第35話
第35話
「……ここで最低五人は死ぬ。」
ロイドの言葉が会議場を切り裂くと、
空気は一瞬にして凍りついた。
だが、その沈黙は長く続かなかった。
「……私が行きます。」
「俺もだ。」
「私も。」
一人、また一人と前へ歩み出た。
彼らの顔には恐怖よりも、
むしろ固い決意がはっきりと刻まれていた。
ロイドが前に出て言った。
「その任務なら……俺が――」
しかし、すぐに複数の手が彼の前に立ちはだかった。
「お前は駄目だ。」
「ロイド、お前は指揮を執れ。」
「お前まで突っ込んだら、誰の命令を聞けばいいんだよ。」
誰が言い出したわけでもないのに、
自然と全員がロイドを止めていた。
「……ちくしょう。」
ロイドは歯を食いしばったが、
彼らの本心を理解していたため、無理に押し切ろうとはしなかった。
代わりに、
指揮と鉱石採掘に関わる任務を、
ロイドと少年――二人が担う形となった。
奇妙な組み合わせだったが、
誰一人として反対しなかった。
むしろそれが一番自然だと言わんばかりの表情だった。
その後、雰囲気はすぐに変わり始めた。
各隊は再び活気を取り戻し、
重苦しかった空気が晴れていき、
不思議なほど士気が上がっていった。
そのとき――
ロイドは違和感を覚えた。
皆が明るく決意を固めているというのに――
少年が静かに涙を流していた。
だがそれは悲しみの涙ではなかった。
涙の奥に、
彼は穏やかな笑みを浮かべていた。
「……いい光景ですね。」
少年が小さく言った。
ロイドはその顔を見て、
なぜか胸が熱くなった。
「ああ、だろう?」
彼は豪快に笑い返した。
すると少年は顔を上げ、
ロイドにだけ聞こえるほどの声で告げた。
「座標をひとつ、追加してください。
正確にここ……そして、ここです。」
少年が指し示した地図上の点は、
異様なほど精密だった。
そして続いた言葉は、さらに奇妙だった。
「ただし、彼らには絶対に知らせないでください。
……誰にも。」
ロイドは言葉を失った。
少年のわずかに沈んだ瞳は
いつもと同じように静かだったが、
その奥に何か隠されたものを感じさせた。
「お前……何を考えて――」
少年は首を振った。
「これは、もっとも危険で、
もっとも不確実で、
もっとも失敗しやすい方法です。」
そして静かに付け加えた。
「ロイドさんも……覚悟しておいてください。」
その一言の重さが、
ロイドの胸に深く沈んだ。
しばらくして、少年はほんの小さな、
聞こえるか聞こえないかほどの声でつぶやいた。
「……やっぱり、予想通りですね。」
その意味を理解できる者は誰もいなかった。
しかし、
少年の表情は信じられないほど真剣だった。
ロイドはその顔を見つめ、
何も言わずに頷いた。
すると少年は、
ほんの少しだけからかうような表情で言った。
「失望させないでくださいよ、
《黄金の獅子》の……ロイド。」
その絶妙な“挑発”に、
ロイドは呆然と少年を見つめた。
そして――
盛大に笑い声を上げた。
「ハハハハハ!
いいぞ!
やっぱりお前……ただのガキじゃねぇ!」
彼らの笑い声が、
嵐の前の短い静寂のように、
廃墟の会議室に響き渡った。




