第51話 ― 神鬼出没の聖女、リセイラ
第51話 ― 神鬼出没の聖女、リセイラ
兜が完全に外れた瞬間——
赤い霧のあいだから現れたその顔を見て、
少年は大きく目を見開いた。
そこには、
アラヤに匹敵するほど美しく気品ある美少女が立っていた。
光を含んだような美しい髪、
澄みきりながらも深い強さを宿す瞳、
微笑むと口元に浮かぶ悪戯めいた曲線。
暴風の中ですら揺るぎのない堂々たる態度は、
ただの戦士とは次元を異にしていた。
彼女は晴れやかに笑いながら言った。
「とりあえず、ここではね……
リセイラって呼んでおくといいわ。」
少年はすぐに姿勢を正し、
丁重に礼をして挨拶した。
その態度を見て、リセイラはくつくつ笑った。
「もう、そんなにかしこまることないのに。
あたし、堅苦しいの嫌いなんだよ。ははは!」
少年は一瞬ためらったあと、
慎重に問いかけた。
「もしかして……ロイドを知っているのですか?」
リセイラは大きく笑った。
「知ってるとも!
大の仲良しだよ。」
「歳は少し離れてるけど……まあ気にしないで?」
少年は小さく笑い、うなずいた。
「ということは……
あなたがその正体不明の協力者……で間違いないんですね?」
「それとも……神鬼の出没する聖女と呼ぶべきでしょうか?」
その言葉に、リセイラは腹を抱えて爆笑した。
「聖女? あははは! それはさすがに言いすぎじゃない?」
そう言うと、片目をつむり悪戯っぽくウィンクした。
「だったら神鬼出没の美少女って呼んでよ。」
少年は反射적으로顔を真っ赤にした。
彼女の笑みは、
嵐の中でも明るく鮮烈で、
少年さえ一瞬見惚れてしまうほどだった。
その時——
リセイラはそっと近づき、
少年の手を取った。
彼女の指先は温かく、そして揺るぎなかった。
一瞬、少年の心臓が大きく跳ねた。
「でもさ。」
リセイラは、
傷だらけの少年の身体、
流れ落ちた血、
危うい呼吸を見つめながら眉をひそめた。
「……君、何者?」
リセイラがあまりにも近くまで顔を寄せたため、
少年は慌てて後ずさった。
「い、いえ……その……。」
少年は耳まで真っ赤に染めながら、小さな声で言った。
「僕も……よく分からないんです。」
その姿を目にした瞬間、
リセイラは胸を押さえながら身を震わせた。
「だ、だめ……。」
「可愛すぎる……今のその顔、何……?」
風よりも速く近づき、
少年の顔を覗き込む。
「こんな面白い美少年が実在するなんて……
アラヤはこんなのを友にしてるの?」
少年は顔が爆発しそうなほど赤くなり、
言葉さえまともに出てこなかった。
「そ、そあの……リセイラさん……?」
「ん〜?」
彼女はさらに距離を詰めた。
少年は下がろうとしたが、
暴風のせいで逃げ場はもうなかった。
リセイラはイタズラな笑みを浮かべた。
「いいわ。
この災厄、あたしも一緒に止めてあげる。
その代わり——」
少年は息を呑んだ。
「あとで君の正体……
必ず教えてね?」
「本当にミステリアスな少年なんだから。はは。」
少年は静かにうなずいた。
暴風の中、二人を包む空気が
不可解な気配で震えていた。




