放さず、

視線は闇の奥深くに向けたまま。


その時——


ふらり。


脚に力が入らなくなった。

慌てて姿勢を低くし、

辛うじてバランスを保つ。


その瞬間、

はっきりと感じ取れた。


これまでとは、

まったく異なる種類の圧迫感。


強さの問題ではない。

“存在の仕方”そのものが違っていた。


「……これは。」


リセイラは息を呑んだ。


まるで空間の向こう側で、

何かが扉を開けて

入って来ようとしているような感覚。


「まさか……」

彼女の声が低くなる。

「今まで戦ってきた連中が——

全部、前衛だったってこと?」


少年は頷いた。


「はい。」


短く、揺るぎない返答。


「これからが——本隊です。」


闇が揺らいだ。


空間の境界が震え、

形なき圧力が次第に

はっきりとした輪郭を帯び始める。


リセイラの背筋が、ぞくりと冷えた。


これほどの気配が——

もし直接、王国に降り注いでいたら……。


彼女は思わず呟いた。


「王国一つじゃ、済まなかったわね。」

「……いや、帝国すら危なかったかもしれない。」


少年は視線を逸らさぬまま、

静かに言葉を継いだ。


「おそらく、それ以上です。」

「それが——彼らの本来の計画でしたから。」


リセイラは、息を詰まらせた。


「都市を焦土にし、」

少年は続ける。

「その上に兵力を召喚し、

北を突破して中央王国へ侵攻する。」


「炎の柱は——

本来、大軍到来の前段階で用いられる兵器です。」


リセイラは目を見開いた。


「まさか……。」


少年の眼差しが、冷たく光った。


「今は——

それを逆に使います。」


彼は、ゆっくりと言った。

まるで、すでに解き終えた式を

なぞり直すかのように。


「彼らが用意した構造、

彼らが積み上げた術式、

彼らが開いていた通路。」


「すべて——

私が設置した装置で、増幅します。」


リセイラは言葉を失った。


「本来の——数十倍。」

少年が付け加える。

「比較にならないほど、強化されるでしょう。」


「その炎の柱は——

この空間へ、直接叩き込まれます。」


しばしの沈黙。


やがてリセイラは、乾いた笑みを漏らした。


「……正気じゃないわね。」

「敵の大災厄兵器を——

敵の本隊の上に落とすなんて。」


彼女は首を振った。


「まだ本当の姿すら見せてないのに——

この圧迫感だなんて。」


少年は答えなかった。

代わりに、足元を指し示す。


「ラインです。」


二人はいつの間にか、

あらかじめ定めていた境界線の近くに到達していた。


闇の向こう側では、

すでに確かに“何か”が入り込んで来ている。


無数の存在の気配。

重なり合い、折り重なり、

互いを押しのけながら。


少年は低く呟いた。


「もう少し。」

「完全に——入らせる必要があります。」


リセイラは剣を、強く握り直した。


「……分かった。」


少年は頷いた。


そして——


闇の中から、

本隊の“最初の形”が、

ついに姿を現し始めた。

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