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第53話

第53話



リセイラは、いたずらな微笑を浮かべながら言った。


「私が手を貸す代わりに、君にも一つお願いを聞いてもらうよ。」


少年は半ば笑いながら応じた。


「……僕が頼まなくても助けてくれるんでしょう?」


「まぁ、それはそうだけどね。」

リセイラは肩をすくめ、くすりと笑った。

「でもさ、何事も“報酬”ってもんがあるから力が湧くんだよ?」


少年は小さくため息をついた。


「……それで、その報酬というのは何ですか?」


するとリセイラは手を後ろで組み、小さな紙片を差し出した。

その口元には、相変わらずの悪戯っぽい微笑が広がっていた。


「中央王国へ遊びにおいで。アラヤも一緒にね。」

「住所はここ。」


少年は紙を受け取り、視線を落とした。


『リエラスト公爵領』


少年の目がわずかに見開かれた。

知らない名ではなかった。

確かに、どこかで耳にしたことがある名。


少年は慎重に口を開いた。


「……念のためですが。」


「ん?」


「中央王国をほぼ掌握しているという

『リエラスト公爵』の令嬢……とか、そういうことではないですよね?」


リセイラは一瞬固まり、表情が凍った。


「……。」


そしてゆっくりと視線をそらし、もごもごと誤魔化し始めた。


「さぁ……どうだろうね……

と、とにかく来ればいいって話でしょ? うん?

公爵領の中にも小さな町がいっぱいあってさ、うん、いっぱい。あはは……」


少年は、動揺する彼女の姿に小さく笑った。

こんなリセイラは初めてだった。


「……分かりました。伺います。」


その言葉が終わるより早く、

リセイラの顔はぱっと明るく輝き、大きく頷いた。


「本当!? 約束だよ!」


少年はそっと目をそらした。

どこか照れたような、小さな笑みが横顔に浮かんだ。


しばらくして、リセイラは改めて真剣な声音で尋ねた。


「ねぇ……

じゃあ私は、これから何をすればいい?」


少年は彼女を見つめた。

紅く揺れる災厄の空の下——

二人の視線が交差する。


少年は口元に淡い微笑を浮かべ、静かに言った。


「……これから本当に大事なお願いをします。

リセイラ様なら——できることです。」


そして少年の視線は、

天に大きく拡張していく赤い紋章へと向けられた。


戦いの引き金が、

まさに今、引かれようとしていた。

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