第41話
第41話
少年は、水音が変わっていく方向へと歩みを進めていった。
穏やかだった流れは、次第に渦を巻くようにうねりはじめ、
どこか涼やかで澄んだ気配が空気の隙間から立ちのぼる。
その気配は、指先をかすめる風のように
ゆっくりと少年の身体を包みはじめていた。
少年はその音に導かれるように、さらに奥へ――
そしてほどなくして、広大な地下湖のような空間に辿り着いた。
少年は水際で立ち止まった。
「……入れということでしょうか。」
小さく呟き、彼は慎重に足を水へと踏み入れた。
水は冷たかった。
だが深くはなく、太ももほどの高さまで穏やかに満ちている。
その冷たさが、傷んだ身体と傷口へひたひたと染み込んでくる。
少年は静かに歩みを進めた。
遠くで反射する水の光が、淡くゆらめきながら
まるで呼吸しているかのように揺れ動き、
少年をその先へと誘っていた。
歩みを進めるたび、
少年の身体に付いた血や埃、汚れが
水流に溶けるように洗い流されていく。
水は澄みきって冷たく、
どこか清められるような感覚があった。
途中、水の流れが急に強まり
少年の身体を揺らすほど押し寄せたが、
彼はどうにか踏ん張り、前へ歩くのをやめなかった。
しばらく進むと、やがて水面から突き出た小さな陸地を見つけた。
少年はゆっくりとそこへ上がった。
濡れた足先から水が滴り落ちる。
そして――
その光が揺らめく方向へ歩み出した瞬間、
少年は息を呑んで立ち尽くした。
そこにあったのは、
まるで石となり、時に固められた“何か”であった。
土か、岩か、あるいは化石なのか――判然としない。
だが、その形状はどう見ても「骨」に近かった。
どれほど古き時代のものだとしても、
この場所で、まさかこんな形を目にするとは思っていなかった。
少年はゆっくりと近づき、
その骨とも化石とも言えぬ残骸を見つめた。
それは――
確かに、“何者か”の残影であった。




