第52話 ― 終わりの見えない者
第52話 ― 終わりの見えない者
リセイラは少年と会話を交わしながら、
暴風の中にもかかわらず驚くほど楽しげな表情を浮かべていた。
二人の間には、戦争も災厄も忘れさせるほどの、
妙にあたたかい空気が流れていた。
しかし——
ドォォン!!!
突如、天から巨大な衝撃波が炸裂した。
空を走る赤い紋章が揺れ、
都市全体が激しく震動した。
少年とリセイラは同時に顔を上げた。
「……来ましたね。」少年は低く言った。
「だね。」
リセイラはいたずらっぽい笑みを消し、
戦士らしい鋭い眼差しへと変わった。
そしてふと少年の方へ向き直り、言った。
「そういえばさ、言うだけ言ってるのって不公平じゃない?」
「あとでちゃんと続き聞かせてよ。君の話も。」
少年は少し戸惑ったあと、小さく息を吐き、
静かにうなずいた。
彼女の微笑みは魅惑的でありながら、
どこかすべてを見透かすようでもあった。
少年は思った。
— この人、平凡な者じゃない。
— もしかすると伯爵より、いや今回の一連の英雄たちすら凌ぎ、
もっと中心に立つ存在かもしれない。
こんな年で本当に……大したものだ。
それにしてもアラヤの友なのか……。
「これほどの成功を導いておきながら、
報酬には興味も示さず、自身の素性も明かさない……
何者なんだ?」
少年がそんな思考に沈み、彼女を見つめると、
リセイラは指でVを作り、満面の笑みを浮かべた。
「今ね、私のこと強いって思ったでしょ?」
少年はびくりとし、うなずいた。
リセイラは口角を上げ、軽く言った。
「私はね、君が思ってるより——ずっと強いよ?」
少年はまたうなずいた。
その雰囲気全体が、確かにそう感じさせたからだ。
リセイラはしばらく沈黙した後、静かに続けた。
「だけどね……
私は人を見る目が、かなり確かなんだ。」
少年はぱちりと瞬きをした。
「君がどんな子か……少し見える。」
少年の表情は戸惑いで固まった。
「アラヤもものすごいよね。
才能も、可能性も。」
そしてリセイラは少年のすぐ目の前まで歩み寄った。
「でも……君はね、なんて言うか……終わりが見えない。」
「どこまで行けるのか、想像がつかない。」
「いや、そもそも“そういう尺度”の存在じゃないのかも。」
「本当に神秘的な子だよ、君は。」
少年の息が一瞬止まった。
彼女は微笑みながら言った。
「だから——」
少年は無意識に姿勢を正した。
「私が手を貸す代わりに、
君にも一つお願いを聞いてもらう。」
少年は薄く笑った。
「……言わなくても手伝ってくれるくせに。」
リセイラはうなずき、いたずらっぽく笑った。
「まぁ、そうだけど。はは!」
「でもね——報酬があった方がやる気って出るじゃん?」
少年は小さくため息をつき、尋ねた。
「……その報酬というのは何です?」
リセイラは唇をゆっくり持ち上げた。
半分は冗談、半分は本気。
どこか危うく、それでいて抗いがたい魅惑の笑みだった。




