第49話
第49話
少年は黒い霧の中で、ゆっくりと息を吐きながら呟いた。
「……やはり、そうでしたね。
彼らは待機していたんです。
敵の指揮官は……かなり賢い。」
その言葉が終わるより先に、
遠くロイドが制圧していた地点から
空と大地を同時に震わせる巨大な振動が始まった。
都市の中心部がぶるりと揺れ、
奇怪な紋章が地表に浮かび上がるように刻まれた。
その紋章は赤と黒の光を交差させながら回転した。
中心では、まるで心臓が脈打つように、
「ドン……ドン……」
音波のような衝撃が都市全体へ拡散していった。
そして——
すべての建物が崩れ始めた。
まず亀裂が走り、
続いて柱が折れ、
壁も屋根も次々と崩落していった。
都市の形そのものが崩壊し始めている。
少年は灰と塵の破片にまみれながら、
揺るぎのない声で状況を分析した。
「ここから、とんでもない次元の……
破滅の炎柱が立ち上がるはずです。」
紋章はさらに拡大していた。
「そしてその炎柱の中心で
兵力を大量に召喚し、
北側防衛線を破壊して——
中央王国まで、一気に押し流す。」
彼の視線は紋章の回転とともに、
都市全体に生じる亀裂を追いかけた。
「もしこれが発動すれば……
連動効果で他の都市国家拠点でも
災厄が連鎖的に吹き荒れます。」
もはや都市アスティラだけの問題ではない。
嵐のような拡散だ。
「効率的ですね。
たった一つの都市を利用して
前線をすべて破砕しようという戦略。」
少年は静かに二つの鉱石を握りしめた。
「ですが……ここで止められれば
他の場所でも彼らの計画に亀裂が走る。」
その口調はまるで、
既に敵の全戦略を把握している者のように
冷静で分析的だった。
少年は紋章を見据え、低く笑った。
「それだけ……
ここで成功する自信があるということですか?」
少年は微笑みながら言葉を続けた。
「……いくつか限界も見えます。」
赤い紋章がさらに輝きを増し、
地面から黒い気配が噴き上がり始めた。
「まず……
そんな旧式の魔術を使うなんて。」
少年の目がゆっくりと細められた。
「ずいぶん……未熟ですね。
もちろん、それでも
この時代では致命的でしょうけど。」
彼の足元で小石が震えた。
都市全体が最終段階へ向け動き出した。
そして——
都市の破滅が開始された。
空と大地が同時に裂け、
黒と赤の嵐が内側から爆発した。
その気配は都市の境界を越え、
近隣の都市国家にまで
不吉な波動を放った。
遠く離れた都市でも、
突如として空が揺れ、
大地が震える現象が報告され始めた。
鳥は飛行を乱し、
馬車や獣が狂乱し、
斥候たちは突然の混乱に悲鳴を上げた。
帝国全域に、
正体不明の警告灯が灯り始めた。
破滅が、
とうとう門を開こうとしていた。




