第40話
第40話
少年は一人、さらに深い地底へと足を踏み入れていった。
松明だけが前方をかろうじて照らし、
目的の鉱石は未だ姿を見せない。
ここから先は――まさに運に委ねるしかなかった。
地下空間を探り当てただけでも幸運だと言えたが、
目当ての希少鉱石を見つけるのは
それより遥かに困難な作業だった。
少年は長いこと歩き続けた。
傷と疲労が全身を蝕み、感覚が鈍くなっていく。
それでも足を止めることはなかった。
歩きながら、ふと胸の奥にざらりとした思念が浮かんだ。
「……本当に、始めていいのだろうか。
まだ“その時”ではないのでは……。」
得体の知れない拒絶感のようなものが、
じわりと心の底から滲み出してくる。
「……俺は愚かだな。
俺は一体、何者で……なぜここにいる?
俺が介入していい存在なのか……。」
独り言にしてはあまりに不穏な言葉が零れ、
少年ははっと我に返ったように頭を振った。
「……今は余計なことを考えるべきではありません。
無意味な雑念ですね……。」
彼は再び松明を掲げ、捜索を続けた。
だが疲労は限界に近づき、意識が霞み始める。
「急がなければ……困りましたね。」
負傷の痛みが深く沈み込み、
身体のあちこちから血が流れ続けていた。
少年は掌に滴った自らの血を見つめ、
松明の光にかざした。
そして、それを舌で味わった。
しばしの間、彼は静かに、
しかし深い思索に沈んでいるようだった。
「…………。」
大きく息を吐き出し、彼は再び歩き出した。
さらに深い場所――地底の心臓部へ向かって。
やがて、水音の質が変わり始めた。
静かな地下水の流れは、
渦を巻くような荒々しい響きへと変わっていき、
その奥からは冷たい気配が立ち昇っていた。
少年はその音へ向かって、
一歩……また一歩と進んでいった。




