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第30話

第30話



少年は壁にもたれかかり、血を吐きながら荒い息を繰り返していた。

視界は揺れ、顎の下からゆっくりと血が垂れ落ちる。


怪物と化した男がゆっくりと近づき、低く言った。


「話せ。あの女は……どこにいる。」


少年は震える手をどうにか持ち上げた。

そして空を切るように、北の方角へ指先を伸ばした。


怪物はその指が示す先へと視線を向ける。


遥か彼方、紅く染まる空の下――

北方の防衛陣で、巨大な変化が起きていた。


術式が再構成されるような光。

空気を揺らすさざ波のような歪み。

城壁と城門の上へ、一斉に広がる青い気配。


怪物は低く呟いた。


「……なんだ?

何かが変わっている。

いったい……何が起きている?」


少年は血まみれの顔で、かすかな笑みを浮かべた。


「さあ……。」


揺らぐ視線の奥が、淡く光った。


「姉さん……文字の解読が終わったんだな。

これで……作戦を本格的に動かし始めた……。」


怪物はその言葉に反応し、赤い瞳をいっそう不気味に輝かせた。


「やはり……あの女か。

探さねば……。」


その瞬間、周囲の敵兵たちが一斉に動いた。


「今だ!」

「こいつを先に殺せ!」


数十の刃が少年へ殺到する刹那――


ヒュッ。


空気が裂ける音がした。


そして次の瞬間。


ドッ!!


敵兵の一人の上半身が丸ごと切り飛ばされた。

切断された肉体は赤い炎に包まれ、燃え尽きるように消えた。


続けて――


ドン! ドン! ドン!


瞬く間に三人、四人、五人。

敵兵たちの身体が次々と真っ二つに裂けた。

いずれも炎のごとく燃え上がり、灰のように散った。


怪物が息を呑む。


「……何だ?」


少年もゆっくりと顔を上げた。


そして、聞こえた。


あまりにも馴染み深く、

しかし圧倒的な威圧を帯びたあの声。


「おやおや……これは、誰かと思えば。

うちの坊やじゃないか。」


炎の向こうを、黄金色の影がかすめるように現れた。


「もう次の街へ向かったんじゃなかったのか?」


少年は半ば閉じた目でその人物を見つめた。


アラヤの《黄金獅子亭》の店主――

まさにその男だった。


穏やかな微笑みを浮かべてはいたが、

彼の足元で燃え上がる黄金の火炎は、

まるで獣が唸るかのように荒々しく揺れていた。


「……獅子のおじさん……?」


少年が苦しげに呟くと、

黄金獅子亭の主人は首を軽く傾げて言った。


「遅れてすまんな、坊や。

街がちょいと……騒がしくてね。」


男の背後で、

金色の術式が獅子のたてがみのように散り、燃え上がった。


そして空気が震える。


「さあ、ここから先は大人の出番だ。」


少年の前に立ちふさがっていた絶望は、一瞬にして反転した。

黄金の獅子の爪が、正体不明の闇の気配へ真っ向からぶつかり合っていた。

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