第58話 ― 終わりの見えない戦場
第58話 ― 終わりの見えない戦場
「……確かに、感じる。」
リセイラは剣を握る手に力を込め、低く呟いた。
「敵が増えている。
それに——強くなってきてる。」
だがその声に、
恐怖も、躊躇もなかった。
むしろ——
かすかに、愉悦が混じっていた。
「はは……
面白いじゃない。」
彼女は一歩、踏み出した。
その瞬間、地面が破裂するように裂けた。
剣が動く。
ただの一閃——
しかし、その軌跡は空間そのものを引き裂いた。
無数の敵が同時に断ち割られた。
剣閃が通り過ぎた後、
闇は一瞬、悲鳴を上げるかのように揺らいだ。
少年はその光景を見つめ、
思わず息を呑んだ。
同年代……
少なくとも、そう見える年齢。
だが——
これは単なる「強さ」ではない。
動きに無駄はなく、
判断に迷いはなく、
剣はまるで彼女の意思そのもののように応えていた。
「……このレベルとは。」
少年の視線は、
無意識のうちに彼女を追っていた。
これは生まれ持った才能だけの領域じゃない。
数千、数万の実戦。
死と引き換えに積み上げてきた感覚だ。
リセイラは、なおも押し続けた。
闇が押し寄せれば斬り、
上から降り注げば身を捻って流し、
四方から包囲されれば——
舞うように避け、反撃する。
剣がぶつかるたび、
金属音と共に火花が散った。
空気が揺らぎ、
重力が歪み、
戦場はもはや「場所」と呼べる状態ではなかった。
だが——
次第に。
彼女の眼差しに、
かすかな苛立ちがよぎった。
「……面倒だな。」
リセイラは一歩、退いた。
少年を振り返り、言う。
「耳、塞いで。」
「え?」
「これからは——
ちょっと、うるさくなる。」
少年は即座に両手で耳を塞いだ。
リセイラは剣を両手で握り直した。
息を吸う。
そして——
吐き出す息と共に、剣を掲げた。
瞬間、
空間が沈黙した。
すべての音が吸い込まれるように消え、
闇でさえ息を潜めた。
リセイラの剣が、
ゆっくりと——
だが、絶対的に振り下ろされる。
クァアアアア——!!
巨大な剣撃が
世界を引き裂くように爆発した。
光と熱が同時に炸裂し、
闇の軍勢は一瞬で炎に呑み込まれた。
敵は悲鳴を上げる間もなく、
燃え尽きて消え去った。
空間全体が震動した。
少年は歯を食いしばる。
これは……
単なる広域攻撃じゃない。
だが——
炎が収まるより早く、
闇は再び集まり始めた。
さらに多く。
さらに密集し。
さらに「洗練された」形で。
「……キリがないな。」
リセイラは舌打ちした。
その瞬間——
ヒュッ。
見えない何かが、
空気を裂いて飛来した。
少年の目が見開かれる。
「危な——!」
だがリセイラは、すでに首を傾けていた。
攻撃は彼女の頬を、
ほんのわずかに掠めた。
血が一筋、流れる。
「……大丈夫。」
彼女は手の甲で血を拭いながら言った。
だが、表情は変わった。
先ほどまでの余裕は消え、
代わりに鋭い集中が宿っていた。
「ここからが、本番だね。」
リセイラは低く笑う。
「新しい、強い連中だ。」
その言葉と同時に——
四方から攻撃が降り注いだ。
槍、剣、爪、
気配すら感じさせない波動まで。
リセイラは身を低くしてかわす。
剣が虚空を切り裂き、反撃する。
斬り、流し、突き、砕く。
一瞬のミスも許されない戦い。
彼女は限りなく完璧に近い動きで、
それらすべてを捌き切った。
少年は息を殺し、
その戦いを見つめていた。
凄い……
本当に、凄い。
だが同時に——
少年の眼差しは、さらに深くなる。
それでも……
このままじゃ、長くはもたない。
敵は増え続けていた。
質も、量も。
少年の視線が、
闇の向こうを貫いた。
……もう少し。
もう少し、引き込めば。
戦場はすでに、
決定的な瞬間へと
ゆっくり、しかし確実に傾き始めていた。
そしてその中心で——
リセイラは剣を握ったまま、笑っていた。
「いいね。」
血と闇の中、
彼女の声が響く。
「じゃあ……
少し本気で行こうか?」
どうやら、
戦いの準備運動は終わったようだった。




