第39話
第39話
ロイドと少年は準備を整えると、
崩れ落ちた酒場の床に開いた――
底の見えない深淵を覗き込んだ。
「行くぞ。しっかり掴まれ。」
その言葉が終わるより早く、
ロイドは光の届かぬ闇へと飛び込んだ。
少年は彼の背にしがみつき、両腕で強く抱きついた。
二人は何度も空気を裂きながら落下した。
下へ進むほど光は消え、
黒墨のような闇が二人を飲み込んでいく。
やがて――
ぽすっ。
ほとんど衝撃を感じることなく、
二人は柔らかな土の上へ無事に着地した。
ロイドは足元を見つめ、驚嘆の息を漏らした。
「……まさか。
俺の酒場の真下に、こんな巨大な地下空間があったとはな。」
彼は懐から小さな火種を取り出し、松明に火を灯した。
燃え上がる炎が周囲を照らし、
広大な空洞が姿を現す。
「洞窟……いや、ほとんど地下湖の規模だな。」
壁のあちこちで金属光沢が反射していた。
岩壁そのものが鉱石で覆われているのだ。
ロイドは息を呑んだ。
「こりゃ……すげぇな。
お前……どうやって知った?」
少年は小さく微笑んだ。
「以前読んだ古文書のおかげです。
それに……少しは勘もありましたから。
……あとは運ですね。」
「勘だと?」
ロイドは呆れたように笑った。
「ハハハ! まあいい。大したもんだ。」
彼は岩壁の鉱脈に触れながら言った。
「さあ探すぞ。
お前の言ってた“特定の鉱石”、どこかにあるはずだ。」
そのときロイドは足元の奥を照らし、低く呟いた。
「……ん? 下へ続く道があるな。
その先で地下水が流れてる。」
少年は静かに頷いた。
「……地底の規模は想像以上に大きいようですね。
二手に分かれたほうが早いでしょう。」
「よし。見つけたら大声で叫べ。
俺もそうする。」
少年はまたひとつ頷いた。
二人はそれぞれ松明を掲げ、別々の通路へと進んでいった。
少年の歩く道には、
長い年月で浸食された岩層が幾重にも露出し、
地下水が削り出した細い峡谷や洞窟が
蜃気楼のように続いていた。
地の底にしかない湿り気を帯びた匂い。
深く重たい沈黙。
長い時間を閉じ込めてきたかのような、静謐な美しさ。
少年はゆっくりと歩みを進めた。
松明が揺れるたびに、
暗闇の奥で光る鉱石の残光が
まるで呼吸するように淡く瞬いた。




